給与1万円アップ vs 企業型DC1万円|会社負担と社員の手取りはどう変わる?

「社員に報いたい」「頑張りに応えて定着してほしい」。そんなとき、多くの経営者がまず考えるのが給与アップです。ただ、同じ1万円を従業員に還元するにしても、そのまま給与を上げるのと、企業型DC(企業型確定拠出年金)の掛金として拠出するのとでは、会社の負担も、社員の受け取り方も大きく変わります。
先に結論をお伝えすると、給与を1万円上げる場合、会社は1万円に加えて社会保険料・労働保険料の追加負担が生じる可能性があります。社員の側も税や保険料が増えるため、1万円がそのまま手取りになるわけではありません。
一方、会社が企業型DCの事業主掛金として1万円を拠出した場合、その1万円は原則として社員の給与課税や社会保険料の算定対象にならず、1万円がそのまま個人別管理資産として積み立てられます。ただし、原則として受給要件を満たすまで自由に引き出すことはできません。
この記事では、経営者の目線で「会社の負担」と「社員への届き方」を比べ、どちらがどんな狙いに向くのかを整理します。「賃上げは必要だが、社会保険料の負担も重くなっている」と感じている経営者ほど、知っておきたい選択肢です。
💡 ポイント:本記事で「企業型DCの1万円」と表記するのは、社員が受け取る「手取り」ではなく、個人別管理資産として積み立てられる金額です。今すぐ使えるお金ではない点に注意してください。
📋 この記事でわかること
- 給与1万円アップと企業型DC1万円で、会社の負担がどう違うか
- 社員の「今の手取り」と「将来の積立」がどう変わるか
- 将来の年金・手当(社会保険)への影響の違い
- どちらが自社の狙いに向くか、選択制DCという第3の道
1. 結論|同じ1万円でも「効率」と「性格」が違う
まず全体像です。従業員に1万円を還元する2つの方法を、会社の負担と社員への届き方で並べると、次のようになります。
| 給与を1万円上げる | 企業型DCに1万円拠出(会社拠出型) | |
|---|---|---|
| 給与・掛金 | +1万円 | +1万円 |
| 健康保険・厚生年金 | 標準報酬月額の等級が上がれば増加 | 原則、増加なし |
| 雇用保険・労災など | 原則、増加 | 原則、増加なし |
| 会社の総負担 | 1万円+追加の保険料 | 掛金1万円+制度の運営費 |
| 社員に帰属する額 | 税・保険料を引いた手取り | 1万円が個人別管理資産へ |
| 今すぐ使えるか | 使える | 原則、引き出せない |
会社目線でのポイントは2つです。1つは、給与アップには保険料の追加負担が生じ得るのに対し、DCの事業主掛金にはその上乗せがないこと。もう1つは、会社が出したお金の"届く効率"が違うことです。給与だと1万円出しても社員が手にする現金は税・保険料を引いた後の金額ですが、DCなら1万円がそのまま社員の資産として積み立てられます。
その代わり、DCは「今すぐ使えるお金」ではありません。この違いをどう捉えるかが、判断の分かれ目になります。会社としては「同じ原資をどう配れば、最も効果的に社員へ届き、負担も抑えられるか」という視点で読み進めると、判断がしやすくなります。
2. 前提整理|比べるのは「会社が上乗せする会社拠出型DC」
比較に入る前に、前提をそろえます。この記事で「企業型DC1万円」と言うときは、会社が給与とは別に、1万円を事業主掛金として上乗せで拠出する「会社拠出型」を指します。
企業型DCには、従業員が自分の給与の一部を掛金に振り替える「選択制DC」もありますが、こちらは仕組みも損得も変わるため、7章で別に扱います。まずは「給与を1万円上げる」か「別枠で1万円をDCに出す」かの比較です。
ここで押さえておきたいのが、事業主掛金の性格です。企業型DCの事業主掛金は、全額が会社の損金になり、しかも従業員の給与(報酬)とはみなされません。そのため、社会保険料の計算対象にも、所得税・住民税の対象にもならないのが、給与との決定的な違いです。
給与は、支払う会社にとっては人件費(損金)ですが、受け取る社員にとっては社会保険料と税がかかる「報酬」です。対して企業型DCの事業主掛金は、会社にとっては同じく損金でありながら、社員にとっては課税も社会保険料負担も生じない「将来の年金原資」になります。この非対称性が、これから見る差の正体です。ただし、給与を上げたときに保険料がどれだけ増えるかは、標準報酬月額の等級によって変わります。この点は次章で詳しく見ていきます。
給与=報酬なので、社会保険料も所得税・住民税もかかる。
企業型DCの事業主掛金=報酬ではないので、社保も所得税もかからず、全額損金。
この「かからない」が、会社負担と社員の手取りの差を生みます。
3. 会社の負担で比べる|給与アップは社会保険料が上乗せになる
まず会社の負担から見ていきます。ここが経営判断の中心です。
