選択制DCの「生涯設計手当」で最低賃金割れ?導入前に必ず確認すべき労務チェック

選択制DCの「生涯設計手当」で最低賃金割れ?導入前に必ず確認すべき労務チェック

選択制DC(選択制の企業型確定拠出年金)は、社会保険料の軽減や従業員の資産形成といったメリットで注目されています。しかし、その導入実務で最も見落とされやすい落とし穴が、最低賃金との抵触です。

設計を誤ると、知らないうちに一部の従業員の賃金が最低賃金を下回り、最低賃金法違反になってしまうことがあります。しかも最低賃金は毎年引き上げられているため、導入した年は問題がなくても、翌年以降に割り込んでしまう「時限爆弾」のようなリスクもあります。

そしてその爆弾は、今年まさに作動します。 2026年9月3日、全47都道府県の令和8年度改定額が出そろいました。答申ベースの全国加重平均は1,177円(前年度から56円の引き上げ)で、新しい額は10月1日から12月2日にかけて順次発効します。去年は余裕があった会社が、今年割り込むという事態が現実に起こります。

この記事では、なぜ選択制DCで最低賃金割れが起きるのか、その仕組みを正確に整理したうえで、導入前と改定前に必ず確認すべき労務チェックと、割れを防ぐ設計の考え方を解説します。

📋 この記事でわかること

  • 選択制DCの「生涯設計手当」と最低賃金の正しい関係
  • なぜ、どんな従業員で最低賃金割れが起きやすいのか
  • 2026年10月の改定で「去年はセーフ、今年アウト」になる具体例
  • 最低賃金を下回ったときに会社が負うリスク
  • 導入前と毎年の改定前に確認すべきチェックポイント

1. 生涯設計手当とは?選択制DCの「受け皿」

まず、仕組みを押さえましょう。選択制DCを導入するときは、給与とは別に「生涯設計手当」という項目を規程で定め、給与の一部をこの手当に振り替えます(「ライフプラン手当」などと呼ぶこともあります)。

従業員は、この生涯設計手当を次の2つから選べます。ひとつはDCの掛金として拠出して老後に積み立てる、もうひとつは現金給与(前払退職金)として今受け取る、です。掛金として拠出した分は所得税・住民税・社会保険料の対象から外れるため、手取りや社会保険料が変わってきます。掛金にするか給与でもらうかを従業員自身が選べる——これが「選択制」と呼ばれる理由です。

2. なぜ選択制DCで最低賃金との抵触が起きるのか

ここが記事の核心です。誤解されやすいので、正確に整理します。

1大前提:生涯設計手当は「賃金」なので最低賃金に算入する

まず押さえたいのは、生涯設計手当そのものは賃金であり、最低賃金の計算に含まれるということです。手当という名前でも、給与から振り替えただけの支払われる賃金なので、最賃判定の対象から外れるわけではありません。

2ただし、DC掛金として拠出した分は差し引く

一方、従業員がその生涯設計手当のうちDCの掛金として拠出することを選んだ額は、本人に支払われる賃金ではなく、会社が資産管理機関に拠出する「事業主掛金」になります。最低賃金法上の「賃金」は労働基準法第11条の賃金と同じ意味なので(最低賃金法第2条第3号)、この部分は最低賃金の対象となる賃金に含めない、というのが実務上の整理です。

ただし、厚生労働省がこの点を正面から示した通達はありません。規約・賃金規程で「掛金として拠出された部分は賃金として支払わない」ことを明確にしたうえで、自社の設計を社会保険労務士に確認しておくことをおすすめします。

なお、この掛金に所得税・住民税がかからないのは所得税法施行令第64条によるものですが、税法上の扱いと最低賃金法上の扱いは別の判断です。「非課税だから最低賃金にも入らない」という理解ではない点に注意してください。

割増賃金と平均賃金にも同じことが起きる

「掛金として拠出した分は賃金ではない」という整理は、最低賃金だけの話ではありません。割増賃金(残業代)の算定基礎からも、平均賃金からも同じように外れます。

労働基準法第37条第5項と同法施行規則第21条は、割増賃金の基礎から除外できる賃金を、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つに限定列挙しています。生涯設計手当はここに含まれません。つまり現金で受け取れば残業単価に反映され、掛金に回せば反映されない。 拠出した従業員は残業代の単価が下がります。

