中小企業の退職金制度・3つの選択肢|経営者が知っておきたい比較ポイント

📋 この記事でわかること

  • 中小企業に退職金制度が必要な3つの戦略的理由
  • 中退共・企業型DC・退職一時金の特徴とメリット・デメリット
  • 3つの制度の比較と、自社に合う制度の選び方

「会社として退職金制度を整えたいが、何から検討すべきか分からない」――そう感じている経営者の方は少なくありません。中小企業に向けた退職金制度には、大きく分けて3つの選択肢があります。この記事では、それぞれの特徴を比較しつつ、自社に合うかを判断する考え方を整理します。

そもそも「退職金制度」は中小企業に必要か?

最初に、根本的な話から入ります。

退職金制度の整備は、法律上の義務ではありません。従業員10名以上の事業所であっても、退職金規程の作成は任意です。「制度がなくても違法ではない」というのが、まず押さえたい前提です。

ただし、現実的には、退職金制度を整えるメリットは大きいと言えます。中小企業の経営者にとって、退職金制度は次の3つの観点から戦略的な意味を持ちます。

採用力 求職者が企業選びの際に重視する要素のひとつ
定着力 長く勤めるインセンティブとして機能する
経営者ご自身の備え 制度設計次第で、経営者自身の老後資金にもつながる

「義務だから作る」ではなく、「経営戦略として整える」発想で考えるのが、中小企業の経営者にとっては現実的な向き合い方です。

選択肢1:中退共(中小企業退職金共済)

中退共は、独立行政法人 勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの国の退職金共済制度です。中小企業の退職金制度として、最もスタンダードな選択肢です。

特徴

会社が毎月の掛金を共済機構に納め、社員が退職した際に共済機構から直接退職金が支払われる仕組みです。掛金は月額5,000円〜30,000円の範囲で、社員ごとに設定できます。

メリット

  • 国の助成金:新規加入時や掛金増額時に、一定期間の掛金の一部を国が助成
  • 税制優遇:会社が支払う掛金は全額損金算入が可能
  • 運営の手軽さ:制度設計や運用を自社で行う必要がない
  • 社員から見た透明性:退職時に共済機構から直接支払われるため、会社の業績に左右されない安心感がある

デメリット・留意点

  • ! 運用利回りは固定:市場運用ではないため、大きく増やすことは期待できない
  • ! 経営者本人は加入できない:中退共は従業員のための制度で、役員(経営者)は対象外
  • ! 減額や脱退の自由度が低い:いったん加入した社員の掛金を減額するには手続きと条件がある

向いている会社

退職金制度を「シンプルに、確実に整えたい」会社。経営者ご自身の備えは別の方法(小規模企業共済など)で考え、社員のための制度は中退共で整える、という使い分けをする会社が多いのが実情です。

選択肢2:企業型DC(確定拠出年金)

企業型DCは、会社が制度として導入する確定拠出年金です。前回の記事(企業型DCとiDeCoの違いを3分で整理)で詳しく扱いましたので、ここでは「退職金制度の選択肢」としての位置づけを整理します。

特徴

会社または社員自身が掛金を拠出し、加入者(社員・経営者)がその掛金を自分で運用する制度です。退職時の受取額は、運用成績によって変わります。

メリット

  • 経営者本人も加入できる:中退共と異なり、経営者ご自身も加入者になれる
  • 設計の自由度:会社が拠出する型・社員自身が拠出する型(選択制)・両者を組み合わせる型など、複数の設計パターンを選べる
  • 税制優遇:会社拠出は損金算入、社員拠出(選択制)は社会保険料の算定基礎から外れる仕組み
  • 運用次第で増える可能性:長期運用により資産が育つ可能性がある

デメリット・留意点

  • ! 運用リスクは加入者側:運用成績によっては、想定より受取額が少なくなる可能性がある
  • ! 制度設計と運営の手間:制度導入時に社員説明・運営管理機関の選定などが必要
  • ! 選択制を採用する場合は、社員の手取り・社会保険料・将来の年金額への影響について丁寧な説明と同意が不可欠

向いている会社

経営者ご自身も制度に加入したい会社、福利厚生として「自分で運用できる仕組み」を社員に提供したい会社、会社の追加負担を抑えながら制度を整えたい会社などが該当します。

選択肢3:退職一時金制度(退職金規程による)

退職一時金制度は、会社が独自に作る退職金制度です。就業規則または退職金規程の中で「勤続年数◯年以上で◯万円」といった支給ルールを定め、退職時に会社が直接支払う形を取ります。

特徴

中退共や企業型DCのような外部の制度ではなく、会社内部で支給ルールを決め、退職金として会社の現金から直接支払うのが基本形です。

メリット

  • 設計の自由度が最も高い:勤続年数・役職・評価などを反映した独自のルールを作れる
  • 会社の独自色を出せる:理念や評価制度と連動した退職金制度の設計が可能
  • 経営者本人にも適用できる:役員退職慰労金として、経営者ご自身の退職金も設計しうる(株主総会決議など別途要件あり)

デメリット・留意点

  • ! 将来の支払い負担が会社に残る:退職金は将来必ず発生する債務として計上が必要
  • ! キャッシュフロー管理が必要:退職時にまとまった支払いが発生するため、計画的な準備が欠かせない
  • ! 制度設計と規程整備の手間:就業規則・退職金規程の整備、社労士・税理士との連携が必要
  • ! 「内部留保」だけで備えると、いざというときに資金不足のリスク

