企業型DCの拠出上限は「なぜ」この金額?5.5万→6.2万までの決まり方を中小オーナー向けに整理

企業型確定拠出年金(企業型DC)には、毎月いくらまで掛金を出せるかという「拠出限度額(上限)」が決められています。2026年12月の改正で、この上限が月5.5万円から月6.2万円へ引き上げられます(実際の拠出は2027年1月分から)。
ニュースでは「6.2万円に増える」という結果だけが報じられがちですが、中小企業オーナーにとって本当に役立つのは、「なぜこの金額なのか」「自社の上限はどう決まるのか」を理解しておくことです。仕組みが分かれば、「自社は本当に6.2万円フルに使えるのか」「DBがあると何が変わるのか」といった疑問に自分で答えられるようになります。
本記事では、そもそもなぜ上限があるのかという出発点から、5.5万円・2.75万円という金額の意味、そして6.2万円への引き上げの理由と決まり方までを、順を追って整理します。
📋 この記事でわかること
- なぜ拠出限度額(非課税の枠)が法律で定められているのか
- 「5.5万円」「2.75万円」という金額の意味と、2024年12月の重要な変更
- 6.2万円へ引き上げられる理由・根拠・時期
- 結局、自社の上限が「いくら」になるのかの考え方(DBの有無で変わる)
目次
1. そもそも、なぜ拠出上限が決められているのか
1企業型DCには強力な税優遇がある
まず押さえたいのは、企業型DCの掛金には極めて手厚い税優遇があるという点です。会社が拠出する事業主掛金は全額が損金になり、受け取る従業員・役員側でも給与として課税されません(給与不算入)。さらに運用期間中の運用益は非課税で、受け取り時にも退職所得控除や公的年金等控除が使えます。
入口(拠出)・途中(運用)・出口(受け取り)のすべてで税制上の優遇が効く、数少ない制度です。だからこそ社長個人の資産形成にも、従業員の福利厚生にも強力に働きます。
2無制限にできない理由 ── 公平性と「非課税の枠」
これほど優遇が大きいと、もし上限がなければどうなるでしょうか。所得の高い人ほど大きな金額を非課税で積み立てられ、税負担を実質的に回避できてしまいます。これは税の公平性の観点から問題です。
そこで国は、「ここまでは非課税で老後資金を積み立ててよい」という枠を法令で定めています。拠出限度額とは、国が認める"非課税の枠"の大きさだと理解すると、その後の話が腑に落ちます。上限は加入者を縛るための数字ではなく、「優遇してよい範囲」の線引きなのです。
3枠は「公的年金とのバランス」で設計されてきた
ではその枠の大きさは、どんな考え方で決まるのでしょうか。基本にあるのは、公的年金(国の年金)の給付水準や、他の制度との公平性とのバランスです。
公的年金は、長期的には給付水準が調整されていく見通しにあります。その分を自助努力で補えるよう、私的年金(企業型DC・iDeCoなど)の非課税枠を広げていく——これが制度改正の一貫した方向性です。今回の6.2万円への引き上げも、この「公的年金を私的年金で補完する」という大きな流れの中にあります。
2. 「5.5万円」と「2.75万円」── 現行の上限の意味
1企業年金がDCだけなら月5.5万円
現行制度では、他に企業年金がなく企業型DCだけを導入している会社の場合、拠出限度額は月5.5万円(年66万円)です。これが基本となる枠です。中小企業の多くはこのパターンに当てはまります。
2DBなど他制度があると、なぜ枠が小さくなるのか
一方、確定給付企業年金(DB)や厚生年金基金など、企業型DC以外の企業年金を併用している会社では、DCの枠が小さくなります。理由はシンプルで、会社がすでにDBなどで別の老後給付を用意しており、そこにも税優遇が及んでいるからです。
私的年金は全体で公平に扱う必要があるため、「DBで手厚く準備している会社は、その分だけDCの枠を減らす」という調整が行われます。DCだけの会社とDB併用の会社で、トータルの非課税枠が偏らないようにする仕組みです。
32024年12月の重要な変更 ── 一律2.75万円から「5.5万円−他制度掛金相当額」へ
ここに、見落とされがちな大きな変更があります。2024年12月の改正です。