給与を1万円上げると、会社はその1万円だけでなく、会社負担分の保険料も追加で払う可能性があります。会社が負担するのは、健康保険、子ども・子育て支援金(2026年4月から。労使折半)、厚生年金、雇用保険、労災保険、そして子ども・子育て拠出金(事業主のみ負担)です。会社側の負担率は、報酬に対しておおむね15%前後が目安になります。
ただし、ここで重要な注意点があります。健康保険と厚生年金の保険料は、給与の額そのものではなく「標準報酬月額」という等級にあてはめて決まります。そのため、給与を1万円上げても、次のようにケースが分かれます。
- 等級が変わらず、健康保険・厚生年金の保険料は増えない
- 等級が上がり、保険料が増える
- 等級の境目によっては、1万円の増額以上に標準報酬月額が動く
さらに、固定給を上げた場合の随時改定(月額変更)は、原則として変動月から3か月間の平均で標準報酬月額に2等級以上の差が生じたときに行われます。1万円の昇給だけでは2等級に届かず、その年の定時決定(4〜6月の報酬をもとに9月から改定)まで反映されないこともあります。
参照:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
一方、雇用保険料や労災保険料は報酬額に料率を掛けて計算されるため、給与が増えればその分だけ増加します。まとめると、給与1万円アップの会社負担は「1万円+追加の保険料」で、追加額は社員ごとの等級や年齢、加入する保険によって変わる、というのが正確な理解です。
これに対して、企業型DCの事業主掛金は報酬ではないため、健康保険・厚生年金・雇用保険などの算定対象になりません。掛金そのものに限れば、会社の追加負担は1万円で、給与のように保険料が上乗せされることはなく、全額が損金になります。ただし、制度全体としては別途、導入費用や運営管理手数料などが発生します(8章で詳しく触れます)。
| 給与を1万円上げる | 企業型DCに1万円拠出 | |
|---|---|---|
| 従業員に渡る額 | 1万円(額面) | 1万円(掛金) |
| 健康保険・厚生年金 | 等級が上がれば増加 | 増加なし |
| 雇用保険・労災など | 原則、増加 | 増加なし |
| 会社の総負担 | 1万円+追加の保険料 | 1万円+制度の運営費 |
ここで押さえておきたいのは、会社拠出型DCは「今払っている社会保険料を減らす」仕組みではないということです。あくまで、給与として同額を追加支給した場合に生じ得る保険料の追加負担を避けられる、という比較になります。
実際にどれだけ差が出るかは、社員ごとの標準報酬月額の等級、年齢(介護保険の対象かどうか)、加入する健康保険、労災保険率などによって変わります。自社の給与台帳をもとに試算するのが確実です。人数が多く、長く続けるほど、この差は積み上がっていきます。
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4. 社員の手取りで比べる|給与は税・社保で目減り、DCは満額
次に、受け取る社員の側から見ます。
給与を1万円上げても、社員の手取りが1万円増えるわけではありません。雇用保険料や所得税・住民税が増え、標準報酬月額の等級が上がれば健康保険料・厚生年金保険料も増えます。実際の手取りの増加額は、現在の給与、標準報酬月額の等級、年齢、扶養の状況、所得税率などによって変わります。
イメージをつかむために、一つのモデルケースを示します。以下は、給与1万円の増額によって標準報酬月額の等級が上がり、社会保険料も増える場合を仮定した概算です。
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 額面の増加 | 1万円 |
| 社会保険料(本人負担・約15%) | 約1,500円 |
| 所得税・住民税(税率15%の場合) | 約1,300円 |
| 手取りの増加 | 約7,200円 |
(※特定の給与水準・標準報酬等級・税率を仮定したモデルケースです。等級が変わらなければ健康保険・厚生年金の本人負担はすぐには増えず、手取りの減り方はこれより小さくなります。所得税率は課税所得に応じて5〜45%と幅があるため、実際の金額は人によって異なります。)
このように、会社が1万円出しても、社員が"今使える現金"として受け取るのは1万円より少ないのが実際です。
一方、企業型DCに拠出した1万円は、社会保険料も所得税もかからないため、1万円がまるごと社員の個人別管理資産として積み立てられます。会社の負担は給与アップのような保険料の上乗せがないのに、社員の資産としては満額が積み上がる——ここに効率の差があります。しかも、この1万円は運用によって将来増える可能性があります(相場によっては元本割れの可能性もあります)。給与で受け取って手取り分を貯蓄するのと、1万円をそのまま運用に回すのとでは、時間が経つほど差が開きやすくなります。
