【2026年4月施行済み】マッチング拠出の「事業主掛金以下」制限撤廃|選択制DCとの違い・見直しガイド

2026年4月1日、企業型確定拠出年金(企業型DC)のマッチング拠出における長年の制限が消えました。「加入者掛金は事業主掛金を超えられない」——このルールが、年金制度改正法(令和7年法律第74号)に基づく改正で撤廃されたのです。

これまで「会社の掛金が少ないから、自分もわずかしか上乗せできない」と諦めていた従業員が、拠出限度額の枠を活かして積み立てられるようになりました。これは間違いなく大きな前進です。

一方で、中小企業の経営者からは「マッチングがそこまで自由になったなら、選択制DCとどちらを選べばいいのか」という声も聞こえてきます。撤廃で「たくさん積めるか」という差は縮みましたが、両者には今も本質的な違いが残っています。この記事では、撤廃で何が変わり・何が変わらなかったのかを正確に押さえたうえで、選択制DCとマッチング拠出の違いと、自社に向くのはどちらかを見極める判断軸を整理します。

📋 この記事でわかること

  • マッチング拠出の制限撤廃で「変わったこと」と「変わらないこと」
  • 撤廃を実際に使うために会社側に必要な対応(規約変更・2026年11月30日までの経過措置)
  • 選択制DCとマッチング拠出の本質的な違い(社会保険・給付への効き方)
  • 自社に向くのはどちらかを見極める3つの判断軸

1. 何が変わったのか——「事業主掛金以下」制限の撤廃

1従来のルール:本人の掛金は会社の掛金まで

マッチング拠出とは、会社が拠出する掛金(事業主掛金)に、従業員自身が掛金(加入者掛金)を上乗せできる仕組みです。上乗せした掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となり、所得税・住民税を軽減できます。

ただし従来は、2つの制限がありました。「事業主掛金と合算して拠出限度額(月5.5万円等)以内」であることに加え、「加入者掛金は事業主掛金の額を超えないこと」です。この後者の制限のせいで、たとえば会社の掛金が月5,000円の若手従業員は、限度額の枠がいくら余っていても、自分の上乗せは月5,000円までしかできませんでした。

2撤廃後:合算で限度額以内なら、会社掛金を超えて拠出できる

2026年4月1日以降、この「事業主掛金以下」の制限が撤廃されました。事業主掛金と加入者掛金の合計が拠出限度額以内であれば、事業主掛金を超える加入者掛金も設定できます

会社の掛金(月)撤廃前の本人上限撤廃後の本人掛金の法令上の最大額※
5,000円5,000円50,000円
10,000円10,000円45,000円
25,000円25,000円30,000円

※限度額が月5.5万円の場合。実際に選べる金額は規約の定めによります。

ここで一つ、正確に補足します。「限度額まで自由に」といっても、従業員が1円単位で好きな額を決められるわけではありません。加入者掛金は、規約に定められた掛金額の選択肢の中から選ぶ仕組みです(給与の○%といった率での設定はできません)。また、掛金額の変更は原則として拠出単位期間(通常は年1回)につき1回です。法令上の天井が上がったことと、実際に選べる金額の刻みは別の話——ここを混同しないことが実務では大切です。

3変わらないもの

合算で拠出限度額以内という枠は残ります(確定給付企業年金など他制度がある場合は、その掛金相当額が差し引かれた枠になります)。マッチングの掛金が給与から拠出されるものであり、税の扱いが「所得控除」である構造も変わりません。また、育児休業などで事業主掛金が0円となっている期間は、加入者掛金だけを拠出することはできません。

2. 「自動で使える」わけではない——会社側に必要な対応

実務上の最重要ポイントです。制限撤廃は法律上のものであり、自社の従業員が実際に会社掛金を超えて拠出できるようになるには、企業型DC規約の変更が必要です。 規約を変更しなければ、従来の上限制限がそのまま残ります。

1規約変更の手続き——届出不要のケースと申請が必要なケース

手続きの重さは、変更の内容で分かれます。上限制限の文言を削除するだけの場合や、今回の法改正によって初めて設定可能となった加入者掛金の選択肢を追加する場合は、原則として「特に軽微な変更」にあたり届出不要とされています。一方、マッチング拠出そのものを新設する場合や、法改正と直接関係のない掛金選択肢・拠出単位額を変更する場合は、承認申請が必要になることがあります。自社の変更がどちらに当たるかは、運営管理機関に確認しながら進めるのが確実です。

2経過措置:2026年11月30日までの「臨時変更」

もう一つ、今だからこそ知っておくべき時限ルールがあります。前述のとおり掛金額の変更は原則年1回ですが、このままだと「4月に制限が撤廃されたのに、自分の変更時期が来るまで増額できない」という人が出てしまいます。そこで経過措置として、2026年4月1日から11月30日までの間、制度改正後初めて事業主掛金を超える拠出を行う場合に限り、年1回ルールの例外として臨時の変更が認められています

