退職金1,000万円を企業型DCで準備するには月いくら必要?40歳・50歳・60歳からの試算

退職金1,000万円を企業型DCで準備するには月いくら必要?40歳・50歳・60歳からの試算

退職金の目標額を「1,000万円」に置く中小企業は多くあります。根拠のある水準です。東京都の「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」では、大学卒の定年時モデル退職金は1,149.5万円、高校卒は974.1万円でした。

問題は、その1,000万円をいつから、月いくらで積むかです。

この記事では、企業型DCの事業主掛金だけで1,000万円を作る場合の必要月額を、40歳・50歳・60歳スタートの3パターン×利回り4水準で機械的に計算します。先に結論を言うと、50歳と60歳のスタートには「拠出限度額」という制度上の壁があり、積み方の工夫が必要になります。

📋 この記事でわかること

  • 40歳・50歳・60歳から始めた場合の、1,000万円に必要な月額
  • 50歳スタートでは拠出限度額が壁になり、60歳までには届かないこと
  • 60歳スタートでも加入できる条件と、受け取りが5年遅れるルール
  • 同じ1,000万円でも、拠出年数によって受取時の税金が変わること

1. 試算の前提

はじめに前提を揃えます。

  • 積むお金:会社が拠出する事業主掛金のみ(本人の上乗せは含めない)
  • 計算方法:毎月末に一定額を拠出し、月複利で運用した場合の機械的な計算
  • 利回り:年0%・1%・3%・5%の4水準。将来の運用成績を約束するものではなく、計算上の仮定です。 元本確保型の商品を中心にする場合は0%の行を見てください
  • 拠出限度額:現行は月5.5万円。2026年12月1日からは月6.2万円に引き上げられます(いずれも、確定給付型の制度を併せて実施している場合はそこから他制度掛金相当額を控除した額。経過措置の適用を受けている場合は月2.75万円のまま)

会社側の扱いも先に押さえておきます。事業主掛金は、拠出した事業年度の損金になります(法人税法施行令135条)。また、事業主掛金は給与ではないため、原則として社会保険料の算定基礎に含まれません。月3万円の掛金は、月3万円の昇給よりも会社の負担が軽いのが通常です。

2. 40歳から始める|月2.4万〜4.2万円

40歳から60歳まで、20年間積む場合です。

想定利回り(年)必要月額
0%41,667円
1%37,656円
3%30,460円
5%24,329円

運用がまったく増えない前提でも月41,667円。現行の拠出限度額(月5.5万円)に対して余裕があります。 年3%で回った場合は月3万円強です。

65歳まで25年間積める場合は、さらに下がります。

想定利回り(年)必要月額(25年)
0%33,333円
3%22,421円
5%16,792円

💡 ポイント:40歳スタートなら、運用に頼らなくても限度額内で1,000万円に届きます。利回りを高く見積もって掛金を減らすより、0%でも届く掛金を基準に設計するのが堅実です。

3. 50歳から始める|60歳までは「限度額の壁」で届かない

50歳から60歳まで、10年間で1,000万円を目指す場合です。

想定利回り(年)必要月額
0%83,333円
1%79,271円
3%71,561円
5%64,399円

ここで壁に当たります。どの利回りでも、必要月額が拠出限度額(現行5.5万円、2026年12月から6.2万円)を超えています。 つまり、この試算の利回り水準(年0〜5%)では、50歳から企業型DCの事業主掛金だけで60歳までに1,000万円を作ることはできません。

参考までに、改正後の上限6.2万円を10年間積み続けた場合の到達額は次のとおりです。

想定利回り(年)月6.2万円×10年の到達額
0%744万円
3%866万円
5%963万円

現実的な選択肢は2つです。

① 65歳まで延ばす:拠出期間を15年にすると、必要月額は限度額内に収まります。

想定利回り(年)必要月額(15年)
0%55,556円
1%51,516円
3%44,058円
5%37,413円

0%想定の55,556円は現行限度額をわずかに超えますが、2026年12月以降の6.2万円枠には収まります。60歳以降も拠出を続けるには、本人が厚生年金の被保険者であり続けること(つまり働き続けること)と、規約の資格喪失年齢がそこまで設定されていることが条件です。

② DCの受け持ち分を下げ、他の制度と組み合わせる:DCでは上限いっぱいの744万〜963万円を目指し、不足分を別の原資で用意する設計です。従業員の退職金なら中小企業退職金共済(中退共)が候補になりますが、中退共は従業員のための制度で、役員は原則として加入できません(支店長・工場長など使用人としての地位を持つ使用人兼務役員に限り、雇用関係が認められる場合に加入でき、代表取締役は対象外です)。経営者本人の不足分は、退職一時金のほか、加入要件を満たせば小規模企業共済が候補になります。