ただし、正直な注意点もあります。DCのお金は原則60歳まで引き出せません。今の生活費や急な出費には使えない「将来のためのお金」です。目先の現金がほしい社員にとっては、給与アップのほうがありがたい場合もあります。
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5. 見落としがちな社会保険の影響|将来の年金・手当
会社負担と手取りだけを見ると企業型DCが有利に見えますが、社会保険料がかからないことには裏側もあります。ここは公平にお伝えします。
給与を1万円上げた結果、標準報酬月額の等級が上がれば、保険料は増えますが、そのぶん将来の厚生年金が増え、傷病手当金や出産手当金といった給付の額も上がる可能性があります。標準報酬月額は保険料だけでなく、年金や健康保険の給付額の計算にも使われるためです。社員にとっては「保険料は増えるが、公的な保障も手厚くなる」わけです。
一方、企業型DCの事業主掛金は報酬に含まれないため、既存の給与を減らさず別枠で拠出する会社拠出型なら、現在の標準報酬月額を下げるものではありません。保険料が増えない代わりに、将来の厚生年金などの公的給付も増えません。DCで積み立てた分は、あくまで自分の口座の中で育つお金です。
ここは非常に重要な違いです。会社拠出型DCは、給与30万円の社員に別枠で1万円を拠出するイメージで、給与も公的保障もそのままに、DC資産だけが上乗せされます。これに対し、後述する選択制DCは給与等の一部を掛金に回す設計のため、標準報酬月額が下がれば公的保障も下がる可能性があります。同じ「企業型DC」でも、公的給付への影響はまったく違います。
なお会社にとっても、給与アップで標準報酬月額の等級が上がれば、その社員にかかる社会保険料(会社負担分)は毎月・継続的に増えます。いったん上げた給与は下げにくいことも踏まえると、給与アップは"固定的な負担増"になりやすい点も、経営判断では意識しておきたいところです。
給与アップ → 等級が上がれば、公的給付が「増える可能性」
会社拠出型DC → 公的給付は「現状維持」(減りはしない)
選択制DC → 等級が下がれば、公的給付が「下がる可能性」
6. 税制の違い|課税される給与、優遇されるDC
税金の面でも、2つは大きく違います。
給与は、受け取った時点で所得税・住民税の課税対象になります。これに対して企業型DCは、拠出時に課税されず、運用で増えた利益にも課税されません。受け取るときには、一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除という優遇が使えます。
ただし、企業型DCの受け取りは原則60歳以降です。また、ほかの退職金と近い時期に一時金で受け取ると、退職所得控除の重複調整(受け取る順番によって確認する期間が変わります)に注意が必要です。会社として制度を用意するなら、社員が受け取るときのことまで見据えて設計しておくと親切です。
整理すると、給与は「受け取り時に課税、以後は自由に使える」、企業型DCは「拠出時は非課税、受け取り時に控除、ただし原則60歳まで拘束」という税の構造です。目先の税負担を抑えつつ将来資産をつくる器としては企業型DCに分があり、いつでも使える自由度では給与に軍配が上がります。
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7. 第3の道|選択制DC(給与か掛金かを社員が選ぶ)
ここまでは「給与を上げる」か「別枠でDCに出す」かの比較でした。実はもう一つ、選択制DCという方法があります。これは、給与や生涯設計手当等として受け取るか、企業型DCの事業主掛金として拠出するかを、従業員が選択する制度設計です(DCへ回る分も、法的には事業主掛金です)。
選択制DCは、掛金の原資について会社の追加負担を抑えながら、従業員が自分で「給与で受け取るか、DCに積み立てるか」を選べる仕組みです。上乗せの原資を新たに用意しなくても、退職金・福利厚生の制度を用意できる点が特徴です(ただし、制度の運営費は会社側に発生します)。
ただし注意点があります。給与の一部を掛金に振り替えることで標準報酬月額の等級が下がると、社会保険料が下がります。手取りや会社負担が変わる一方で、将来の厚生年金や傷病手当金などの給付も下がる可能性があります(等級が変わらなければ社会保険料は下がりません)。メリットだけでなく、この点も含めて社員に正直に説明することが欠かせません。
「掛金の原資について会社の追加負担を抑えて福利厚生を整えたい」なら選択制DC、「会社が上乗せで報いたい」なら会社拠出型、という使い分けになります。