注意点が2つあります。第一に、この特例の対象は「初めて事業主掛金を超える金額まで引き上げる場合」だけです。事業主掛金と同額までの増額や、事業主掛金を下回る範囲での増額は対象になりません。第二に、この経過措置を使うには規約への定めが必要で、変更月を限定している規約では臨時の変更月を追加する規約変更も要ります。期限は2026年11月30日。まだ対応していない会社は、早めに運営管理機関へ確認することをおすすめします。

3給与システム・事務フローの確認

これまで「本人掛金が会社掛金を超えていないか」のチェックを給与システムや事務フローに組み込んでいた会社は、その改修も必要です。掛金上限の判定ロジックが変わるため、導入時に構築した仕組みを見直さないと、従業員の増額申請を正しく処理できません。

3. 選択制DCとマッチング拠出——性格はどう違うのか

撤廃で「たくさん積めるか」の差が縮んだ今、あらためて問われるのが「自社には選択制DCとマッチング拠出のどちらが向くのか」です。判断するには、まず両者の性格の違いを正確に押さえる必要があります。

1そもそも仕組みが違う

選択制DCは、給与や前払い退職金として受け取るか、企業型DCの事業主掛金として拠出するかを従業員が選ぶ仕組みです。給与になる前の原資を掛金へ振り替えるのが特徴です。一方のマッチング拠出は、会社が拠出する事業主掛金に、従業員が自分のお金(給与から拠出する加入者掛金)を上乗せする仕組みです。「給与になる前に振り替える」のか「給与から上乗せする」のか——この入口の違いが、次に見る税・社会保険への効き方の違いを生みます。

2税の効き方の違い——実は「同じ」ではない

とはいえ、両者の性格の違いを知らなければ設計はできません。まず税金です。

マッチング拠出では、加入者掛金の全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になります。一方、選択制DCでは、掛金に回した金額がそもそも給与収入に含まれなくなります。一見同じに思えますが、給与収入が下がると給与所得控除の額も連動して変わる場合があるため、同じ3万円を拠出しても、所得税・住民税の軽減額が必ず一致するわけではありません。「どちらも節税になる」は正しくても、「効き方は同じ」ではない——この違いは押さえておく価値があります。

3社会保険・給付への影響の違い——最大の分岐点

そして最大の違いが、社会保険への効き方です。

選択制DCでは、掛金に振り替えた分が社会保険料の算定基礎(標準報酬月額)から外れるため、振り替えによって標準報酬月額の等級が実際に下がった場合、本人と会社双方の社会保険料が軽減されます。目安として、等級が月3万円相当下がった場合、社会保険料率を労使合計でおおむね30%とすると、会社側だけでも月4,000〜5,000円規模、加入する従業員が10人いれば年間で50万円以上の法定福利費が変わる計算です。ただし、給与が減っても等級が変わらなければ社会保険料は下がりませんし、随時改定には固定的賃金の変動後3か月平均で2等級以上の差といった要件もあります。効果は「いくら振り替えたか」ではなく「等級が動いたか」で決まります。

その裏面として、選択制で標準報酬や賃金が下がると、標準報酬月額等を基礎に計算される給付(老齢厚生年金・傷病手当金・出産手当金など)に影響する可能性があり、さらに雇用保険上の賃金を基礎に計算される給付(育児休業給付・失業給付など)にも影響しえます。この2系統の影響を分けて従業員に説明することが、事業主には求められています。

一方のマッチング拠出は、拠出したこと自体を理由として標準報酬月額や雇用保険上の賃金が下がるものではありません。そのため、選択制DCのような構造による年金・各種給付への影響を避けられるのが特徴です。裏を返せば、会社の社会保険料が軽減される効果もありません。

💡 ポイント:撤廃によって「拠出額の柔軟性」の差は消えました。残った本質的な違いは、社会保険(と給付)に触るのが選択制、触らないのがマッチングという一点です。会社のコストと従業員の給付、どちらにどう作用させたいか——ここが選択の分かれ道になります。次章で、具体的な判断軸を整理します。

4. 自社に向くのはどっち?3つの判断軸

性格の違いを踏まえ、自社にとっての向き・不向きを判断する軸を3つに整理します。

1軸1:社会保険料の軽減を経営メリットとして求めるか

選択制DCの社会保険料軽減は、従業員の掛金拠出に応じて会社負担分の法定福利費も下がる、経営側にも直接効く仕組みです(等級が実際に下がった場合)。人件費の構造的な圧縮を制度導入の目的に含めるなら、選択制が第一候補になります。一方、マッチング拠出には会社側の社会保険料軽減効果はありません。会社掛金はむしろ固定的な負担であり、「会社のコストを増やさずに福利厚生を充実させたい」という狙いであればマッチングが向きます。

2軸2:従業員の将来給付への影響をどう考えるか

選択制DCは標準報酬・賃金が下がりうるため、その裏で老齢厚生年金・傷病手当金・出産手当金といった社会保険の給付や、育児休業給付・失業給付といった雇用保険の給付が下がる可能性があります。とくに出産・育児を控えた従業員が多い会社では、この影響への配慮が欠かせません。従業員の公的給付への影響をできるだけ避けたいなら、拠出したこと自体では標準報酬や雇用保険上の賃金が下がらないマッチング拠出が向いています。選択制を採る場合は、この影響を含めた正確な説明が事業主に求められます。

