経営者の退職金、どう作る? 4つの主要制度「小規模共済」「確定拠出年金」「保険」「内部留保」を徹底比較

会社の経営に日々尽力されている経営者の皆様。ご自身の「引退後」の生活資金、つまり「退職金」の準備は万全でしょうか?
会社員と異なり、経営者には自動的に用意される退職金制度はありません。ご自身で意識的に、かつ戦略的に準備する必要があります。
しかし、「役員報酬を上げて貯蓄する」だけでは高額な社会保険料や所得税が引かれますし、「会社にお金を残す」だけでは法人税がかかります。
経営者の退職金準備は、ご自身の会社の状況や目的に合わせて、最適な手段を選ぶ「財務戦略」そのものです。この記事では、主要な4つの選択肢、「小規模企業共済」「確定拠出年金」「保険」「利益余剰金(内部留保)」を徹底比較し、それぞれの特徴を解説します。
目次
経営者の退職金準備 4つの選択肢
どの方法にもメリットとデメリットがあり、経営者ご自身や会社の状況によって最適な選択は異なります。それぞれの「お金の出どころ」と「税制上の扱い」の違いに注目して見ていきましょう。
- 小規模企業共済:【個人】のお金で積み立て、個人の税金(所得税・住民税)を節税する。
- 確定拠出年金:【会社または個人】のお金で積み立て、税制優遇を受けながら運用する。
- 保険(法人契約):【会社】のお金で積み立て、法人税の負担を調整しつつ保障も得る。
- 利益余剰金(内部留保):【会社】に利益を蓄積し、退職時に「役員退職金」として受け取る。
各論:4つの選択肢を徹底解説
選択肢①:小規模企業共済
国が運営する「経営者・役員・個人事業主のための退職金制度」です。
メリット
- 掛金が全額「所得控除」:
月額最大7万円(年84万円)まで、支払った掛金の全額が個人の課税所得から控除されます。所得税・住民税が直接安くなる、分かりやすい節税効果があります。 - 受取時の税制優遇:
受け取る際は、「退職所得」または「公的年金等の雑所得」として扱われ、税負担が大幅に軽減されます。 - 貸付制度:
納めた掛金の範囲内で、事業資金等の低利な貸付を利用できます。
デメリット・注意点
- 加入条件がある:
その名の通り、加入できるのは「小規模企業」の経営者や役員、個人事業主に限られます。常時使用する従業員数が20人以下(商業・サービス業は5人以下)など、業種ごとに定められた条件を満たす必要があります。 - 社会保険料は減らない:
掛金は「所得控除」であり、役員報酬から社会保険料が引かれた 後 の所得から控除されます。そのため、社会保険料の削減効果はありません。 - 短期解約で元本割れリスク:
加入期間が20年(240ヶ月)未満で任意解約すると、掛金合計額を下回る(元本割れする)可能性があります。
選択肢②:確定拠出年金(企業型DC / iDeCo)
ご自身で運用商品を選び、将来の年金資産を育てる制度です。経営者にとっては、会社として導入する「企業型DC」と、個人で加入する「iDeCo」の2つの選択肢があります。
メリット
- 3段階の税制優遇:
拠出時: 掛金が全額所得控除(iDeCo)または会社の損金(企業型DC)になります。
運用時: 運用で得られた利益(通常約20%課税)が全額非課税で再投資されます。
受取時: 退職所得控除などの優遇が受けられます。 - 社会保険料の扱い(企業型DC):
「企業型DC」の場合、会社が拠出する掛金は役員報酬とは見なされません。そのため、社会保険料の算定基礎に含まれない点は、他の制度にはない大きな特徴です。 - 運用による資産成長:
国内外の株式や債券などで運用することで、インフレを上回る資産成長も期待できます。
デメリット・注意点
- 原則60歳まで引き出し不可:
老後資金のための制度なので、途中で資金が必要になっても引き出せません。 - 自己責任の運用:
運用成果は自己責任です。元本確保型の商品も選べますが、投資商品を選んだ場合は元本割れのリスクもあります。 - 制度導入・維持コスト:
特に企業型DCは、会社として制度を導入・維持するための運営管理コストが発生します。
選択肢③:保険(法人契約の生命保険)
会社(法人)が契約者となり、経営者を被保険者とする生命保険(逓増定期保険や長期平準定期保険など)を活用する方法です。
メリット
- 保障機能:
経営者に万が一(死亡・高度障害)があった場合、保険金が会社に入るため、事業保障(借入金返済、当面の運転資金)や死亡退職金の原資になります。 - 法人税の繰り延べ:
保険の種類や契約形態によりますが、支払う保険料の一部または全部を会社の経費(損金)に算入でき、その期の法人税負担を軽減(繰り延べ)できます。 - 任意のタイミングで解約可:
60歳といった年齢制限はなく、会社の任意のタイミング(経営者の退職時など)で解約し、解約返戻金を退職金原資に充てることができます。
デメリット・注意点
- 出口戦略が必須:
解約返戻金は会社の「益金」(収益)となります。退職金の支払いと相殺するなどの「出口戦略」を計画的に行わないと、解約した期に多額の法人税が発生します。 - 税制改正リスク:
保険の損金算入ルールは、頻繁に変更(厳格化)されます。 - 早期解約の元本割れ:
解約返戻率がピークに達する前に解約すると、支払った保険料総額を大きく下回る(元本割れする)可能性が高いです。
選択肢④:利益余剰金(内部留保)
制度に頼らず、会社に利益を蓄積(内部留保)し、経営者の退職時に「役員退職金」として会社から一括で受け取る方法です。
メリット
- シンプルかつ流動性が高い:
特別な手続きや金融商品の制約がなく、会社が稼いだ利益をそのまま蓄積するだけです。その資金は退職金原資であると同時に、会社の運転資金や投資資金としても自由に活用できます。 - 受取時の税制優遇:
「役員退職金」として受け取ることで、非常に優遇された「退職所得控除」を適用でき、個人の税負担を大幅に抑えられます。 - 経営の安定:
厚い内部留保は、そのまま会社の信用力となり、金融機関からの評価や不測の事態への対応力を高めます。
デメリット・注意点
- 法人税が課税された後のお金:
内部留保は、あくまで「法人税などを支払った後」に残ったお金です。税制優遇を受けながら積み立てる他の方法とは根本的に異なります。 - 資金のロック:
会社の業績が悪化したり、運転資金として使ってしまったりすると、いざ退職する時に十分な現金が残っていない可能性があります。 - インフレリスク:
会社の現預金として持ち続ける場合、運用しなければインフレによって価値が目減りします。
【比較表】経営者の退職金準備 4つの選択肢
| 比較項目 | ① 小規模企業共済 | ② 確定拠出年金 (企業型/iDeCo) | ③ 保険(法人) | ④ 利益余剰金 (内部留保) |
|---|---|---|---|---|
| 拠出者 | 個人 | 会社 / 個人 | 会社 | 会社(利益の蓄積) |
| 原資の扱い | 個人の所得控除 (社保控除後) | 損金/所得控除 (社保算定外 ※企業型) | 会社の損金(※) (税の繰延べ) | 法人税課税後 (利益) |
| 社会保険料 | 削減効果なし | 削減効果あり (企業型DCの場合) | 削減効果なし | 削減効果なし |
| 運用 | 国(中小機構) | 自分で運用 | 保険会社が運用 | 会社が事業等で運用 |
| 運用益 | 予定利率(ほぼ固定) | 非課税 | 課税対象(※) | 課税対象(事業収益) |
| 流動性 | △(貸付制度あり) | ×(原則60歳まで不可) | △(早期解約で元本割れ) | ◎(会社の資金として自由) |
| 加入条件 | あり(小規模限定) | ほぼ なし | なし | なし |
まとめ:最適な戦略は「目的」と「併用」
ここまで4つの選択肢を見てきた通り、「これさえやっておけば完璧」という単一の正解はありません。
- ✅ 「小規模企業共済」は、加入条件(従業員数)に当てはまるなら、手軽に個人の節税を始められる堅実な選択肢です。
- ✅ 「保険」は、万が一の事業保障を最優先に考え、中長期の出口戦略を税理士と描ける場合に有効です。
- ✅ 「利益余剰金」は、会社の財務基盤を固め、流動性を確保する上で必須ですが、資産形成の効率だけ見ると他の選択肢に劣る側面があります。
- ✅ 「確定拠出年金」は、運用益非課税のメリットがあり、特に「企業型DC」は社会保険料の算定基礎に含まれないという点で、資産形成の「効率」を重視する経営者にとって、非常に有力な選択肢となるでしょう。
大切なのは、これらの制度の特徴を理解し、ご自身の会社の規模、従業員の有無、保障の必要性、そして将来の目標額に応じて、これらを賢く「併用」することです。
まずは、どの制度がご自身の会社と目的に最も合っているか、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

