掛金は役職ごとに変えられる?企業型DCの掛金テーブル設計と注意点

掛金は役職ごとに変えられる?企業型DCの掛金テーブル設計と注意点

企業型DCの導入を決めた会社が、最後に必ず立ち止まるのが「誰にいくら出すか」です。

全員一律にするのか。役職で差をつけるのか。給与に比例させるのか。制度の入口ではなく設計の中身なので、パンフレットには載っておらず、運営管理機関からも「労使でご相談ください」と返ってきがちな領域です。

結論から言います。掛金の「額」に差をつけることはできます。ただし「率」に差をつけることはできません。 この区別が、掛金テーブル設計のいちばん重要な線引きです。

本記事では、厚生労働省の確定拠出年金Q&Aをもとに、何ができて何ができないのかを整理し、実際にテーブルを組むときの型と落とし穴を解説します。

📋 この記事でわかること

  • 「額」の差は認められ、「率」の差は認められないという原則とその根拠
  • 差をつける前提になる「一定の資格」の4類型と、加入者にしない人への代替措置
  • 掛金テーブルの3つの型(定額・給与比例・ポイント)と、それぞれの制約
  • 役員に厚く出したいときに何が壁になるか
  • 一度決めた掛金は下げにくい、という設計前に知るべき前提

1. 結論 ──「額」の差はつけられる、「率」の差はつけられない

1根拠となるQ&A

厚生労働省の確定拠出年金Q&A No.51が、この点を直接扱っています。勤続年数・年齢・資格等に応じて「額」や「率」に格差を設けることの可否について、回答はこうです。

💡 ポイント:労働協約等における給与及び退職金等の労働条件が異なるなど加入者の資格を区分することに合理的な理由がある場合には、区分した資格ごとに事業主掛金の「額」に差を設けることを目的として、加入者の資格を区分することができるなお、「率」に差を設けることはできないが、就業規則、退職金規程等で定められた給与などを基準給与とすることは可能。(厚生労働省 確定拠出年金Q&A No.51/法3条3項7号、法令解釈通知第1-1(3)、第1-2(4))

読み替えるとこうなります。

  • できる:資格Aは月2万円、資格Bは月1万円という定額の差
  • できる:全員「基準給与×3%」という共通の率(結果として額は人によって変わる)
  • できない:資格Aは基準給与×5%、資格Bは基準給与×3%という率そのものの差

2段階的な料率もできない

同じ論点で、Q&A No.62は具体例を挙げています。「基本給のうち20万円までの部分については3%、20万円超40万円までの部分については2%というような段階的な掛金率設定は可能か」という問いに対して、回答は「不可。」です。

累進的・逓減的な料率テーブルは組めない、と理解してください。

3「合理的な理由」のハードル

「額」の差も無条件ではありません。Q&A No.51は前提として、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」の「基本的な考え方」を踏まえることを求めています。

つまり、なぜその区分に差があるのかを、給与や退職金といった労働条件の違いで説明できる必要があります。 「なんとなく役職が上だから」では足りません。就業規則・退職金規程の建て付けと揃っているかを、設計前に確認してください。

参照:厚生労働省「確定拠出年金Q&A(令和8年4月1日施行)

2. 差をつける前提 ──「一定の資格」で区分する

掛金額に差をつけるには、その手前で加入者を「一定の資格」で区分することになります。ここには別のルールがあります。

1まず、全員加入が原則

Q&A No.34は、「基本的には、第一号等厚生年金被保険者は全員加入が原則であり、代替給付不要となるときは、極めて例外的なときのみ」としています。

区分は「例外を作る行為」だという前提から入ってください。

2認められる「一定の資格」は4類型

厚生労働省のQ&Aは、一定の資格を次の4つに整理しています。

類型内容
職種研究職、営業職など。労働条件・就業規則が他の職種と異なることが前提
勤続期間「一定の勤続期間以上(又は未満)」の従業員のみを加入者とする形
年齢「一定の年齢未満の者」を加入者とする形。この年齢は原則60歳以上で、例外として入口時点で50歳以上の者を外す取扱いが認められています
希望する者加入するかどうかを本人が選ぶ形(選択制)

年齢による区分は「向き」に注意が要ります。認められるのは「一定の年齢未満の者を加入者とする」形で、逆に「一定の年齢以上の者」を加入資格とすることはできません。 Q&A No.14は「加入資格を一定の年齢以上とすることは認められない」とし、No.44は「27歳以上」といった下限を置く設計を「不可。」としています。若手を待たせたいなら、年齢ではなく勤続期間で組むことになります。

