退職金の「10年ルール」とは?2026年1月改正と社長が知っておくべき出口設計

企業型DCやiDeCoの話になると、どうしても、掛金を拠出するときの税制優遇という入口に目が向きがちです。iDeCoの本人掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になり、企業型DCの事業主掛金は従業員の給与所得に算入されません(会社側は原則として損金になります)。
しかし、社長の最終的な手取りを左右するのは、積み立てるときだけでなく、出口=受け取り方まで含めた設計 です。
その出口のルールが、2026年1月から変わりました。企業型DC・iDeCoの一時金と、会社からの退職金(役員退職金)を どの順番で・どの年に受け取るか によって、税金=手取りが変わる仕組みが強化されたのです。実務では「5年ルールが10年ルールになった」と呼ばれています。受け取る時期を検討しやすい社長ほど、知っているかどうかで差がつきます。
📋 この記事でわかること
- 退職所得控除の「勤続期間の重複調整」とは何か、なぜあるのか
- 「5年ルール」が「10年ルール」に変わって何が変わったか(対象・時期・数え方)
- 受け取る順番によって確認する期間が違う(DC先は9年内/退職金先は19年内)こと
- 社長が損をしないための、受け取り順・時期の考え方と準備
1. まず基本:退職金の税金と「勤続期間の重複調整」
退職金や、企業型DC・iDeCoを一時金で受け取ったお金は「退職所得」として扱われ、給与などとは分けて、優遇された方法で税金が計算されます。国税庁の計算式は次のとおりです。
退職所得 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2
ポイントは 退職所得控除 です。これは勤続年数(DCの場合は加入者等期間)が長いほど大きくなります。
| 勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A − 20年) |
ここで問題になるのが、退職金とDC一時金を別々の年に受け取るケース です。何も調整しないと、会社の勤続期間とDCの加入者等期間が重なっている場合でも、それぞれの給付について同じ期間を基礎とした退職所得控除が計算されてしまいます(いわゆる控除の二重取り)。
そこで税制上、一定期間内に複数の退職手当等を受け取った場合は、重複する勤続期間等を調整して退職所得控除額を計算する仕組み が設けられています。今回強化されたのは、この調整の対象となる期間です。
💡 ポイント:退職所得控除は「勤続年数×一定額」で決まります。だからこそ、いつ・どの順番で受け取るか によって、使える控除額=手取りが変わります。
参照:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
2. これまでの「5年ルール」の仕組み
改正前は、退職金を受け取る年の「前年以前4年内」に他の退職手当等を受け取っていた場合 に、重複する勤続期間を調整して控除を計算する、というのが基本でした。DC一時金についても、退職金より前に受け取っていれば、この4年内かどうかで判定されていました。
裏を返せば、DC一時金を 5年以上前 に受け取っていれば調整されず、退職金とDCの控除をそれぞれ活かせたのです。これが「5年ルール」と呼ばれた理由で、たとえば「2020年にDC一時金、2025年に退職金」なら間隔が空いていてセーフ、という設計が成り立っていました。
3. 【本題】新「10年ルール」への変更点
2026年1月から、この調整で確認する期間が 「前年以前4年内」から「前年以前9年内」へ延長 されました。実務上、受け取る年を 10年以上ずらさないと調整対象になる ため、「10年ルール」と呼ばれています。
適用の条件は、国税庁の資料で次のように整理されています。2026年(令和8年)1月1日以後に受け取ったDC一時金 について、その後(同じく2026年1月1日以後)に受け取る退職金の控除計算で、重複調整の対象になります。先に受け取ったDC一時金が2025年12月31日以前のもの である場合は、新しい9年内ルールの対象ではなく、従来の4年内ルールで判定されます。
見落としやすいのが、受け取る順番によって確認する期間が違う という点です。
| 受け取る順番 | 前の給付を確認する範囲 | 一般的な呼び方 |
|---|---|---|
| 先にDC一時金 → 後で退職金 | 退職金の受取年の前年以前9年内 | 10年ルール |