休業手当や解雇予告手当の基礎となる平均賃金、労災の給付基礎日額も同様です。導入前の試算は、最低賃金だけでなくこの点まで含めて行ってください。

つまり最低賃金の判定に効いてくるのは「生涯設計手当を含む額面の総額」ではなく、そこからDC拠出分を差し引いた"実際に支払われる賃金"です。月給制なら、判定式は次のようになります。

(最低賃金の対象となる賃金 − DC拠出額)÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 地域別最低賃金(時間額)

※1か月平均所定労働時間 =(年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間)÷ 12

3分子に入れてはいけない賃金がある

判定を誤るもう一つの原因が、分子に入れる賃金の範囲です。額面をそのまま使うと、実態より高く出て「大丈夫」と誤判定します。

厚生労働省は、最低賃金の対象となる賃金から次のものを除くとしています。

  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 精皆勤手当
  • 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外手当)
  • 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日手当)
  • 深夜割増賃金(通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分)
  • 賞与など臨時に支払われる賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

つまり判定に使えるのは、毎月決まって支払われる基本給と、上記以外の諸手当だけです。生涯設計手当はこの「諸手当」に入るので算入し、そこからDC拠出分を引く——という順序になります。

なお厚生労働省は月給制の換算例として「(180,000円×12か月)÷(250日×8時間)=1,080円」を示しています。月ごとの労働日数で割るのではなく、年間ベースで平均する点に注意してください。

4危ないのは「拠出額が大きい従業員」と「時給制パート」

この構造からわかるのは、掛金を多く拠出する従業員ほど、最低賃金に近づくということです。とくに、もともと基本給が低い層が拠出額を大きく設定すると、拠出後の実支払賃金が最低賃金を割りやすくなります。

月給制でも起こります。年間所定労働日数250日・1日8時間(=1か月平均約166.7時間)の会社で、月給18万円の従業員が生涯設計手当3万円を全額拠出した場合を見てみます。

拠出なし3万円拠出
最低賃金の対象となる賃金180,000円180,000円
DC拠出額30,000円
実支払賃金180,000円150,000円
時給換算1,080円900円

時給換算で180円も下がります。 全47都道府県の最低賃金が1,000円を超えている現在、この設計は成り立ちません。

もう一つ注意が必要なのが、時給制のパートタイマーです。定額の生涯設計手当を設定していると、勤務時間が想定より減った月に、実質時給が急落することがあります。

たとえば、令和7年度の最低賃金が1,050円だった新潟県で、月150時間勤務・月額18万円(時給換算1,200円)のパートを考えます。この18万円のうち2万円を生涯設計手当として切り出し、本人が全額をDC掛金に拠出したとします。実際に支払われる賃金は16万円で、実質時給は約1,067円。最低賃金を17円上回っています。

しかし、その月の勤務が80時間まで減ると、額面は96,000円。そこから定額の手当2万円を拠出するので実支払賃金は76,000円で、時給換算では950円まで下がり、最低賃金を100円割ってしまいます定額の手当は勤務時間が減っても減らないため、就業時間が変動する時給制ではこの落とし穴が起きやすいのです。

3. 2026年10月の改定で「去年はセーフ、今年アウト」が起きる

ここが今年いちばん重要な論点です。

2026年7月、中央最低賃金審議会が令和8年度の改定目安を答申しました。ランク別の目安はAランク54円、B・Cランク56円です。これを参考に各都道府県の審議会が改定額を答申し、2026年9月3日に全47都道府県の額が出そろいました。

答申ベースの全国加重平均は1,177円。前年度の1,121円から56円の引き上げで、これは目安制度が始まった昭和53年度以降で2番目の高さです。引き上げ額は54円から65円まで幅があり、47都道府県のうち33県が国の目安額を上回りました。 最高額は東京都の1,280円、最低額は宮崎県の1,085円です。

