「選択制DC」と「マッチング拠出」どっちが良い?自社に最適な制度を見極める3つの基準

企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入や拡充を検討するとき、必ず出てくるのが「選択制DCとマッチング拠出、どちらにすべきか」という問いです。どちらも「従業員が自分の掛金を出して、税優遇を受けながら老後資金をつくる」点では似ているため、混同されがちです。
しかし、この2つは税金と社会保険料の効き方がまったく違う別の制度です。ここを理解しないまま「どっちが得か」だけで選ぶと、後で「思っていた効果と違う」という事態になりかねません。
結論から言えば、両者に絶対的な優劣はありません。自社の状況によって最適解は変わります。本記事では、まず2つの制度の根本的な違いを正確に整理したうえで、自社にとってどちらが合うのかを見極めるための3つの基準を提示します。
📋 この記事でわかること
- 選択制DCとマッチング拠出の根本的な違い(税・社会保険の効き方)
- 自社に合う制度を見極める3つの基準(原資/社保と給付/前提・併用)
- 2026年4月のマッチング拠出「制限撤廃」で何が変わったか
- 高所得の社長・役員の場合に、どう判断すべきか
目次
1. そもそも「選択制DC」と「マッチング拠出」は何が違うのか
まずは2つの制度の仕組みを正確に押さえます。ここが3つの基準を理解する土台になります。
1選択制DC ── 給与を原資にする(給与不算入で社保も下がる)
選択制DCは、従業員(役員を含む)の給与の一部を、本人の選択で掛金に振り替える仕組みです。「給与減額方式」とも呼ばれ、掛金に回した分はそもそも給与として支払われなかった扱いになります。
ポイントは、振り替えた掛金が税務上「給与不算入」となり、社会保険料の算定基礎からも外れることです。給与(標準報酬月額)そのものが下がるため、所得税・住民税だけでなく、健康保険料・厚生年金保険料といった社会保険料も下がります。会社にとっても、同じだけ法定福利費(社会保険料の会社負担分)が軽くなります。
2マッチング拠出 ── 会社の掛金に従業員が上乗せ(給与は変わらず社保は下がらない)
マッチング拠出は、会社がすでに事業主掛金を出している企業型DCにおいて、従業員が自分の掛金(加入者掛金)を上乗せできる仕組みです。
加入者掛金は給与から天引きされますが、給与の額そのものは変わりません。あくまで「受け取った給与の中から自分で積み立てる」形だからです。したがって標準報酬月額は下がらず、社会保険料は軽減されません。一方で、加入者掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になるため、所得税・住民税は軽減されます。なお、この所得控除は本人に対する優遇で、会社側に税制上のメリットはありません。
3【重要】税の効き方が違う ── 給与不算入 vs 小規模企業共済等掛金控除
ここが最も間違えやすく、最も大切なポイントです。両者はどちらも所得税・住民税を軽減しますが、その仕組みが異なります。
選択制DCは「給与不算入」、つまり給与から外れることで課税対象そのものが減ります。一方マッチング拠出は「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除で、いったん給与として受け取ったうえで課税所得から差し引きます。「マッチング拠出も給与から出すから社保が下がる」「選択制DCも所得控除だ」といった説明は誤りなので注意してください。社会保険料が下がるのは選択制DCだけです。
両者の違いを一覧で整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 選択制DC | マッチング拠出 |
|---|---|---|
| 掛金の原資 | 従業員・役員の給与(給与減額方式) | 会社の事業主掛金+本人の上乗せ |
| 会社の追加負担 | 小さい(給与が原資) | 事業主掛金の負担が前提 |
| 税の扱い(本人) | 給与不算入 | 小規模企業共済等掛金控除(所得控除) |
| 所得税・住民税 | 軽減される | 軽減される |
| 社会保険料 | 下がる | 下がらない |
| 将来の年金・各種給付 | 下がりうる | 影響しない |
| 会社の社会保険料負担 | 減る | 変わらない |
| 運用益・口座管理手数料 | 非課税/会社負担 | 非課税/会社負担 |
このように、2つは「似て非なる制度」です。共通するのは、企業型DCの枠内で運用益が非課税であること、口座管理手数料を会社が負担すること、原則60歳まで引き出せないことなどです。
2. 基準①|掛金の「原資」── 会社が出すか、給与を組み替えるか
ここからが、自社に合う制度を見極める3つの基準です。1つ目は「掛金の原資をどこに求めるか」です。
マッチングは「会社が事業主掛金を出している」ことが前提