| 先に退職金 → 後でDC一時金 | DC一時金の受取年の前年以前19年内 | 19年ルール |
つまり、「先に退職金をもらってDCを後にすれば回避できる」というわけではありません。逆順の場合はもともと19年内という長い期間で確認されます。
「10年」「19年」は経過日数ではなく“受取年”で判定します
「10年」「19年」は一般的な呼び方です。実際には経過月数ではなく、後から受け取る給付の 受取年を基準に、「前年以前9年内」「前年以前19年内」に該当するか を確認します。たとえば2026年にDC一時金、2036年に退職金を受け取る場合、受取年を10年ずらしているため、原則として9年内ルールから外れます。年齢や受取月ではなく「西暦の年」で確認するのが安全です。
あわせて注意したいのが、調整の入り方です。重複した期間の控除が 必ずそのまま全額差し引かれるとは限りません。先に受け取ったDC一時金の金額が、その加入期間等に対応する退職所得控除額より少ない場合は、その金額に応じて 調整対象となる期間が短く計算される ことがあります。
なお、DC一時金の支払者が保存する「退職所得の受給に関する申告書」の保存期間が、7年から10年に延長 されました。過去の受給履歴を、より長期間確認できるようにする改正です。
参照:国税庁「令和8年分 源泉徴収のあらまし(税制改正等の内容・退職所得課税)」
4. 調整が入ると、なぜ手取りが減るのか
まず、通常の退職金の税金がどう計算されるかを、国税庁の例で確認します。
たとえば退職金2,300万円・勤続30年の場合、退職所得控除額は「800万円+70万円×(30年−20年)=1,500万円」。課税される退職所得は「(2,300万円−1,500万円)×1/2=400万円」で、源泉徴収される税額はおよそ38万円です。控除が大きいほど、課税される退職所得が小さくなり、税額も小さくなる——これが基本の構造です。
ここに重複調整が入ると、退職金側の退職所得控除から 重なった勤続期間分の控除額が差し引かれ、控除が小さくなります。退職所得は「(収入 − 控除)× 1/2」で計算されるため、減った控除額の半分が、そのまま課税対象(退職所得)の増加 となり、そこに所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。結果として、同じ資産でも受け取り方ひとつで手取りが変わるわけです。
ただし、影響の大きさは一律ではありません。前述のとおり、先に受け取ったDC一時金の金額によっては調整対象の期間が短く計算されますし、次のように 1/2課税が適用されないケース では、影響の出方が異なります。
- 控除が減る仕組み:重なった勤続期間の分だけ、退職所得控除が調整される(ただし前のDC一時金の金額により対象期間が短くなることがある)
- 手取りへの影響:通常の退職金では、減った控除額の「半分」が課税対象の増加になり、税額が増える
- 例外:役員等の勤続年数が5年以下の特定役員退職手当等などは1/2課税が適用されず、影響の出方が異なる
5. 中小企業オーナー・社長にとっての意味
このテーマは、実は 社長にとって影響が大きい 論点です。会社員に比べると、オーナー社長は、役員退職金の支給時期や、企業型DC・iDeCoの受給開始時期を、中長期的な経営承継計画とあわせて検討しやすい立場 にあるからです。
ただし、役員退職金は、単に税負担だけを理由に希望する年へ自由に動かせるわけではありません。実質的な退職の有無、退職金規程、株主総会等の適切な決議、支給額の相当性、(分掌変更の場合の取扱いを含む)法人側の損金算入時期 などの要件を満たす必要があります。ここは顧問税理士と必ず確認すべき部分です。
また、企業型DC・iDeCoの老齢給付金は、原則として60歳から75歳までの間で受給開始時期を選べますが、60歳から受け取るには一定の通算加入者等期間(10年以上)が必要 で、加入期間が短い場合は受給可能年齢が繰り下がります。
こうした前提のうえで、役員退職金・企業型DC・iDeCo・小規模企業共済など、複数の「出口」を いつ・どの順番で受け取るか を、退職金規程やDC残高とあわせて早めに並べて考えることが重要になります。
補足:役員在任期間が短い場合の注意
退職金のうち、役員等としての勤続年数が5年以下の部分(特定役員退職手当等)については、「1/2課税」の優遇が使えません。役員就任からの期間が短い社長が役員退職金を受け取る場合は、この点も含めて設計する必要があります。