従来、DBなどを併用している場合のDCの上限は、DBの手厚さに関係なく一律で月2.75万円とされていました。5.5万円のちょうど半分を、いわば「ざっくりした評価」で当てていたのです。しかしこれでは、DBが薄い会社の従業員も手厚い会社の従業員も同じ2.75万円となり、公平とは言えませんでした。
そこで2024年12月から、DBの給付内容を掛金に換算した「他制度掛金相当額」を使い、「5.5万円 − 他制度掛金相当額」という個別計算に切り替わりました。DBが手厚い会社ほどDC枠は小さく、薄い会社ほど大きくなる、実態に即した公平な仕組みです。
💡 ポイント:現行(2024年12月〜)の企業型DCの拠出限度額は、次のように整理できます。- 企業型DCのみ:月5.5万円- DB等を併用:月5.5万円 −「他制度掛金相当額」- 経過措置の対象者:当面は従来どおり月2.75万円(こちらが有利な場合に選択可)「DB併用=一律2.75万円」は2024年12月で終わった、という点が大きな転換でした。
3. なぜ「6.2万円」に引き上げられるのか
1根拠と時期 ── 令和7年改正法と税制改正大綱
2025年6月に成立した年金制度改正法(令和7年年金制度改正法・令和7年法律第74号)と、令和7年度の税制改正大綱を踏まえ、企業型DCの拠出限度額が月5.5万円から月6.2万円へ引き上げられることが決まりました。施行日は2026年12月1日、実際に新しい掛金が反映されるのは2027年1月の拠出分からです。
参照:厚生労働省「2025年の制度改正」
2なぜ「6.2万円」という金額なのか
「では、なぜちょうど6.2万円なのか」という点が、この記事の核心です。結論から言えば、6.2万円は精密な数式から一意に出てくる数字ではなく、実態を踏まえた政策判断として設定された金額です。
具体的には、会社員(厚生年金の第2号被保険者)の企業型DCの掛金額や、DBなどの他制度掛金相当額が実際にどの程度の水準にあるか——その実態の分布を踏まえて、私的年金全体の非課税枠を底上げする水準として6.2万円が選ばれました。背景には、前述した「公的年金の給付調整を自助努力で補えるようにする」という政策意図があります。
つまり6.2万円は、「現場で実際に使われている掛金の実態」と「公的年金を補完する政策目的」の両方を見て決められた、現実的な落としどころの金額だと理解するのが正確です。
3iDeCoとの「共通の枠」へ ── 穴埋め型
今回の改正のもう一つの肝は、企業型DCとiDeCo(個人型)が6.2万円という共通の枠を分け合う形に整理される点です。
会社員(第2号)のiDeCoは、これまで月2.0万円・2.3万円といった単体の上限がありましたが、改正後はこの単体上限が外れ、企業型DCの掛金などと合わせて6.2万円の枠内であればiDeCoを「穴埋め」的に使えるようになります。なお、自営業者など(第1号)はiDeCoと国民年金基金の共通枠が6.8万円から7.5万円に引き上げられます。会社員より基礎部分(厚生年金)が薄いため、自助の枠が厚めに設定されているわけです。
- 企業型DCのみ:月6.2万円
- DB等を併用:月6.2万円 −「他制度掛金相当額」
- 経過措置の対象者:引き続き月2.75万円
- iDeCo(会社員):単体上限が外れ、6.2万円の枠内で穴埋め可能
- iDeCo(自営業者など):6.8万円 → 7.5万円
4. 結局、自社の上限は「いくら」になるのか
「6.2万円に上がる」と聞いても、すべての会社が一律6.2万円使えるわけではありません。自社の上限は、企業年金の構成によって次の3パターンに分かれます。
1自社が当てはまる3つのパターン
- ①企業型DCのみ → 上限は月6.2万円。中小企業に多いパターンで、最も枠を活かしやすい
- ②DB等を併用 → 上限は月6.2万円 − 他制度掛金相当額。DBが手厚いほどDC枠は小さくなる
- ③経過措置の対象 → 当面は月2.75万円(こちらが有利な場合)
2「他制度掛金相当額」は誰が決めるのか
DBを併用している会社で鍵になるのが「他制度掛金相当額」です。これはDBの給付設計をもとに算定される金額で、会社が任意に決められるものではありません。自社の数値は、DBの規約や運営している金融機関・運営管理機関に確認するのが確実です。「自社のDCの枠=6.2万円 − この金額」になる、と押さえておきましょう。
3マッチング拠出・iDeCoとの配分も自由度が増す