マッチング拠出は、会社が事業主掛金を拠出している企業型DCがあって初めて成り立つ制度です。会社の掛金に従業員が上乗せする仕組みなので、会社がDCにお金を出していなければ、そもそもマッチングはできません。つまりマッチング拠出を選ぶことは、「会社が福利厚生として掛金を負担する」という前提を選ぶことでもあります。
選択制DCは給与が原資 ── 会社の追加負担は小さい
一方、選択制DCは従業員・役員の給与を原資にするため、会社の追加的な掛金負担は基本的に発生しません。むしろ給与が下がる分、会社の社会保険料負担(法定福利費)はむしろ軽くなります。「会社の持ち出しを抑えながら、従業員に税・社保メリットのある積立の場を用意したい」というニーズに向いています。
自社の「お金の出し方」で向き不向きが分かれる
整理すると、基準①は「会社がDCに新しくお金を出すかどうか」です。
- 会社が掛金を負担して福利厚生を手厚くしたい → 事業主掛金を出す前提のマッチング拠出が選択肢に入る
- 会社の負担を増やさず、従業員・役員の手取りを最適化したい → 選択制DCが向く
なお、会社が事業主掛金を出す「事業主掛金型」と、給与を原資にする「選択制」は、企業型DCの設計思想そのものが異なります。実務上は、自社の方針に合わせてどちらの設計を採るかを最初に決めるのが一般的です。
3. 基準②|社会保険料を下げたいか、将来の給付を守りたいか
2つ目の基準は、本記事で最も重要な判断軸です。「社会保険料を下げること」と「将来の給付を守ること」は、選択制DCではトレードオフの関係になります。
選択制DC:社保が下がる代わりに、将来の年金・給付も下がりうる
選択制DCで給与(標準報酬月額)が下がると、社会保険料が軽減されます。たとえば月3万円を選択制DCに振り替えると、その分だけ標準報酬月額の等級が下がり、本人・会社それぞれの社会保険料が減ります(軽減額は等級の刻みによって変わるため、あくまで目安です)。
ただし、社会保険料は「将来の給付」と表裏一体です。標準報酬月額が下がると、次のような給付も連動して下がる可能性があります。
💡 ポイント:選択制DCで標準報酬月額が下がると、社会保険料は減りますが、同時に次の給付も減る可能性があります。- 将来の老齢厚生年金(※老齢基礎年金には影響しません)- 障害厚生年金・遺族厚生年金(報酬比例部分)- 健康保険の傷病手当金・出産手当金- 雇用保険の育児休業給付・介護休業給付・失業給付(基本手当)目先の手取り増だけでなく、これらの保障が薄くなる点もあわせて理解しておく必要があります。
マッチング:社保は下がらないが、将来の給付に影響しない
マッチング拠出は給与額が変わらないため、社会保険料は下がりません。その代わり、将来の年金や傷病手当金・育児休業給付などの公的保障に一切影響しません。所得税・住民税の軽減と運用益非課税のメリットは受けつつ、公的保障はそのまま維持できる、というのがマッチングの特徴です。
従業員の年齢層・ライフイベントで判断が変わる
この基準②は、従業員構成によって最適解が変わります。出産・育児・病気・失業といったライフイベントが控えている若手・子育て世代が多い職場では、選択制DCの「給付が減るリスク」が現実的な不利益になりやすいため、慎重な説明が必要です。逆に、給付の影響が相対的に小さい層が中心であれば、社保削減のメリットを取りに行く判断もあり得ます。
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4. 基準③|制度の前提と併用ルール
3つ目の基準は、制度上の前提条件と併用のルールです。ここを外すと、そもそも導入できなかったり、想定した使い方ができなかったりします。
マッチングは事業主掛金が前提/iDeCoとは併用不可
前述のとおり、マッチング拠出は会社の事業主掛金がなければ成立しません。加えて、マッチング拠出とiDeCo(個人型確定拠出年金)は併用できません。従業員が自助で上乗せする手段として、マッチングを選ぶかiDeCoを選ぶかは二者択一になります。
2026年4月の改正でマッチングが使いやすくなった
従来、マッチング拠出には「加入者掛金は事業主掛金の額を超えてはならない」という制限がありました。会社の掛金が少ないと従業員も少ししか積み立てられない、という縛りです。
この制限が2026年4月から撤廃されました。改正後は、会社が規約で認めた場合、事業主掛金と加入者掛金の合計が拠出限度額の範囲内であれば、加入者掛金が事業主掛金を上回る設定もできます。拠出限度額は2026年4月時点で月5.5万円、2026年12月(拠出は2027年1月分)から月6.2万円に引き上げられるため、マッチングで使える枠はさらに広がります。会社掛金が少なくても従業員がしっかり積み立てられるようになり、マッチング拠出の魅力は大きく高まりました。
参照:厚生労働省「2025年の制度改正」
選択制DCの加入対象は厚生年金被保険者(扶養内パートは対象外)
選択制DCで加入できるのは、厚生年金の被保険者に限られます。扶養の範囲内で働くパート社員など、厚生年金の被保険者でない人は対象になりません。「全社員に選べる制度を」と打ち出す際は、誰が対象になるかを正確に把握しておく必要があります。