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6. 出口の選択肢と、「年金受け取り」という別ルート
企業型DC・iDeCoの受け取り方には、一時金・年金・併用 の3つの選択肢があります。ここまで見てきた退職所得控除と「10年ルール」は、一時金で受け取るとき の話です。
一方、年金形式で受け取る場合は、退職所得控除ではなく「公的年金等控除」の対象 になり、課税の枠組みそのものが変わります。一時金に寄せると10年ルールの影響を受けますが、年金や併用を選ぶことで設計の幅が広がる場合があります。ただし、公的年金等控除にも上限があり、公的年金(老齢厚生年金など)と合算して計算されるため、必ずしも有利とは限りません。
なお、小規模企業共済についても、請求事由や受け取り方によって、退職所得・一時所得・雑所得など取扱いが異なる ため、個別の確認が必要です。どの受け取り方が得かは、勤続年数・DC残高・他の退職金・公的年金・家計の状況によって変わります。一律の正解はない、という前提で比較することが大切です。
7. 今からやるべきこと
受け取りが数年先でも、早めの棚卸しが選択肢を広げます。
- ① 受給予定の棚卸し:役員退職金の想定時期・額、企業型DC・iDeCoの残高と受給可能時期を書き出す
- ② 過去の受給を確認:これまでに退職金やDC一時金を受け取っていないか確認する
- ③ 順番と受取年を試算:受け取る順番・年を複数パターンで比べ、DCと退職金の受取年を10年以上ずらせるか検討する
- ④ 申告書を提出し、書類を保管:「退職所得の受給に関する申告書」を支払者へ提出する(未提出だと支給額の20.42%が源泉徴収されます)。本人も申告書の控えや退職所得の源泉徴収票を保管しておく
- ⑤ 専門家とすり合わせ:具体的な税額は前提で変わるため、顧問税理士など専門家と出口設計を確認する
2026年より前に受け取ったDC一時金も「10年ルール」の対象ですか?
新しい「前年以前9年内」のルールは、2026年(令和8年)1月1日以後に受け取ったDC一時金 について、その後に退職金等を受け取る場合に適用されます。2025年12月31日以前に受け取ったDC一時金 については、新しい9年内ルールではなく、従来の4年内ルールで判定されます。
退職金を先に受け取れば、10年ルールは関係ありませんか?
「先にDC一時金 → 後で退職金」の場合が9年内(10年ルール)です。逆に「先に退職金 → 後でDC一時金」の場合は、もともと 前年以前19年内 で確認されるため、油断はできません。順番を変えれば回避できる、というものではありません。
何年空ければ調整されませんか?
DCを先に受け取るなら、退職金とは 受取年を10年以上ずらす のが目安です(退職金を受け取る年の前年以前9年内にDC一時金があると調整対象になるため)。たとえば「2026年にDC一時金、2036年に退職金」といった設計が考えられます。経過月数ではなく、受け取った「年」で判定される点に注意してください。
年金で受け取れば、退職所得控除の調整は関係ありませんか?
年金形式での受け取りは、退職所得控除ではなく 公的年金等控除 の対象で、課税の枠組みが異なります。ただし公的年金等控除にも上限があり、他の年金と合算されるため、有利かどうかは状況によります。
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まとめ|出口で手取りが決まる。10年ルールは2026年1月にもう始まっている
入口(掛金の税制優遇)だけでなく、出口(受け取り方)で社長の手取りは大きく変わります。退職所得控除の調整で確認する期間が「5年→10年」に延長された今回の改正は、受け取る順番と年の設計を、これまで以上に重要にしました。
おさえる3点
- 先にDC一時金、後で退職金を受け取る場合の確認期間が実質「5年→10年」に延長。2026年1月1日以後に受け取ったDC一時金と、その後(同日以後)の退職金に適用される。
- 順番で確認期間が違う——先にDC→後で退職金は9年内、先に退職金→後でDCは19年内。逆順にすれば安心、ではない。
- 社長は受給時期を検討しやすい立場 にある。役員退職金の要件(実質的退職・決議・相当性など)を踏まえつつ、DC・iDeCo・小規模企業共済を並べ、受取年をずらせるか早めに試算し、専門家と確認する。
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