そのうえで「一定の年齢」は原則60歳より低くできません。例外として、制度の開始時または開始後の入社日時点で50歳以上の者に限り、加入できないこととするか選択制とする取扱いが認められています(No.43)。「50歳以上」は加入前月時点での判定です(No.43-1)。制度に入ったあとで50歳になった人を外せる話ではありません。 加入者としない以上、代替措置も必要です。

3加入者にしない人には「代替措置」が要る

ここが設計上いちばん重いところです。一定の資格で加入者としない従業員には、事業主掛金の拠出に代わる相当な措置が必要です。Q&A No.16は、その確認方法を「給与規程・退職金規程等により確認されたい」としています。

水準は、Q&A No.22が代替給付の「等価性」について「基本的に同額。」、No.31が「『概ね同額』といった金銭を指す趣旨であり、カフェテリアプランをはじめとする別の措置を指すものではない」としています。

  • 金額:基本的に同額。大幅に低い代替では通りません
  • 老後の所得保障としての性格を持つ制度とすることが適当とされています(No.29)。既存の退職手当制度の継続、退職金前払い(給与上乗せ)、退職金共済(中退共など)が挙げられ(No.28・No.30・No.48-1)、カフェテリアプランのような福利厚生メニューは認められません(No.31)
  • 類型で違う:法令解釈通知第1-1(2)は、職種・勤続期間で区分する場合は厚生年金基金(加算部分)・DB・退職手当制度(前払い含む)、「50歳以上の者を外す」ただし書による年齢区分と、希望による区分の場合はDB(希望による区分に限る)または退職手当制度、と書き分けています
  • 確認:給与規程・退職金規程等に落とし込む必要があります
  • 保全:退職金を代替給付とする場合、外部積立等の保全措置は必須ではありません(Q&A No.50)

「一部の人を外してコストを抑える」という発想は、原則としては成り立ちません。 外せば同額の代替が要るので、会社の負担はほぼ変わらないというのが制度の建て付けです。

ただしQ&Aは、代替措置が不要になる場合も認めています。労働条件が著しく異なる者(No.25・No.37)、他方の職種に既に退職金等の措置がある場合(No.33)、雇用期間が3年未満であることが確実に見込まれ規約等で明確化されている場合(No.36)です。なおNo.36は、契約が更新されて結果的に3年以上になることが見込まれる場合はその時点でDCの加入対象とする必要があるとしています。

ただし、No.37は「嘱託、臨時雇員(いわゆるパート職員を含む。)」を例示にすぎないとし、No.34も「代替給付不要となるときは、極めて例外的なときのみ」としています。例外に乗れるかは規程を突き合わせて決まる話で、設計の出発点にはできません。

数字で見る ── 「外してもコストは減らない」

従業員10名の会社で、勤続3年未満の3名を加入資格から外す設計にした場合の試算です(掛金は月2万円・代替措置は同額の退職金前払い〈給与上乗せ〉とした場合・本記事による試算)。既存の退職一時金制度の継続で代替するなら、毎月の現金支出は発生せず将来の支払義務として積み上がります。

全員を加入者にする勤続3年未満を外す
企業型DC加入者10名7名
DC事業主掛金(月)20万円14万円
代替措置(月・基本的に同額)6万円
会社の負担合計(月)20万円20万円
掛金が損金になるか10名分すべて7名分はDC、3名分は給与等として
3名の受け取り方DC(原則60歳まで引き出せない)給与・退職金等

会社が払う総額は、ほとんど変わりません。 変わるのは、3名分がDCの税制メリットの外に出ること、事務が二本立てになること、そして代替措置の形で負担の中身が動くことです。給与上乗せで代替すれば標準報酬月額に反映されるため社会保険料の事業主負担が乗り、会社負担はむしろ増えます(DCの事業主掛金は報酬に含まれません)。退職一時金の継続で代替するなら、毎月の現金支出ではなく将来の支払義務になります。いずれにしても「外せば安くなる」にはなりません。

この例で必ず引っかかるのが代替措置の中身です。Q&A No.32は、新規採用者を当初3年間加入者としない設計について「退職金前払い制度等の別の代替措置が必要である」としています。多くの退職金規程が勤続3年未満を算定対象期間に含めていないためです。「既存の退職金制度があるから足りている」とはなりません。 なお上の表は運営管理機関等の手数料を含んでいません。

