iDeCo+と企業型DCはどちらがいい?従業員10人・30人・100人で比較

iDeCo+と企業型DCはどちらがいい?従業員10人・30人・100人で比較

「退職金代わりになる制度を入れたい。調べたらiDeCo+(イデコプラス)と企業型DCが出てきたが、違いがよくわからない」。中小企業の経営者から、よく受ける質問です。

どちらも確定拠出年金の仕組みを使い、会社が出す掛金は損金になります。それでもこの2つは別物です。会社が制度の器ごと用意するのが企業型DC、従業員個人のiDeCoに会社が上乗せするのがiDeCo+。この構造の違いが、掛金の上限、コスト、事務負担、そして「誰のための制度になるか」をすべて分けます。

この記事では、まず制度の違いを一枚の表に整理し、そのうえで従業員10人・30人・100人の会社それぞれで、どちらが向くかを考えます。

📋 この記事でわかること

  • iDeCo+と企業型DCの構造の違いと、比較表での整理
  • 掛金の枠がどれだけ違うか(特に経営者自身の積立枠)
  • コストと事務負担が、会社の規模でどう逆転するか
  • 従業員10人・30人・100人、それぞれでの現実的な選び方

1. まず構造の違い|「会社の制度」か「個人のiDeCoへの上乗せ」か

1iDeCo+は、iDeCoに入っている従業員にしか出せない

iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は、従業員が自分で加入しているiDeCoの掛金に、会社が上乗せして拠出する仕組みです。実施できるのは、次の要件を満たす会社に限られます。

  • 従業員(使用する第1号厚生年金被保険者)が300人以下であること(同じ事業主の全事業所の合計。2020年10月に100人以下から拡大)
  • 企業型DC・確定給付企業年金・厚生年金基金のいずれも実施していないこと
  • 労働組合または従業員の過半数代表者の同意(労使合意)があること

ここで重要なのは、上乗せできる相手が「iDeCoに加入し、事業主掛金の拠出に同意した従業員」に限られることです。iDeCoに入っていない従業員に、会社が掛金だけを出すことはできません。経営者や役員も、厚生年金の被保険者としてiDeCoに加入していれば対象にできます。

2企業型DCは、会社が制度の器を作る

企業型DCは、会社が規約の承認を受けて実施する会社の制度です。厚生年金の被保険者(原則70歳未満)は原則として全員が加入者になり、会社が選んだ運営管理機関の商品ラインナップの中で、本人が運用します。従業員数の上限はありません。

3比較表

項目iDeCo+企業型DC
実施できる会社企業年金を実施していない、従業員300人以下の会社厚生年金適用事業所なら規模を問わない
対象者iDeCoに加入し同意した従業員(役員も可)のみ厚生年金の被保険者は原則全員加入
掛金の上限本人掛金と合計で月5,000円〜23,000円(会社分は1,000円〜22,000円、1,000円単位)会社掛金だけで月5.5万円まで(2026年12月1日から6.2万円)
本人の拠出必須(加入者掛金を0円にできない)不要(会社掛金のみで成立。マッチング拠出は任意)
導入手続き労使合意のうえ国民年金基金連合会へ届出規約を作成し厚生労働大臣の承認
会社のコスト掛金のみ(国民年金基金連合会への事業主手数料なし)掛金に加え、導入費用と運営管理機関等への月次手数料
口座の手数料本人負担(加入時2,829円、毎月171円〜。2027年1月引落し分から186円〜)会社負担が一般的
運用商品本人が選んだ金融機関のiDeCo商品会社が選定した運営管理機関のラインナップ
投資教育会社の義務なし継続的な投資教育が会社の努力義務

どちらも会社が出す掛金は全額損金に算入でき、給与ではないため原則として社会保険料の算定基礎に含まれません。掛金1円あたりの税務上の扱いに大差はなく、違いは「枠の大きさ」と「誰が制度を支えるか」に出ます。

2. 掛金の枠|経営者自身の積立で4倍以上の差

数字で一番はっきり差が出るのは、掛金の上限です。

iDeCo+は、本人掛金と会社掛金の合計で月23,000円が上限です(企業年金のない会社員のiDeCo拠出限度額の範囲内、という決まりのため)。会社が出せるのは最大22,000円で、本人が最低1,000円を出すことが前提です。

企業型DCは、会社掛金だけで月55,000円、2026年12月1日からは月62,000円まで拠出できます。本人の拠出は不要です。

積立の主体iDeCo+での上限企業型DCでの上限
会社が出せる分月22,000円月55,000円(2026年12月から62,000円)
本人と合計した枠月23,000円月55,000円+マッチング拠出等(合計で限度額まで)