会社目線でいえば、選択制DCで社員の標準報酬月額が下がれば、その社員にかかる会社負担分の社会保険料も減るため、コスト面のメリットが生まれます。ただし、それは社員の将来の給付が減ることの裏返しでもあります。"会社のコスト削減"を前面に出すのではなく、社員のメリット・デメリットを正直に説明したうえで、社員自身に選んでもらう姿勢が大切です。
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8. DCで還元するときに会社が押さえること
企業型DCで社員に還元する場合、会社側で準備・確認しておくことがあります。
まず、企業型DCの導入・運営にはコストがかかります。導入時の初期費用に加え、加入者ごとの運営管理手数料などのランニングコストが発生します。ここで正しく理解しておきたいのは、会社拠出型DCは「今払っている社会保険料を減らす」制度ではないということです。あくまで、給与として同額を追加支給した場合に生じ得る保険料の追加負担を抑えられる、という比較になります。
したがって判断は、「給与で還元した場合に増える保険料」と「DCの運営コスト」を、自社の給与台帳をもとに並べて比べることになります。対象人数や掛金の額、社員ごとの標準報酬等級によって答えは変わるため、導入前にシミュレーションしておくと判断を誤りません。対象が少人数で掛金も小さい場合は、運営コストのほうが上回ることもあり得ます。
次に、対象範囲です。会社拠出型DCは、原則として一部の社員だけを恣意的に対象にすることはできず、一定の資格(職種や勤続年数など)にもとづいて公平に設計する必要があります。「一部の幹部だけ」といった設計ができるかは、要件の確認が必要です。実務上は、従業員も広く対象にできる形にしたうえで、掛金の額で差をつけるといった設計が一般的です。
さらに、制度の導入には労使の手続き(過半数労働組合、なければ過半数代表者の同意による規約の作成)が必要で、実際に始まるまでには数か月単位の準備期間を見込んでおくと安心です。加入者が自分で運用する制度のため、継続的な投資教育も求められます。
こうした手間やコストはありますが、いったん整えれば、毎年の還元を保険料の上乗せなしで続けられます。なお、掛金は全員が同じ額である必要はありませんが、差を設ける場合には合理的な理由が必要です。給与規程・退職金規程等にもとづく合理的な算定方法によって差を設けることは可能とされています。まずは無理のない金額から始め、様子を見ながら育てていく進め方もできます。単年の損得だけでなく、数年単位で捉えるのが会社目線でのポイントです。
注意|企業型DCは「給与の代わり」になるとは限らない
最後に、経営者としてぜひ押さえておきたい点です。会社拠出型DCの事業主掛金は、給与として支払われる基本的な賃金ではありません。最低賃金の判定は、実際に労働者へ支払われる基本的な賃金を基礎に行われます。
そのため、最低賃金を満たすための賃金や、法令・労働契約上必要な給与の引き上げを、DCの掛金で代替できるわけではありません。ベースとなる給与水準は適切に確保したうえで、追加の還元策として企業型DCを活用する、という考え方が基本になります。
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9. 経営判断|自社の狙いでどれを選ぶか
最後に、経営者としてどう選ぶかを整理します。目的によって答えは変わります。
| 会社の狙い | 向いている方法 |
|---|---|
| 今すぐ社員の生活を助けたい・自由に使わせたい | 給与アップ |
| 同じ原資で老後資産を厚くし、定着・採用に効かせたい | 会社拠出型DC |
| 掛金の原資について追加負担を抑えて福利厚生を整えたい | 選択制DC |
会社目線でいえば、企業型DC(会社拠出型)は給与のような保険料の上乗せがないぶん効率よく社員に還元でき、しかも「退職金制度がある会社」として採用・定着の訴求にもなるのが強みです。一方、目先の現金を求める社員には給与アップのほうが響くこともあり、社員の状況によって受け止め方は変わります。
たとえば、若手が多く「今の手取りを増やしたい」というニーズが強い会社なら給与アップ、将来不安への備えや長期定着を重視する会社なら会社拠出型DC、というように、社員層によっても向き・不向きは変わります。全員に一律で適用するのか、選択制で社員に選ばせるのかも含めて設計できます。
現実には、一部は給与で、一部はDCでというように組み合わせる会社も少なくありません。ベースの給与はしっかり確保しつつ、上乗せ還元の一部を企業型DCで行えば、「現金の魅力」と「効率・将来性」の両方をバランスよく社員に届けられます。大切なのは、「会社の負担」「社員の手取り」「将来の保障」の3つを並べたうえで、自社の狙いと社員の顔ぶれに合った配分を選ぶことです。
会社にとっては、給与アップと企業型DCのどちらが負担は軽いですか?