外す判断に意味があるとすれば、コスト削減ではなく「短期離職者の資産をDCに入れない」という運用上の理由になります。目的を取り違えないでください。

なお、一定の資格により企業型年金加入者とならない者は、iDeCoに加入することが可能です(Q&A No.15)。代替措置の説明とあわせて、本人に伝えておくとよい点です。

3. 掛金テーブルの3つの型

実務で使われるのは次の3つです。

1定額型 ── 資格ごとに金額を決める

もっとも分かりやすく、中小企業で採用が多い形です。「一般職1万円/管理職2万円」のように資格区分ごとに定額を置きます。

  • 長所:計算が単純で、事務負担が軽い。賞与月や昇給で掛金が跳ねることがない(ただしDB等を併用していて、他制度掛金相当額の関係で拠出限度額がその「定額」を下回る加入者については、公平性の観点から個々人の拠出限度額と同額を拠出することとされています。法令解釈通知第1-2(1)ただし書)
  • 短所:給与水準との連動がないため、高給者には物足りず、低給者には重く感じられることがある
  • 注意:区分ごとの金額差は「額の差」なので認められますが、区分自体に合理的な理由が要ります

2給与比例型 ── 基準給与に共通の率を掛ける

「基準給与×3%」のように決める形です。率は全員共通でなければならない一方、基準給与の作り方には自由度があります。

  • 就業規則・退職金規程等で定められた給与を基準給与にできます(Q&A No.51)
  • 基準給与に賞与を含めることも可能です。賞与が6月・12月であれば当該月の含まれる拠出期間の算出基礎にしてもよく、12か月にならしてもかまいません(Q&A No.60)
  • 年俸制の社員はポイント制で算出した給与、そうでない社員は基本給、という使い分けも給与規程に規定されていれば可能です(Q&A No.54)

つまり、率を動かせない代わりに「何に率を掛けるか」で設計するのがこの型です。ただし基準給与の作り方も無制限ではありません。次の3つは明確に否定されています。

  • 給与種目別に率を変える(例:基本給の3%+役職手当の5%)→「不可。」(Q&A No.63)
  • 掛金の算定方法を2種類置く規約(例:管理職は定額、一般職は給与比例)→「不可。」(Q&A No.65)
  • 途中で率を変える(例:55歳到達月から率を下げる)→「不可。掛金の率は、加入から喪失まで定率でなければならない。」(Q&A No.66)

なお、集団ごとに基準給与の定義を変えること自体は否定されていません(No.53・No.54)。否定されているのは上の3つの形です。基準給与を作り分ける場合も、乗じる率が全員共通であることと、作り分けが給与規程・退職金規程に根拠を持つことを確認してください。

💡 ポイント:給与比例型でいちばん多い事故が、賞与月や昇給後に拠出限度額を超えることです。Q&A No.58は、退職金規程に定める給与に一定率を乗じて算定する掛金が一定時期に拠出限度額を超過してしまうケースについて、その拠出限度額を拠出しつづける制度設計は「規約で定めれば可能」としています。算定式に頭打ちを規約に書いておく。 これで賞与月・昇給後の超過はまず防げます(DBを併用している場合は、他制度掛金相当額を控除した後の残枠で頭打ちを設定してください)。

3ポイント型 ── 資格・勤続などをポイント化する

DBや厚生年金基金で使われてきた形で、企業型DCでも使えます。ただし要件があります。

Q&A No.55の回答は「存続厚生年金基金、確定給付企業年金で認められているポイント制は可」とし、参考として年金局長通知「確定給付企業年金制度について」の要件を挙げています。DB側で認められている範囲がそのまま上限です。要件は3つ。

  • 昇格の規定が労働協約等において明確に定められていること
  • 同一の加入者期間を有する加入者について、最大ポイントの最小ポイントに対する割合に過大な格差がないこと
  • ポイントは恣意的に決められるものでなく、数理計算が可能であること

賞与込みの年収を12で割った金額を基準給与とすることも可能です(Q&A No.55)。資格別ポイントに乗じる一定率を100%とすることや、業績ポイントを給与とみなすことも、賃金規程等に規定されていれば可能です(Q&A No.59)。

ポイント型の落とし穴:0円は不可

Q&A No.56は、勤続1年で0P・2年で30Pというテーブルの会社が加入資格を勤続3年とし、勤続1年の非加入者への代替措置を「0P×掛金率=0円」とした設計について「0円は不可。定額と組み合わせる等の対応が必要。」としています。ポイントがゼロの年次があると代替措置もゼロになるためです。