この差が最も効くのは、経営者自身の退職金準備です。役員もiDeCo+の対象にはできますが、枠は従業員と同じ合計23,000円。月62,000円を25年積めるかどうかで、退職金の原資は大きく変わります。退職時には、企業型DCの一時金にも退職所得控除が使えます。ただし、会社からの役員退職金とDCの一時金の両方を受け取る場合、受け取る年が近いと、勤続期間と加入期間の重複分について退職所得控除が調整されます。両方を予定するなら、受け取る順序と間隔を退職の前に確認しておいてください。

なお、2026年12月1日からは、企業年金のない会社員のiDeCo拠出限度額そのものが月23,000円から62,000円に引き上げられます。iDeCo+の掛金上限は「iDeCoの拠出限度額の範囲内」と連動する建て付けのため、この差は縮まる方向です。ただし改正後のiDeCo+の具体的な取扱いは、国民年金基金連合会の案内で確認してください。

3. コストと事務負担|人数で逆転する

1会社が払うお金

iDeCo+は、国民年金基金連合会に払う事業主側の手数料がありません。会社の持ち出しは掛金だけです。そのかわり、口座の手数料は従業員本人の資産から引かれます(加入時2,829円、毎月171円〜。国民年金基金連合会の手数料は2027年1月の掛金引落し分から月105円が120円になります)。

企業型DCは逆です。導入時の費用と、運営管理機関・資産管理機関への月次手数料がかかり、会社負担とするのが一般的です。金額は運営管理機関やプランによって異なります。

2会社がやる事務

見落とされやすいのはこちらです。iDeCo+では、次の事務を自社でやり続けることになります。

  • 加入者掛金と事業主掛金を取りまとめて納付する(事業主払込に限られます。本人の口座引落しにしている従業員には拠出できません)
  • 従業員ごとの加入状況・掛金額を把握する(年単位拠出の従業員がいると、月ごとの納付額が変わります)
  • 加入者の増減や氏名変更のたびに届出を出す
  • 毎年1回、現況の報告を出す(従業員数が300人以下かの確認を受けます)

企業型DCは、導入のハードルが高いかわりに、加入者情報の管理や給付の事務を運営管理機関・記録関連運営管理機関が担います。会社に残るのは掛金の納付と、投資教育などの制度運営です。

人数が少ないほどiDeCo+の事務は軽く、人数が増えるほど重くなる。 コストと事務の比較は、会社の規模で逆転する構造です。

4. 従業員10人・30人・100人で考える

ここまでの材料を、規模別に当てはめます。

1従業員10人|iDeCo+の手軽さが最も生きる規模

10人の会社で企業型DCの固定コストを払うと、1人あたりの負担は重くなります。iDeCo+なら、会社の持ち出しは掛金だけ。従業員の側にiDeCoに入る意思があるなら、月5,000円の上乗せでも「会社が老後に上乗せしてくれる」という実感を作れます。

ただし、2つの場合は企業型DCを検討する価値があります。

  • 経営者自身の退職金準備が主目的の場合:iDeCo+の枠(合計23,000円)では足りません。役員中心の会社なら、企業型DCを役員中心の設計で導入する選択肢があります
  • 従業員がiDeCoに入りたがらない場合:iDeCo+は本人の加入が前提です。誰も入らなければ、制度として空振りします

2従業員30人|「誰のための制度か」で分かれる分岐点

30人になると、採用や定着のために「退職金制度がある会社」と言えるかどうかが効いてきます。

ここでiDeCo+の構造的な弱点が出ます。上乗せを受けられるのは、iDeCoに自分で入った従業員だけです。入らない従業員には1円も出せないため、「全員に用意した退職金制度」とは言いにくい。福利厚生としての見え方は、従業員の加入率に左右されます。

企業型DCは原則全員加入で、会社が商品ラインナップと投資教育を用意します。制度としての網羅性を求めるなら企業型DC、意欲のある従業員への上乗せと割り切るならiDeCo+、という分かれ方です。

費用感の目安も出しておきます。30人のうち15人がiDeCo+に参加し、会社が1人5,000円を上乗せすると、月75,000円・年90万円。全員加入の企業型DCで1人5,000円なら月15万円・年180万円に、運営コストが加わります。掛金総額そのものが「誰に出すか」で倍変わることがわかります。

3従業員100人|事務負担と「300人の壁」を見据える

100人規模では、iDeCo+の事務が重くなります。加入者ごとの掛金把握、毎月の取りまとめ納付、増減のたびの届出を、給与計算と並行して回し続けることになります。

さらに、成長中の会社は300人要件を意識する必要があります。恒常的に300人を超えることが見込まれると、iDeCo+は終了しなければなりません(厚生労働省Q&A№232-4)。また、将来企業型DCや確定給付企業年金を導入する場合も、iDeCo+は終了になります。iDeCo+は「ずっと続ける前提の最終形」ではなく、企業年金までのつなぎになり得る制度だということです。