3軸3:すでにどちらを導入済みか・従業員の構成

ゼロから選ぶ会社ばかりではありません。すでにマッチング拠出を導入済みの会社は、規約変更と経過措置対応だけで従業員の拠出枠を大きく広げられるので、まずは撤廃を活かし切ることが先決です。すでに選択制を導入済みの会社は、社会保険料メリットを手放してまで乗り換える必要は通常ありません。

従業員構成も判断材料です。選択制の社会保険料効果は「給与が高いほど大きい」と誤解されがちですが、正確には振り替えによって標準報酬月額の等級が実際に下がる従業員がどれだけいるかで決まります。等級が変わらない従業員や、標準報酬の上限等級に該当する高所得層では、想定した効果が出ないこともあります。若手中心で「とにかく積みたい」層が厚いなら、撤廃で枠が広がったマッチングの自由度が活きます。給与データに基づく事前試算が、判断の出発点です。

4従業員の上乗せ手段としての iDeCo との関係

なお、従業員個人が上乗せする手段としては、マッチング拠出のほかにiDeCoもあります。ここで重要な注意点として、マッチング拠出とiDeCoは併用できません(加入者ごとにいずれか一方の選択です)。この排他関係は改正後も変わっていません。撤廃後のマッチングは拠出枠が広がり、企業型DCの口座管理手数料を本人が直接負担しないケースが多いという利点もありますが、費用負担・商品ラインアップ・変更手続きは制度や運営管理機関ごとに異なるため、掛金上限だけでなく実際の条件を比較して判断する必要があります。

5. 2026年12月の限度額引き上げまで見据える

もう一つ、目の前の撤廃だけを見て制度を決めないことも大切です。2026年12月1日から、企業型DCの拠出限度額は月5.5万円から月6.2万円へ引き上げられます。 法令上は2026年12月から新しい限度額が適用されますが、実際の納付日や口座への反映時期は、制度の拠出スケジュールや運営管理機関等によって異なる場合があります。

つまり、マッチング拠出で事業主掛金と加入者掛金の合計として使える枠も、選択制で振り替えられる枠も、この先さらに広がります。いま行う制度の選択・設計は、この6.2万円時代を前提にしておくべきです。改正は2026年1月(受取時の課税ルール)・4月(マッチング制限撤廃等)・12月(限度額・iDeCo見直し)と段階的に続いており、全体のスケジュールは改正カレンダーの記事で整理しています。

6. よくある質問

Q

すでにマッチング拠出を導入しています。何もしなくても、従業員は会社掛金を超えて拠出できますか?

A

できません。自社の企業型DC規約の変更が必要です。上限制限の文言削除や、改正で初めて設定可能となる掛金額の追加であれば原則届出不要ですが、内容によって手続きが変わるため、運営管理機関に確認のうえ対応してください。あわせて、2026年11月30日までの臨時変更(経過措置)を使えるようにするかも検討しましょう。

Q

すでに選択制DCを導入しています。マッチング拠出に切り替えるべきですか?

A

通常、その必要はありません。選択制DCの社会保険料軽減という経営メリットを手放してまで切り替える理由がある会社は限られます。切り替えには規約変更や従業員への説明など相応の手間も伴います。まずは自社が「社会保険料の軽減」と「従業員の給付への影響回避」のどちらを重視するかを、3つの判断軸に沿って整理することをおすすめします。

Q

育休中でもマッチング拠出はできますか?

A

一律にできないわけではありません。育児休業中も事業主掛金が継続され、規約上・事務上、加入者掛金を拠出できる場合は継続できることがあります。一方、育児休業中の事業主掛金が0円となる規約では、加入者掛金だけを拠出することはできません。自社の規約の定めをご確認ください。

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まとめ|撤廃後は「何を重視するか」で選ぶ

2026年4月の改正により、マッチング拠出は、事業主掛金が少ない従業員でも拠出限度額の枠を活かしやすい制度になりました。「たくさん積めるか」という差は縮み、選択制DCとマッチング拠出は「何を重視するかで選ぶ」段階に入りました。

押さえるべき3点

  • 撤廃は自動適用ではない:規約変更が必要。経過措置(2026年11月30日まで・初めて事業主掛金を超える増額のみ対象)への対応も忘れずに。
  • 残った本質的な違いは社会保険:選択制は標準報酬・賃金に触れる(等級が下がれば社保軽減、その裏で給付に影響)。マッチングは拠出自体では標準報酬や雇用保険上の賃金が下がらない。
  • 3つの軸で選ぶ:会社の社会保険料メリットを求めるなら選択制、従業員の公的給付への影響を避けたいならマッチング。既存の導入状況と、等級が実際に下がる従業員がどれだけいるかも踏まえて判断する。

参照した公的情報源

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本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。