加入者側でも同じことが起きます。確定拠出年金法施行令6条2号は、規約の承認基準として「事業主掛金の額の算定方法…は、特定の者について不当に差別的なものでないこと」を求めています。低ポイント者の掛金だけがゼロになる設計は、ここに引っかかるおそれがあります。

手当ての仕方には決まった形があります。掛金を「定額+ポイント×一定率」の合計にすることです。事業主掛金の算定方法として認められるのは、法4条1項3号と法令解釈通知第1-2(3)により①定額、②給与に一定の率を乗ずる方法、③①+②の合計額の3つだけ。「低ポイント者にだけ定額を保証する」という下限(フロア)はこの3つのどれにも当たりません。加入者によって算定方法が変わるため、算定方法が2種類ある規約を「不可。」とするQ&A No.65に抵触する可能性が高く、実務上は避けるのが無難です。

4. 役員に厚く出したいときに何が壁になるか

オーナー経営者からいちばん多い質問です。壁は3つあります。

1役員だけを加入者にするのは、実務上かなり難しい

役員も第一号等厚生年金被保険者である以上、全員加入が原則です。加入者としない従業員をつくるには「一定の資格」4類型で区分できることが前提ですが、「役員かどうか」はこの4類型に入っていません。 法令解釈通知は、これら以外を「一定の資格」とすることは「基本的には特定の者に不当に差別的な取扱いとなる」としています。

そのうえで、加入者としない従業員には基本的に同額の代替措置が要ります(No.22・No.31)。No.34は、給与規程・就業規則等が異なり合理性があれば代替給付が不要と考えられるとしつつ、「代替給付不要となるときは、極めて例外的なときのみ」としています。

なお、Q&A No.2は第一号等厚生年金被保険者が事業主のみである場合でも導入は「可能」としています。厚生年金の被保険者が社長ひとりだけの法人はこれに当たります。ただし配偶者や子を役員・従業員として厚生年金に加入させている法人は「事業主のみ」ではないため、この扱いにはなりません。その親族も原則として加入者とするか、4類型で区分したうえで代替措置を講じる必要があります。

2拠出限度額は役員も社員も同じ

拠出限度額は月額の定額で、役員報酬の水準では変わりません。 2026年12月1日施行予定の改正後で月6.2万円(現行5.5万円)、しかもiDeCoや他制度掛金相当額を含めた合計に対する上限です。

役員報酬が高いほど、DCだけでは受け皿として足りないという制約が出ます。役員退職金や小規模企業共済と組み合わせる前提で設計することになりますが、その組み合わせには2つの条件があります。

ひとつは加入資格です。小規模企業共済に加入できる会社役員は、常時使用する従業員が20人以下(商業〈卸売業・小売業〉と、宿泊業・娯楽業を除くサービス業は5人以下)の会社に限られます。この「常時使用する従業員」に役員・家族従業員・パート等の臨時雇用者は含まれません。掛金は月1,000円から7万円(年84万円)が上限で、会社の損金ではなく経営者本人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)です。負担する主体も違います。

もうひとつは出口の税金です。DCの老齢一時金、小規模企業共済の共済金(一括受取)、役員退職金は、いずれも税務上は退職所得。受け取る順番と間隔によって退職所得控除の勤続年数が重複調整され、控除枠を二重には使えません。国税庁の取扱いでは、調整の対象は次の3つです。

  • 前年以前4年内に他の退職手当等の支払を受けている場合。役員退職金と小規模企業共済の共済金は、どちらもここに入ります
  • 前年以前9年内にDCの老齢一時金(2026年1月1日以後に支払を受けたものに限る)を受けていて、本年中に退職手当等を受ける場合
  • 前年以前19年内に退職手当等を受けていて、本年中にDCの老齢一時金を受ける場合

役員退職金と小規模企業共済を近い年に受け取れば4年内ルールで、DCを絡めれば9年・19年ルールで調整されます。「制度が別なら控除も別」ではありません。

3役員退職金と合わせて相当性を見られる

見落とされやすい点です。法人税基本通達9-2-31は、退職した役員が会社から退職給与を受けるほか、確定拠出年金の企業型年金規約に基づく給付などを受ける場合、その給付額も勘案して退職給与が不相当に高額かどうかを判定するとしています。