掛金そのものに限れば、企業型DC(会社拠出型)のほうが軽くなります。給与は標準報酬月額の等級が上がれば会社負担の社会保険料が増え、雇用保険料なども増えますが、企業型DCの事業主掛金は報酬にあたらないためこれらの算定対象にならず、全額が損金になります。ただし制度の運営コストは別途かかるため、自社の給与台帳をもとに比較するのが確実です。
社員にとってはどちらが得ですか?
一概には言えません。今使える現金がほしいなら給与アップ、税・社保で目減りさせずに老後資産を増やしたいなら企業型DCが有利です。ただしDCは原則60歳まで引き出せず、将来の厚生年金などが増えない点も踏まえる必要があります。
企業型DCの1万円は、本当に社会保険料がかからないのですか?
会社拠出型の事業主掛金は報酬とみなされないため、社会保険料の計算基礎に含まれません。従業員の給与にも算入されないので、所得税・住民税もかかりません。
1万円の給与アップで、社員の手取りはいくら増えますか?
雇用保険料や所得税・住民税が増え、標準報酬月額の等級が上がれば健康保険料・厚生年金保険料も増えるため、1万円がそのまま手取りになるわけではありません。実際の増加額は、現在の給与や等級、年齢、扶養状況、所得税率などによって変わります。
給与を下げてDCに回すのは、不利益変更になりませんか?
選択制DCで給与等の一部を掛金に回す場合、労働条件の変更にあたり得るため、従業員への説明と同意が前提です。標準報酬月額の等級が下がって社会保険料が下がると、将来の給付も下がる可能性があるため、メリット・デメリットを正直に伝えて進める必要があります。
社員10人に企業型DCを導入すると、給与アップと比べて会社負担はどのくらい変わりますか?
給与で還元する場合の追加保険料は、社員ごとの標準報酬月額の等級や年齢、加入する健康保険、労災保険率などによって変わるため、一律の金額では示せません。自社の給与台帳をもとに試算し、DCの運営コストと並べて比較することをおすすめします。
給与を上げずに、企業型DCだけで対応してもよいですか?
DCの事業主掛金は、最低賃金の判定の基礎になる基本的な賃金ではありません。最低賃金を満たすための賃金や、必要な給与の引き上げをDCで代替することはできません。ベースの給与を適切に確保したうえで、追加の還元策として活用するのが基本です。
企業型DCで還元すると、社員から「手取りが増えない」と不満は出ませんか?
DCは今すぐ使える現金ではないため、その点は事前の説明が大切です。「同じ会社の負担でも、税・社保で目減りさせずに将来資産が丸ごと積み立てられる」という効率のよさや、退職金・老後資金としての意味を伝えることで、納得を得やすくなります。現金ニーズが強い社員には、給与アップと組み合わせる方法もあります。
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まとめ|「今の現金」か「効率のよい将来資産」か
同じ1万円でも、給与アップは1万円に加えて保険料の追加負担が生じ得て、社員の手取りは税・保険料を引いた分にとどまります。企業型DC(会社拠出型)なら、掛金に保険料の上乗せはなく、社員の個人別管理資産には1万円がまるごと積み立てられます。会社目線では、保険料の上乗せなしで効率よく社員へ還元でき、採用・定着にも効くのが強みです。ただし、DCは原則60歳まで引き出せず、社員の目先の手取りは増えません。現金を求める社員には給与アップと組み合わせるなど、社員の顔ぶれに合わせた設計が現実的です。
おさえる4点
- 給与アップには保険料の追加負担:標準報酬月額の等級が上がれば社保も増加。DCの掛金にはこの上乗せがない。
- 社員への"届き方"が違う:給与は手取りベース、DCは1万円が満額で個人別管理資産へ。
- ただしDCは今使えない:原則60歳まで引き出せない将来資金。公的給付が増えるわけでもない。
- 給与の代わりにはならない:最低賃金や必要な賃上げをDCで代替はできない。ベース給与を確保したうえでの上乗せ策。
自社にとって最適な配分は、社員の顔ぶれや狙いによって変わります。制度設計やシミュレーションを含め、専門家と一緒に検討することをおすすめします。
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参照した公的情報源
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)
令和8年度の保険料率(都道府県毎・子ども子育て支援金0.23%) - 全国健康保険協会(協会けんぽ)
令和8年度保険料額表(都道府県毎) - 日本年金機構
厚生年金保険の保険料(保険料率18.3%・標準報酬月額) - 日本年金機構
随時改定(月額変更届) - 厚生労働省
令和8年度 雇用保険料率のご案内
【免責事項】
本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。