5. ケース別「自社にはどちらが向いているか」
3つの基準を踏まえ、典型的なケースで向き不向きを整理します。
会社がお金を出して福利厚生を手厚くしたい → 事業主掛金型+マッチング
採用・定着のために、会社が掛金を負担してでも福利厚生を厚くしたい場合は、事業主掛金を出す設計+マッチング拠出が向きます。会社が「老後の備えを後押しする」という姿勢を明確に示せ、従業員も社保の給付を減らさずに上乗せ積立ができます。2026年4月の制限撤廃で、会社掛金が小さくても従業員の積立余地が広がった点も追い風です。
会社の負担を抑えつつ手取りを最適化したい → 選択制DC
会社の追加負担を抑えながら、従業員・役員の手取りと社保負担を最適化したい場合は、選択制DCが向きます。会社の法定福利費も軽くなります。ただし、将来の給付が下がりうる点を、従業員に丁寧に説明し納得を得ることが不可欠です。説明を省くと、後々トラブルの原因になります。
高所得の社長・役員の場合
社長・役員自身が高所得の場合は注意が必要です。役員報酬が高く厚生年金の標準報酬月額の上限を超えている社長は、選択制DCで報酬を下げても厚生年金の保険料は下がりません(上限を振り切っているため)。この層では、選択制DCの社保削減効果は健康保険・介護保険など一部に限られます。社保削減を前面に出すより、所得税・住民税の軽減や課税の繰り延べ、受け取り時の退職所得控除といったメリットで捉えるのが実態に合います。
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【経営者向け】社会保険料の上限引き上げ(2027年9月開始)への備え|企業型DC活用で役員報酬を最適化する方法
役員報酬の手取りを最大化する!経営者のための「選択制DC」活用術と節税効果
ケース別の向き不向きを表にまとめると、次のとおりです。
| 自社の状況・ニーズ | 向いている制度 |
|---|---|
| 会社が掛金を負担して福利厚生を手厚くしたい | 事業主掛金型+マッチング拠出 |
| 会社の負担を抑え、手取り・社保を最適化したい | 選択制DC |
| 若手・子育て世代が多く、将来の給付を守りたい | マッチング拠出 |
| 給付影響が小さく、社保削減を取りに行きたい | 選択制DC |
| 従業員が自助でしっかり上乗せ積立したい | マッチング拠出(2026年4月以降は枠が拡大) |
| 高所得の社長・役員の課税繰り延べ・退職金づくり | 選択制DC(社保削減は限定的と理解して活用) |
選択制DCとマッチング拠出、結局どちらが得ですか?
一概には言えません。社会保険料まで下げたいなら選択制DC、将来の年金・給付を減らしたくないならマッチング拠出が向きます。会社が掛金を出すかどうか、従業員の年齢構成なども踏まえて、3つの基準で判断するのが適切です。
マッチング拠出だと、なぜ社会保険料は下がらないのですか?
マッチング拠出の加入者掛金は給与から天引きされますが、給与の額そのものは変わらないためです。標準報酬月額が下がらないので社会保険料は軽減されません。一方、所得控除により所得税・住民税は軽減されます。
マッチング拠出とiDeCoは両方使えますか?
いいえ。マッチング拠出とiDeCoは併用できません。会社にマッチング拠出の制度があり、それを利用する場合は、iDeCoには加入できません。
2026年4月の改正で、マッチング拠出は何が変わったのですか?
「加入者掛金は事業主掛金を超えてはならない」という制限が撤廃されました。会社が規約で認めれば、事業主掛金と合計で拠出限度額の範囲内であれば、会社掛金を超えて拠出できます。会社掛金が少なくても従業員がしっかり積み立てられるようになりました。
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まとめ|優劣ではなく「自社への適合」で選ぶ
選択制DCとマッチング拠出は、似ているようで税・社会保険の効き方が根本的に異なる制度です。どちらが優れているかではなく、自社の状況に合うのはどちらかを、次の3つの基準で見極めましょう。
見極める3つの基準
- 掛金の原資:会社が掛金を出すならマッチング、給与を組み替えるなら選択制DC。
- 社保と給付のトレードオフ:社保を下げたいなら選択制DC(ただし将来の給付も下がりうる)、給付を守りたいならマッチング。
- 前提と併用ルール:マッチングは事業主掛金が前提でiDeCoと併用不可。選択制DCは厚生年金被保険者が対象。
自社の「お金の出し方」「従業員構成」「守りたいもの」を整理すれば、最適な制度はおのずと見えてきます。
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参照した公的情報源
- 厚生労働省
確定拠出年金制度 - 厚生労働省
確定拠出年金制度の拠出限度額 - 厚生労働省
2025年の制度改正
【免責事項】
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