向いている会社

キャッシュ余力があり、独自の評価制度や経営理念を退職金制度にも反映させたい会社。または、中退共・企業型DCと組み合わせて、制度の上乗せ部分として活用する会社もあります。

3つを比較する表

3つの選択肢を、5つの観点で比較してまとめます。

※表は横にスクロールできます →
比較軸中退共企業型DC退職一時金
① 掛金の負担会社会社・社員
(選択制)
会社
(内部留保)
② 経営者本人が加入できるかできないできるできる
(規程による)
③ 設計の自由度
④ 社員から見た透明性
(共済機構から直接支給)

(個人口座で残高が見える)

(会社の支払い能力に依存)
⑤ 手続き・運営の手間中〜高

※ 上記は制度上の一般的な整理です。具体的な金額や効果は、加入者の状況・会社の規模・他制度との併用状況により異なります。導入をご検討の際は、専門家にご相談ください。

選び方:3つの問いで考える

「結局どれが自社に合うのか」を判断するために、3つの問いで考えるのがおすすめです。

1 【問い1】経営者ご自身も備えたいか?

YESの場合 → 企業型DCまたは退職一時金が候補。中退共は経営者本人は対象外のため、別途、小規模企業共済などで個人の備えを整える必要があります。

2 【問い2】制度設計と運営の手間をどこまでかけられるか?

「シンプルに整えたい」が優先なら 中退共
「設計の自由度を取りたい」なら 企業型DC または 退職一時金

3 【問い3】会社の追加負担を抑えたいか?

抑えたい場合 → 企業型DC(選択制)が選択肢に入る
ただし、選択制DCは社員への影響(手取り・社保・将来年金)があるため、社員への丁寧な説明と同意が前提となります。

実際には、これら3つを「単独で導入する」だけでなく、「中退共+退職一時金」「企業型DC+退職一時金」のように組み合わせて整えるケースもあります。自社の規模・既存制度・経営方針によって、最適解は変わります。

まとめ

  • 中小企業の退職金制度には、中退共・企業型DC・退職一時金という3つの基本的な選択肢がある
  • 経営者ご自身も備えたいなら、中退共単独ではなく、企業型DCや退職一時金、または小規模企業共済との組み合わせを検討する
  • 「どれを選ぶか」ではなく「自社の状況にどう組み合わせるか」という発想で整理するのが現実的

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よくある質問(FAQ)

ここから先は、よくいただくご質問への簡単な補足です。

Q

中退共と企業型DCは併用できる?

A

ケースによって異なります。一般的には併用も可能ですが、退職金規程の整理や、それぞれの掛金水準の調整が必要になります。「中退共を主軸に、企業型DCを上乗せ部分として導入する」という設計パターンもあります。具体的な進め方は個別相談でご相談ください。

Q

退職一時金から中退共・企業型DCに移行できる?

A

移行は可能です。ただし、既存の退職一時金制度の内容や、これまで積み上がった退職金債務の扱いなど、整理すべき論点が複数あります。社員への説明と同意も重要なステップです。移行の進め方は、ケースごとに専門家を交えて検討するのが確実です。

Q

創業3年未満の会社でも、退職金制度は導入できる?

A

導入自体は可能です。中退共は新設企業でも加入できますし、企業型DC・退職一時金も同様です。ただし、創業初期は会社のキャッシュフローが安定していないため、「まずは経営者ご自身の備え(小規模企業共済など)を優先し、社員向けの退職金制度は事業フェーズが落ち着いてから」という判断をする会社もあります。

Q

「会社の負担を最小限にしたい」場合、どれが最適?

A

会社の追加コストを抑えながら制度を整えたい場合、企業型DCの「選択制」という設計が選択肢に入ります。これは社員自身が給与の一部を拠出に回す仕組みで、会社の追加負担を抑えつつ退職金制度を整える方法です。ただし、社員の手取り・社会保険料・将来の年金額に影響するため、社員への丁寧な説明と同意が前提になります。安易な節税策としてではなく、社員への説明責任を果たせる設計かどうかをご検討ください。

Q

生命保険を使った退職金準備という方法も聞きますが?

A

中小企業の退職金準備として、養老保険などを活用するアプローチも存在します。会社が契約者・社員が被保険者となり、満期保険金を退職金原資に充てるという考え方です。ただし、この方法は保険商品の設計や税務上の取り扱いが複雑であり、また保険商品の選び方によって効果が大きく変わります。中退共・企業型DC・退職一時金という基本的な選択肢を整理した上で、補完的に検討するのがおすすめです。

Q

退職金制度を作るのに、どれくらい時間がかかる?

A

制度によって異なります。中退共は加入手続きから比較的短期間で運用開始できます。企業型DCは制度設計・運営管理機関の選定・社員説明など複数のステップがあり、3〜6ヶ月程度を見込むのが一般的です。退職一時金は規程の整備期間に加え、税理士・社労士との連携が必要になります。

この記事の執筆者

北郷 拓郎 (株式会社FGパートナーズ 代表)

法政大学卒業後、国内大手証券会社にて8年勤務。富裕層・法人向けの資産運用コンサルティングに従事した後、2021年に独立。現在は中小企業向けの企業型DC設計支援を専門としています。

【免責事項】

本記事は、中小企業の退職金制度に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は2026年5月時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の制度導入・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。