なお、法人税基本通達9-2-31は、退職した役員が退職給与の支給を受けるほか、既往における使用人兼務役員としての勤務に応ずる厚生年金基金からの給付や企業型年金規約に基づく給付などを受ける場合には、その給付額をも勘案して退職給与が不相当に高額かどうかの判定を行うとしています。役員退職給与の過大判定は、業務従事期間・退職の事情・類似法人の支給状況などに照らした総合判断です。退職一時金とDCを組み合わせる場合は、DC給付も視野に入れた総額で設計し、具体的な金額は税理士に確認してください。

4. 60歳から始める|加入はできる。ただし1,000万円は現実的でない

160歳からでも加入はできる

企業型DCに「60歳まで」という加入の壁はありません。厚生年金の被保険者(原則70歳未満)で、規約の加入資格を満たしていれば、60歳からの新規加入も可能です。現役で働き続けるオーナー経営者なら、条件を満たすケースは珍しくありません。

ただし、受け取りの時期に注意が必要です。確定拠出年金法33条は、60歳以上で初めて加入し、それまでの通算加入者等期間がない人について、加入から5年を経過した日から老齢給付金を請求できるとしています。60歳で加入すれば、受け取れるのは65歳からです。

2数字はかなり厳しい

期間0%3%5%
60歳→65歳(5年)月166,667円月154,687円月147,046円
60歳→70歳(10年)月83,333円月71,561円月64,399円

5年での1,000万円は月15万円前後が必要で、限度額の2倍以上です。70歳まで10年積む場合でも、必要月額は限度額を超えます。上限6.2万円を10年積んで744万〜963万円ですから、60歳スタートで企業型DCだけで1,000万円を作るのは現実的ではありません。

それでも60歳からの加入に意味がないわけではありません。上限6.2万円を5年積めば、元本だけで372万円。掛金は全額損金になり、後述の退職所得控除も5年分育ちます。「1,000万円の器」ではなく「最後の積み増し枠」として使うのが実態に合った位置づけです。

💡 ポイント:スタートが遅いほど、利回りではなく拠出限度額が制約になります。50歳なら65歳まで延ばせば届き、60歳なら目標額そのものの見直しが必要です。

5. 会社の負担はいくらになるか

必要月額が見えたら、次は会社のキャッシュで確認します。掛金は拠出した事業年度の損金になるため、税引き後の実質負担は額面より軽くなります。

掛金月額年間の拠出額法人税等の軽減の目安(実効税率30%と仮定)
月3万円36万円約10.8万円
月5.5万円66万円約19.8万円
月6.2万円74.4万円約22.3万円

実効税率は会社の所得水準で変わるため、30%はあくまで計算例です。また、損金算入による軽減は、その事業年度に課税所得があることが前提です。赤字の事業年度では、その年の税負担はすぐには軽くなりません(欠損金の繰越控除により、将来の所得と相殺される余地はあります)。月3万円を20年間積んだ場合の拠出総額は720万円。これが毎年損金になりながら、社外に保全された退職金原資として積み上がります。

内部留保で同じ1,000万円を用意する場合、原資は法人税を払った後の利益です。「課税後の利益で貯める」か「損金にしながら積む」かが、現金準備とDCの根本的な違いです。退職時に一括で損金にできる退職一時金とも、費用が平準化される点で性格が異なります。

会社の負担は掛金だけでもありません。企業型DCには導入時の費用のほか、運営管理機関・資産管理機関への手数料が毎月かかり、従業員への継続的な投資教育などの事務も発生します。金額は運営管理機関やプランによって異なるため、掛金と合わせて総額で見積もってください。

なお、給与や賞与を減額してその分を掛金に振り替える形(いわゆる選択制)を取る場合は、社会保険・雇用保険の給付額に影響する可能性を含めて、従業員に正確な説明を行う必要があるとされています。この記事の試算は、報酬に上乗せして会社が拠出する前提です。

6. 同じ1,000万円でも、拠出年数で手取りが変わる

もう一つ、始める年齢で変わるものがあります。受け取るときの税金です。

企業型DCの老齢給付金を一時金で受け取ると退職所得になり、退職所得控除を差し引けます。このときの勤続年数は、原則として事業主掛金を納付した期間で数えます。1,000万円を一時金で受け取った場合で比べます。

拠出年数退職所得控除課税対象(退職所得)
10年(50歳→60歳)400万円300万円
15年(50歳→65歳)600万円200万円
20年(40歳→60歳)800万円100万円
25年(40歳→65歳)1,150万円0円