発効日は10月1日から12月2日まで、都道府県ごとに異なります。

現行(令和7年度)の全国加重平均は1,121円で、最高額は東京都の1,226円、最低額は1,023円。全47都道府県がすでに1,000円を超えています。

問題は、この引き上げが選択制DCを導入済みの会社を直撃することです。

💡 ポイント:同じ設計のまま、改定だけで割り込みます。先ほどの新潟県のパートを、通常勤務(月150時間)で見てみます。新潟県は1,050円から1,108円へ、58円の引き上げです(発効は2026年10月1日)。| | 改定前 | 改定後(2026年10月1日〜) || --- | --- | --- || 地域別最低賃金 | 1,050円 | 1,108円 || 額面(月150時間) | 180,000円 | 180,000円 || DC拠出額 | 20,000円 | 20,000円 || 実支払賃金 | 160,000円 | 160,000円 || 実質時給 | 約1,067円 | 約1,067円 || 判定 | セーフ(+17円) | アウト(−41円) |会社は何も変えていません。掛金も勤務時間もそのままです。 それでも最低賃金が上がったというだけで、違反状態になります。改定額も発効日も都道府県ごとに違います。自社の事業所がある都道府県の額と発効日を、発効までに必ず確認してください。

全都道府県の改定額と発効予定日は、厚生労働省が公表している「令和8年度地域別最低賃金額答申状況」(別紙)で一覧できます。ただし発効日は答申公示後の異議申出の状況等により変更となる可能性があるため、直前にもう一度確認してください。

発効日のばらつきは小さくありません。10月1日発効が最も多い一方で、岩手県と熊本県は12月1日、沖縄県は12月2日です。複数の都道府県に事業所がある会社は、それぞれの発効日を押さえる必要があります。

4. 最低賃金を下回るとどうなるか——会社が負うリスク

最低賃金を下回ることは、単なる設計ミスでは済みません。

最低賃金法では、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払う義務があり、下回った場合は最低賃金との差額を遡って支払う義務が生じます。さらに、地域別最低賃金を下回ったまま支払っていた場合には、50万円以下の罰金が定められています。

加えて、労働基準監督署の調査で指摘を受ければ是正対応に追われ、従業員との信頼関係にも傷がつきます。M&Aの際の労務デューデリジェンスでは、この差額が簿外債務として問題視されることもあります。

選択制DC特有の問題:拠出した掛金は取り戻せない

そして、選択制DCならではの厄介さがここにあります。

すでにDCに拠出した掛金は、会社が回収できません。 掛金は本人の個人別管理資産となり、原則60歳まで引き出せない資産に変わっています。「掛金に回した分を給与に戻して精算する」という処理は成り立ちません。

つまり最低賃金割れが判明した場合、会社は掛金は拠出したまま、不足額を別途現金で支払うことになります。

💡 ポイント:割れに気づいた時点で、会社は二重に払うことになります。- すでに拠出した掛金 → 本人の年金資産として確定済み。戻せない- 最低賃金との差額 → 別途、現金で遡って支払う「良かれと思って導入した福利厚生制度が、労務リスクの火種になる」——これが最低賃金割れの怖さです。予防策は、事前の試算と、割れない設計をあらかじめ規約に組み込んでおくことの2つしかありません。 起きてからの是正手段が実質的に存在しないためです。

5. 導入前と改定前に確認すべきチェックポイント

こうしたリスクは、事前の確認でほぼ防げます。導入前に、次の点を必ずチェックしてください。

  • 社会保険・雇用保険の給付が減ることを、具体例で説明する:厚生労働省の法令解釈通知第1-2(5)は、選択制の仕組みを実施するにあたり「社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて、事業主は従業員に正確な説明を行う必要がある」と定めています。確定拠出年金Q&A No.70は、保険料が軽くなることだけでなく、標準報酬月額や雇用保険の基礎手当日額が下がることで、将来の老齢厚生年金・傷病手当金・出産手当金・失業給付が減る可能性まで、具体的な事例を用いて説明することを求めています。最低賃金と並ぶ、導入前の必須確認事項です。
  • 全従業員を時給換算で試算する:特に基本給が低い層・最低賃金に近い層について、DC拠出後の実支払賃金を時給換算し、最低賃金に対する余裕度を確認します。
  • 掛金拠出額に上限を設ける:最低賃金を割らない範囲に収まるよう、拠出できる掛金の上限を規約であらかじめ定めておきます。
  • 時給制パートの扱いを慎重に設計する:勤務時間が変動する時給制の従業員は、定額の生涯設計手当が最低賃金を割りやすいため、対象範囲や手当額を個別に検討します。
  • 最低賃金の改定に合わせた毎年の見直しフローをつくる:地域別最低賃金は毎年10月以降に順次発効します(令和7年度は10月1日から翌年3月31日にかけて発効)。8月に各都道府県の答申額が出た時点で、最賃近傍の従業員が割れないかを試算し、発効までに手当てする運用を組み込みます。
  • 複数の都道府県に事業所があるなら、それぞれの改定額と発効日を押さえる:改定額も発効日も都道府県ごとに異なります。本社基準で判断すると、地方の事業所で割り込みます。