ただし条文は「既往における使用人兼務役員としての勤務に応ずる」給付という限定を置いており、代表取締役はそもそも使用人兼務役員になれません(法人税法34条6項、同法施行令71条1項1号)。文言どおり当てはめられるとは限りませんが、「DCなら相当性を問われない」わけでもありません。過大役員退職給与かどうかは、業務従事期間・退職の事情・同種同規模法人の支給状況等による総合判断です(法人税法施行令70条2号)。

企業型DCは役員退職金と無関係の「別枠」にはなりません。 掛金を厚くするほど、出口で合算して見られると考えて設計してください。

なお、同じ考え方は特殊関係使用人(役員の親族など。法人税法施行令72条)にも及びます。法人税基本通達9-2-42は、その退職給与が不相当に高額かどうかを判定する際に、企業型DCからの給付だけでなく中退共など退職金共済契約に基づく給付も勘案するとしています。社長の配偶者や子を使用人として在籍させている会社が、その人だけ掛金や代替措置を厚くする設計には、役員と同じ論点がついてきます。

5. テーブルを決める前に押さえる4つの前提

1一度決めた掛金は下げにくい

規約に記載しなければならないのは、正確には事業主掛金の額の算定方法です(確定拠出年金法3条3項7号)。定額型なら金額そのもの、給与比例型なら率がこれに当たるので、水準を下げるには労使の合意を得て規約を変更し、厚生局への手続きを踏む必要があります。加えて、退職給付の水準そのものを引き下げる内容であれば労働条件の不利益変更の問題にもなり得ます。

下げにくい前提で、無理のない水準から始める。 これが実務上いちばん大事な判断です。業績が良い年に高く設定すると、後で身動きが取れなくなります。

2資格喪失時にも代替措置が要る

Q&A No.21は、加入資格を「勤続25年未満」とし、25年になった段階で資格を喪失する設計について「可能(ただし、資格喪失後の代替措置が必要)」としています。同様に、追加加入日を「入社直後の年1回の特定日」とする場合も、加入待機中の従業員に代替措置が必要です(Q&A No.23)。

「入れる/入れない」の線を引いたら、その反対側に必ずコストが発生します。

3選択制にする場合の取扱い

加入するかを本人が選ぶ形にする場合、一度加入しないことを選択しても後から加入できます(規約にその旨の規定が必要)。ただし一度加入すると脱退はできません(Q&A No.19)。

社員に説明するとき、この非対称性は必ず伝えてください。

なお役員自身が選択制DCを使う場合は別の論点がつきます。役員報酬を減額して掛金に振り替えるため、定期同額給与の要件に触れます。法人税法施行令69条1項1号イは、定期給与の額の改定を原則「当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日まで」に行うことを求めており、これ以外の時期に期中で減額すると差額が損金不算入となるおそれがあります(臨時改定事由・業績悪化改定事由に当たる場合を除きます)。役員分は事業年度の切り替わりに合わせて設計してください。

さらに、給与の一部を掛金に振り替える「選択制DC」を採る場合は、標準報酬月額が下がることの副作用も説明が要ります。社会保険料の負担は軽くなりますが、下がるのは負担だけではありません。

  • 将来の老齢厚生年金:標準報酬月額が下がった期間に対応する年金額が下がります
  • 傷病手当金・出産手当金:標準報酬月額をもとに計算されるため、受給額が下がる可能性があります
  • 遺族厚生年金・障害厚生年金:報酬比例部分をもとに計算されるため、同様に影響します
  • 失業給付・育児休業給付:賃金額をもとに計算されるものは、影響を受ける場合があります

手取りが増える面だけを説明して選ばせると、後で「聞いていない」となります。 これは配慮の問題ではなく要件です。Q&A No.70は、給与や賞与を減額してその減額分を掛金とする場合、「社会保険・雇用保険等の給付にも影響する可能性を含めて、事業主は従業員に正確な説明を行う必要がある」とし、説明にあたっては「具体的な事例を用いて説明することが望ましい」としています。あわせて、事業主掛金を事業主が拠出せず給与から控除する形にすることは認められないとも明記されています。

4区分を増やすほど事務が重くなる

資格区分が増えれば、入退社・昇格のたびに掛金の付け替えが発生し、給与計算との連携も複雑になります。区分は必要最小限に。 3区分で足りるなら5区分にしない、という判断が運用を守ります。