課税対象は(受取額−控除額)×2分の1で計算します。ただし、勤続(拠出)年数が5年以下の場合は、短期退職手当等・特定役員退職手当等の扱いにより、この2分の1計算が適用されない部分が生じることがあります。40歳から65歳まで25年積んだ場合、ほかに退職手当等の受け取りがなければ、1,000万円の一時金は課税対象ゼロです。同じ金額でも、拠出年数が短いと課税対象が生まれます。早く始める理由は、月額の軽さだけではありません。

なお、会社の退職一時金とDCの一時金を近い時期に受け取る場合は、退職所得控除の重複調整があります。DC一時金を先に受け取ると、その後に受け取る退職金では前年以前9年内のDC一時金(2026年1月1日以後に支払を受けたものに限ります。それより前に受け取ったDC一時金は前年以前4年内)が調整対象になり、退職金を先に受け取ると、その後のDC一時金では前年以前19年内の退職金が調整対象になります。受け取り方は出口の設計として別途検討してください。

7. 試算を使うときの注意点

1利回りは約束されない

この記事の3%・5%は計算上の仮定です。実際の運用成績は商品と市場次第で、マイナスになる期間もあります。利回り前提を高くして掛金を軽くする設計は、不足が出たときに取り返す時間がありません。 特に50歳以降のスタートでは、0%の行を基準にすることをおすすめします。どの商品で運用するかは加入者本人が決めるものであり、会社が特定の商品を勧めることはできません。

260歳まで引き出せない

企業型DCの資産は、原則60歳まで引き出せません。会社の資金繰りが苦しくなっても、積んだ掛金を戻すことはできません。掛金月額は、無理なく続けられる水準で設計する必要があります。

3限度額は他の枠と共有する

拠出限度額は事業主掛金だけの枠ではありません。本人が上乗せするマッチング拠出は事業主掛金との合計が限度額内に収まる必要があり、iDeCoとの併用にも調整があります(2026年12月以降は、月6.2万円の共通枠から事業主掛金等を差し引いた範囲でiDeCoに拠出する仕組みになります)。満額設計にする場合は、本人の上乗せ余地がなくなる点も説明しておくべきです。

4社員がいる会社では、社長だけの制度にはできない

企業型DCは厚生年金の被保険者が原則全員加入の制度です。社長の退職金1,000万円のためだけに導入しても、加入資格の設計によっては社員分の掛金も発生します。役員と社員で掛金に差をつける設計には、規約と就業規則の整備が必要です。

Q

利回りはどれを前提に計画すればよいですか。

A

将来の利回りは誰にも約束できません。計画としては、0%でも目標に届く掛金を基準にし、運用益が出た分は上振れとして扱うのが堅実です。特に拠出期間が10年を切る場合、運用で不足を埋める計画は立て直しがききません。

Q

50歳からでは企業型DCで1,000万円は無理ということですか。

A

60歳までの10年間では、必要月額(0%で月83,333円)が拠出限度額を超えるため届きません。65歳まで15年間積めば、必要月額は月3.7万〜5.6万円となり射程に入ります。60歳以降も厚生年金の被保険者として働き続けることと、規約の資格喪失年齢の設定が条件です。

Q

60歳で新規加入した場合、いつから受け取れますか。

A

それまでに通算加入者等期間がない場合、加入から5年を経過した日から請求できます(確定拠出年金法33条)。60歳加入なら65歳からです。

Q

掛金を途中で増額できますか。

A

規約の掛金の定め方によります。定額制なら規約変更が必要になるのが通常で、掛金の拠出に関する事項の変更には手続きと時間がかかります。最初から目標額に合わせた設計にしておくほうが現実的です。

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まとめ|何歳で始めるかが、月額と税金の両方を決める

退職金1,000万円を企業型DCで作る場合の必要月額は、スタート年齢でまったく変わります。

おさえる4点

  • 40歳なら月2.4万〜4.2万円:運用0%でも限度額内で届きます。利回りに頼らない設計が可能です
  • 50歳は「65歳まで」で設計する:60歳までの10年では限度額の壁で届きません。15年に延ばせば月3.7万〜5.6万円です
  • 60歳からは目標額を見直す:上限を積んでも5年で372万円前後。1,000万円の器ではなく、最後の積み増し枠です
  • 拠出年数は税金にも効く:25年拠出なら1,000万円の一時金は課税対象ゼロ。10年拠出なら課税対象300万円が生まれます

自社の場合に月いくら積めるか、役員報酬や従業員構成を含めた試算から始めてください。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。