導入済みの会社が、発効までにやること

すでに選択制DCを運用している会社は、次の順で動いてください。

  • 自社の都道府県の改定額と発効日を確認する(都道府県労働局の公表)
  • 最賃近傍の従業員をリストアップする:拠出後の実支払賃金が、改定後の最低賃金 × 1か月平均所定労働時間を下回る人を洗い出す
  • 該当者に個別に説明し、拠出額を調整する:本人の同意を得て掛金額を下げるか、生涯設計手当の設計を見直す
  • 時給制・勤務時間が変動する人は、最も少ない月で試算する:平均勤務時間で計算すると、繁閑差のある月に割り込みます

掛金額の変更は、規約で定めた変更可能な時期に限られるのが通常です。発効直前に気づいても間に合わないことがあるため、逆算して動いてください。

6. 最低賃金割れを防ぐ設計の考え方

チェックに加えて、そもそも割れにくい制度に設計しておくことが重要です。

ひとつは、生涯設計手当そのものの金額設計です。手当としていくら切り出すかに法令上の基準はなく、拠出限度額・社会保険の等級区分・最低賃金からの余裕度をにらんで会社ごとに決めることになります。どの水準にするにせよ、切り分けたあとに実際に支払われる賃金が最低賃金を下回らないことが大前提です。従業員が実際にいくら拠出するかにかかわらず、設計の時点で、最賃を割らない余裕を持たせておくことが安全です。

このとき、現在の最低賃金ぎりぎりで設計しないでください。 引き上げは近年続いており、令和7年度は66円、令和8年度の目安は55円です。2年分の引き上げを吸収できる余裕を最初から見込んでおくと、毎年の駆け込み対応が要らなくなります。

もうひとつは、最低賃金に近い従業員を実質的に守る仕組みです。最も現実的なのは、加入資格そのものは動かさず、拠出できる掛金額の上限を規約で定めておく方法です。本人がいくら希望しても最低賃金を割る額は拠出できない、という歯止めを制度側に持たせます。

💡 ポイント:「最賃に近い人を対象から外す」は、そのままでは規約が通りません。厚生労働省の法令解釈通知第1-1(1)は、企業型DCの加入者を絞る「一定の資格」として定められるものを、①一定の職種 ②一定の勤続期間 ③一定の年齢 ④希望する者の4つに限定しています。これ以外を資格として定めることは「基本的には特定の者に不当に差別的な取扱いとなる」とされており、「給与水準が低い人は対象外」という区分は、この4つのいずれにも当たりません。さらに第1-1(2)は、職種や勤続期間で加入者を絞る場合、加入者とならない従業員に確定給付企業年金または退職手当制度(前払制度を含む)が適用されていること、そして事業主掛金に代わる相当な措置が講じられていることを求めています。「対象者を絞る」判断には、外した人向けの代替措置というコストがついてきます。加入者ごとに掛金額に差を設ける場合も、労働協約等で給与・退職金の労働条件が異なるなどの合理的な理由が必要で、掛金の「率」に差を設けることは認められていません(確定拠出年金Q&A No.51)。対象範囲を動かす設計は、事前に運営管理機関と社会保険労務士に規約承認の見通しを確認してください。

拠出可能額の上限は、逆算で決まる

拠出上限は感覚で決めるものではありません。次の順で逆算すれば、個人ごとの安全な上限が出ます。

  • 必要な実支払賃金を出す:地域別最低賃金(時間額)× 1か月平均所定労働時間
  • 拠出可能な上限を出す:最低賃金の対象となる賃金 − 1で出した必要額
  • 安全余裕を引く:2から、翌年以降の引き上げ見込み分を差し引く