6. 設計チェックリスト

  • 区分の根拠を、就業規則・退職金規程の違いで説明できるか
  • 差をつけているのは「額」であって「」ではないか
  • 年齢で区分するなら、「一定の年齢未満」の向きになっているか(下限年齢は不可。50歳以上の除外は入口時点の判定に限る)
  • 加入者としない人に、基本的に同額の、老後の所得保障の性格を持つ代替措置を用意したか(退職金制度・中退共は可、カフェテリアプランは不可)
  • 資格喪失後・加入待機中の代替措置を決めたか
  • 給与比例・ポイント型なら、算定式に頭打ちを入れたか
  • ポイント型で、掛金が0円になる人が出ていないか(対応は「定額+定率の合計」。特定の人にだけ下限を置く形は算定方法として認められません)
  • 賞与を基準給与に含めるかを決め、含めるなら限度額の跳ねを確認したか
  • 下げにくい前提で、無理のない水準から始めているか
  • 役員の掛金は、出口(役員退職金との合算)まで見て決めたか
Q

役職ごとに掛金を変えることはできますか?

A

「額」に差をつけることはできます。 ただし、給与や退職金等の労働条件が異なるなど資格を区分することに合理的な理由がある場合に限られます(No.51)。単に役職が上だからでは足りず、就業規則・退職金規程の建て付けと整合している必要があります。

Q

一部の従業員を加入者から外せば、コストを抑えられますか?

A

抑えられません。加入者としない従業員には「事業主掛金の拠出に代わる相当な措置」が必要で、その水準は「基本的に同額」(Q&A No.22)、「概ね同額といった金銭」(Q&A No.31)とされています。代替措置として認められるのは、既存の退職金制度の継続や退職金前払い、中小企業退職金共済など老後の所得保障としての性格を持つ制度であり(Q&A No.28・No.29・No.48-1)、カフェテリアプランのような福利厚生では代替になりません。外してもほぼ同額のコストが別の形で発生します。

Q

勤続年数が浅い社員の掛金を0円にする設計はできますか?

A

避けてください。Q&A No.56は、ポイント制で低ポイント者に対する措置が0円になるケースについて「0円は不可。定額と組み合わせる等の対応が必要。」としています。加入者側でも、確定拠出年金法施行令6条2号が「事業主掛金の額の算定方法…は、特定の者について不当に差別的なものでないこと」を規約の承認基準としているため、特定の人の掛金だけがゼロになる設計は認められないおそれがあります。掛金の算定方法を「定額+ポイント×一定率」の合計にして定額部分を全員に行き渡らせるか、そもそも勤続期間で加入資格を区切って(この場合は代替措置が必要)対応することになります。

Q

掛金を決めた後で、業績が悪化したら下げられますか?

A

手続き上は可能ですが、簡単ではありません。事業主掛金の額の算定方法は規約の記載事項なので、労使の合意・規約変更・厚生局への手続きが必要です。さらに退職給付の水準そのものを下げる内容なら、労働条件の不利益変更の問題にもなり得ます。下げにくい前提で、無理のない水準から始めるのが実務的です。

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まとめ|設計の分かれ目は「額」と「率」

企業型DCの掛金テーブルは、自由に組めるようでいて、はっきりした制約があります。押さえるべきは次の3点です。

押さえるべき3つのポイント

  • 「額」の差は可、「率」の差は不可:資格を区分する合理的な理由があれば額に差をつけられますが、率そのものに差はつけられません。段階的な料率設定も不可です。
  • 外すと同額のコストが戻ってくる:加入者としない人には基本的に同額の代替措置が必要で、しかも「老後の所得保障としての性格を持つ制度」に限られます。既存の退職金制度や中退共は使えますが、カフェテリアプランのような福利厚生では代替になりません。人を絞ってコストを抑える設計は成り立ちません。
  • 下げにくい前提で始める:掛金の減額には労使合意・規約変更・厚生局への手続きが要り、不利益変更の問題にもなり得ます。最初から高く置かないことが実務上の要点です。

そのうえで、給与比例やポイント型を使うなら算定式に頭打ちを入れる、ポイント型なら0円の人を出さない。この2つを外さなければ、設計上の事故はほぼ防げます。

役員の掛金については、限度額が役員報酬の水準で変わらないこと、出口で役員退職金と合算して相当性を見られること、そしてDC一時金・小規模企業共済・役員退職金がいずれも退職所得で、受取時期によって退職所得控除が重複調整されることを踏まえて決めてください。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。