2026年4月からは、マッチング拠出(従業員が事業主掛金に上乗せして拠出する仕組み)について「従業員の掛金は事業主掛金を超えてはならない」という制限が撤廃されました。これにより、合計が枠内に収まる範囲であれば、事業主掛金・マッチング拠出・iDeCoをより柔軟に配分できるようになります。
| 区分 | 現行 | 改正後(2027年1月拠出分〜) |
|---|---|---|
| 企業型DCのみ | 月5.5万円 | 月6.2万円 |
| 企業型DC+DB等 | 月5.5万円 − 他制度掛金相当額 | 月6.2万円 − 他制度掛金相当額 |
| 経過措置の対象 | 月2.75万円 | 月2.75万円 |
| iDeCo(会社員・第2号) | 月2.0万/2.3万円 | 6.2万円の枠内で穴埋め |
| iDeCo(自営業者・第1号) | 月6.8万円 | 月7.5万円 |
5. 中小オーナーがこの「決まり方」を理解しておくべき理由
1枠は「自動では埋まらない」── 設計して初めて活きる
拠出限度額が6.2万円に増えても、会社が掛金を増やさなければ、実際の積立額は変わりません。枠はあくまで「ここまで非課税で積める」という上限であり、いくら拠出するかは会社が規約で設計するものです。せっかく広がった枠を活かすには、自社の掛金設計を見直す必要があります。
2DBがない中小企業ほど、フルに活用しやすい
DBを持つ中小企業は多くありません。裏を返せば、多くの中小企業は「企業型DCのみ=月6.2万円」をそのまま使える立場にあります。役員報酬の一部を給与から掛金に振り替えれば、社長個人の非課税の積立枠を年74.4万円まで広げられる、ということです。大企業より身軽に枠を活かせるのは、中小オーナーの強みです。
3まず「自社の枠がいくらか」を確認する
最初の一歩は、自社が3パターンのどれに当たり、上限が具体的にいくらになるかを把握することです。そのうえで、役員・従業員それぞれの掛金水準をどう設計するかを考えれば、広がった枠を無駄なく使えます。
6.2万円は、どの会社でも全額使えるのですか?
いいえ。企業型DCのみの会社は月6.2万円をフルに使えますが、DBなどを併用している会社は「6.2万円 − 他制度掛金相当額」になります。経過措置の対象者は当面2.75万円のままです。
なぜ自営業者は7.5万円なのに、会社員は6.2万円なのですか?
公的年金の手厚さの違いによる調整です。会社員は厚生年金がある一方、自営業者などは基礎年金のみで老後の公的給付が薄いため、自助の非課税枠が厚めに設定されています。私的年金全体での公平性を保つための差です。
いつから6.2万円になりますか?
施行は2026年12月1日で、実際に新しい上限が反映されるのは2027年1月の拠出分からです。
上限が6.2万円なら、会社は6.2万円まで出さないといけないのですか?
いいえ。6.2万円はあくまで上限(非課税で積める枠)です。実際にいくら拠出するかは、会社が規約で自由に設計できます。
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まとめ|上限は「枠 − 他制度分」で決まる
企業型DCの拠出上限は、単なる金額ではなく「国が認める非課税の枠」であり、公的年金とのバランスや他制度との公平性を踏まえて設計されています。今回の6.2万円への引き上げも、その思想の延長線上にあります。
おさえる3点
- 上限=非課税の枠:強力な税優遇があるからこそ、公平性の観点から枠が定められている。
- 自社の枠は構成で変わる:DCのみなら6.2万円、DB併用なら「6.2万円 − 他制度掛金相当額」、経過措置なら2.75万円。
- 6.2万円は実態を踏まえた底上げ:公的年金を自助で補う流れの中で、会社員の掛金実態を踏まえて決められた金額。施行2026年12月、拠出は2027年1月分から。
枠の「決まり方」を理解しておけば、自社がいくらまで使えるかを正しく把握し、広がった枠を無駄なく設計できます。
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参照した公的情報源
- 厚生労働省
確定拠出年金制度の拠出限度額 - 厚生労働省
2025年の制度改正 - 厚生労働省
確定拠出年金制度
【免責事項】
本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。