100人規模で退職金制度として腰を据えるなら、企業型DCの固定コストは1人あたりで薄まり、事務は運営管理機関側に乗ります。制度の寿命という意味でも、企業型DCに分があります。

💡 ポイント:目安はこうです。10人なら、まずiDeCo+が有力。30人は「全員の制度」が要るかで分岐。100人なら企業型DCが本命。 ただし経営者自身の積立が主目的なら、人数にかかわらず企業型DCの枠の大きさが効きます。

5. 選ぶ前に知っておくべき注意点

1iDeCo+の注意点

  • 本人の掛金が必須:加入者掛金を0円にできません。従業員に月1,000円以上の自己負担を求める制度です
  • 手数料は本人持ち:毎月の口座手数料が本人の資産から引かれます。掛金が小さいと、手数料の比率が相対的に大きくなります
  • 対象者の線引きは2つだけ:拠出対象者に資格を定める場合は「一定の職種」か「一定の勤続期間」に限られ(Q&A№232-6)、年齢で対象外にすることはできません(Q&A№232-7)。掛金に差をつける場合も、同一労働同一賃金の指針を踏まえた合理的な理由が必要です(Q&A№232-10)
  • iDeCoに入らない自由も尊重する:加入はあくまで本人の意思です。入らない従業員への不利益な取扱いはできません

2企業型DCの注意点

  • コストと時間:導入費用・月次手数料に加え、制度導入までに約7か月。思い立ってすぐは始まりません
  • 原則全員加入:対象を絞るには「一定の資格」の設計と代替措置が必要です
  • 投資教育は会社の仕事:継続的な投資教育が努力義務です。外部に委託できますが、責任は会社に残ります

3どちらにも共通する注意点

  • 60歳まで引き出せない:どちらの制度でも、積んだ資産は原則60歳まで引き出せません
  • 運用は本人の責任:会社が特定の商品を推奨することはできません
  • 選択制にする場合の副作用:給与を減額して掛金に振り替える設計(企業型DCの選択制)では、社会保険料の算定基礎が下がり、将来の厚生年金や傷病手当金・出産手当金などの給付が下がる可能性があります。導入時に従業員への正確な説明が必要です
Q

iDeCo+と企業型DCを併用できますか。

A

できません。iDeCo+は「企業型DC・確定給付企業年金・厚生年金基金を実施していないこと」が要件です。企業型DCを導入した時点で、iDeCo+は終了することになります。

Q

社長や役員もiDeCo+の対象にできますか。

A

できます。厚生年金の被保険者としてiDeCoに加入していれば、役員も拠出対象にできます。ただし枠は従業員と同じで、本人掛金との合計で月23,000円(2026年10月時点)です。経営者自身の積立額を重視する場合は、企業型DCの枠(月5.5万円、2026年12月から6.2万円)との差を比較してください。

Q

iDeCo+を始めて、後から企業型DCに切り替えられますか。

A

できます。実際に、iDeCo+から企業型DCへ移行する会社はあります。その場合iDeCo+は終了します。従業員がiDeCoで積み立てた資産は、本人が申し出れば企業型DCへ移換でき、企業型DC側はこの申出を断れません(Q&A№233-4)。移換せずiDeCoに残すこともでき、一定の要件を満たせばiDeCoへの拠出を続けることも可能です。

Q

従業員が300人を超えそうです。iDeCo+はどうなりますか。

A

恒常的に300人を超えることが見込まれるときは、iDeCo+を終了する必要があります(厚生労働省Q&A№232-4)。人数は同じ事業主のすべての厚生年金適用事業所の合計で数えます。毎年の現況報告で確認されます。

Q

iDeCo+の掛金は会社の経費になりますか。

A

なります。中小事業主掛金は損金に算入でき、従業員本人の掛金は本人の小規模企業共済等掛金控除の対象です。

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まとめ|小さく始めるならiDeCo+、制度として据えるなら企業型DC

iDeCo+と企業型DCは、どちらが優れているかではなく、会社の規模と目的で向き不向きが分かれます。

おさえる4点

  • 構造が違う:iDeCo+は従業員個人のiDeCoへの上乗せ、企業型DCは会社の制度。iDeCo+はiDeCoに入らない従業員には1円も出せません
  • 枠が違う:iDeCo+は合計月23,000円、企業型DCは会社掛金だけで月5.5万円(2026年12月から6.2万円)。経営者自身の積立では大差になります
  • 規模で逆転する:10人ならiDeCo+の手軽さが生き、100人では事務負担と300人要件が重くなり、企業型DCに分があります
  • iDeCo+はつなぎにもなる:企業型DC導入でiDeCo+は終了します。小さく始めて、育ったら企業型DCへ、という順番は現実的な選択です

自社の人数・経営者自身の積立目標・従業員の加入意欲。この3つを並べたうえで、どちらの器が合うかを決めてください。

参照した公的情報源

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本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。