先ほどの月給18万円・1か月平均166.7時間の従業員が、新潟県(令和8年度1,108円)にいると想定します。

  • 必要な実支払賃金:1,108円 × 166.7時間 = 約184,700円
  • 対象賃金180,000円 − 184,700円 = マイナス約4,700円

拠出可能額はゼロどころか、そもそも現状の月給が最低賃金を割っています。 この従業員は選択制DCの対象にする前に、基本給の見直しが必要です。

このように逆算すると、「誰にいくらまで拠出させられるか」が数字で出ます。全員一律の生涯設計手当を設定するのではなく、個人ごとに拠出上限をかけるという設計は、ここから導かれます。

そして、こうした設計は賃金規程・給与明細への正しい反映とセットで行う必要があります。給与を減額して生涯設計手当に振り替える以上、賃金規程の改定や給与明細の項目新設が伴い、労使での十分な協議と個別同意が欠かせません。給与明細の見え方や不利益変更の論点については、関連記事もあわせてご確認ください。

7. よくある質問

Q

パート・アルバイトも選択制DCに加入できますか?

A

厚生年金の被保険者であれば加入対象になり得ます。ただし時給制で勤務時間が変動する方は、定額の生涯設計手当が最低賃金を割りやすいため、対象範囲や手当額の設計に特に注意が必要です。

Q

最低賃金が上がったら、生涯設計手当はどう見直せばいいですか?

A

例年7月末に国の改定目安が示され、8月に各都道府県の答申が出て、10月以降に順次発効します。答申が出た8月の時点で試算し、発効までに手当てするのが現実的なスケジュールです。最賃に近い従業員の「拠出後の実支払賃金」を時給換算で再点検し、割れる恐れがあれば拠出額の調整や手当設計を見直します。令和8年度は全国加重平均で55円の引き上げが目安として示されており、据え置きで乗り切れる会社は多くありません。

Q

導入後に、最低賃金を下回っていたことに後から気づいたら?

A

速やかに差額を支払い、拠出額の調整など再発防止の手当てが必要です。すでに拠出した掛金は本人の年金資産になっており、会社が回収することはできません。 掛金はそのままに、不足額を別途現金で支払うことになります。放置すると遡及支払や罰則、労使トラブルにつながるため、気づいた時点で早急に社会保険労務士など専門家に相談してください。

Q

生涯設計手当を導入していますが、誰も拠出していません。それでも最低賃金の問題は起きますか?

A

起きません。最低賃金の判定に効くのは実際に拠出した額です。手当として現金で受け取っている限り、それは賃金なので最低賃金に算入されます。問題が起きるのは、従業員が拠出を選んだときだけです。裏を返せば、拠出者が増えたタイミングで一斉にリスクが顕在化するということでもあります。

Q

会社が掛金を負担する形(会社負担型)なら、最低賃金の問題は起きませんか?

A

賃金の減額を伴わない設計であれば起きません。会社負担型は給与とは別に会社が掛金を上乗せする形で、既存の賃金が1円も減らないためです。ただし「基本給の一部を掛金の原資に振り替える」形にすると、名称が会社負担型でも同じ問題が生じます。原資をどこから出すかで判断してください。なお会社負担型は掛金がそのまま会社の追加負担になります。最賃近傍の従業員が多い会社では、この労務リスクと会社負担のどちらを取るかが型を選ぶ判断材料になります。

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まとめ|「手当は入れる、掛金は引く」を押さえれば怖くない

選択制DCと最低賃金の関係は、原則さえ押さえれば正しく管理できます。生涯設計手当は賃金として最低賃金に算入し、そのうちDC掛金として拠出した分だけを差し引く——効いてくるのは「拠出後の実支払賃金」です。

押さえるべき3点

  • 判定は"拠出後の実支払賃金"を時給換算で:手当の総額ではなく、掛金を引いた後の額を最低賃金と比べる。
  • 危ないのは低基本給の高拠出者と時給制パート:勤務時間が減ると実質時給が割れやすい。
  • 上限設定と毎年の見直しで防ぐ:拠出上限を設け、8月の答申時点で試算し、10月以降の発効までに手当てする運用を組み込む。

令和8年度の改定目安は全国加重平均1,176円(+55円)で、10月以降に順次発効します。掛金も勤務時間も変えていないのに違反状態になるのが今年の改定です。最賃近傍の従業員がいる会社は、発効前に必ず試算してください。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。