【経営者向け】社会保険料の上限引き上げ(2027年9月開始)への備え|企業型DC活用で役員報酬を最適化する方法

2025年6月に成立した年金制度改正法により、厚生年金保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」の上限が、2027年9月から段階的に引き上げられます。現行の65万円から、最終的には75万円まで。報酬の高い社長ほど、毎月の社会保険料負担が確実に重くなっていきます。
しかも、経営者にとっての痛みは従業員の比ではありません。社会保険料は労使折半が原則ですが、会社負担分の原資も、突き詰めれば自分の会社のお金です。つまりオーナー経営者は、増える保険料を「労使双方」で実質的に被ることになります。
この改正は、いわば避けられない「社保の負担増」です。止めることはできません。しかし、報酬の“受け取り方”を設計し直すことで、増えた負担を別の形で取り戻す余地は残されています。その中心になるのが企業型確定拠出年金(企業型DC)です。
本記事では、まず改正の中身を正確に押さえたうえで、年収1,500万円超の高所得経営者ほど陥りやすい誤解を解き、企業型DCを使った現実的な「防衛戦略」を解説します。
📋 この記事でわかること
- 2027年9月開始の厚生年金「標準報酬月額」上限引き上げの全体像
- 労使双方の負担増となるオーナー社長特有のリスク
- 高所得層向け、企業型DCを活用した役員報酬の最適化メリット
- 社長個人だけでなく会社全体での社保最適化戦略
- 2027年9月までに経営者がやっておくべき具体的な準備
💡 ポイント:2027年9月から厚生年金の上限が65万円から75万円へ段階的に引き上げられますが、健康保険の上限(139万円)は変更されません。
目次
- 1 1. 2027年9月開始|厚生年金「標準報酬月額の上限引き上げ」とは
- 2 2. 社長の負担はどれだけ増えるのか ──「労使双方負担」という経営者特有の重み
- 3 3. 【重要】年収1,500万円超の社長に「社保削減」の幻想は禁物
- 4 4. 企業型DCで「役員報酬を最適化」する3つの実務メリット
- 5 5. 会社全体で考える防衛戦略 ── 選択制DCと「年収500〜800万円層」の社保削減
- 6 6. 税務上の「掛金の種類」を取り違えない ── 経営者が押さえる3分類
- 7 7. 2027年9月までに社長がやるべき準備(時系列チェックリスト)
- 8 企業型DCの導入・運用サポートならFGパートナーズへ
- 9 まとめ|増税・社保増は止められないが、報酬の“受け取り方”は設計できる
1. 2027年9月開始|厚生年金「標準報酬月額の上限引き上げ」とは
改正の根拠 ── 2025年6月成立の年金制度改正法
今回の上限引き上げは、2025年(令和7年)6月13日に成立し、同年6月20日に公布された年金制度改正法(正式名称「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」)に基づくものです。
そもそも標準報酬月額には上限があり、給与が一定額を超えるとそれ以上は保険料が増えない仕組みになっています。その上限が長く65万円に据え置かれてきました。しかし、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍が65万円を超える状況になり、高所得者ほど報酬に対する保険料の割合が低くなる“逆進性”が問題視されたことから、上限を引き上げて負担と給付を実態に近づける改正が決まりました。
引き上げスケジュール ── 3段階で「35等級」まで新設される
現行の厚生年金は32等級(上限65万円)で構成されています。今回の改正では、その上に新たな等級を3段階で積み上げ、最終的に上限を75万円(35等級)に引き上げます。
| 施行時期 | 新設等級 | 標準報酬月額 | 対象となる報酬月額 |
|---|---|---|---|
| 2027年9月1日 | 33等級 | 68万円 | 66.5万円以上 〜 69.5万円未満 |
| 2028年9月1日 | 34等級 | 71万円 | 69.5万円以上 〜 73.0万円未満 |
| 2029年9月1日 | 35等級 | 75万円 | 73.0万円以上 |
適用される等級は、毎年4〜6月の報酬をもとに算定基礎届(7月提出)で見直され、原則として同年9月から反映されます。つまり最初の引き上げは2027年9月、そこから毎年9月に一段ずつ上限が上がっていくイメージです。
影響を受けるのは誰か ── 報酬月額66.5万円以上(年収約1,000万円相当)
この改正で保険料が増えるのは、賞与を除く報酬月額が66.5万円以上(役員を含む)の人です。年収に換算すると、賞与込みでおおむね1,000万円相当が目安になります。月収がこれを下回る場合、今回の上限引き上げの影響は受けません。
中小企業では、社長や役員、一部の高給与の幹部社員がここに該当するケースが多いはずです。「自社で誰が対象になるか」を早めに洗い出しておくことが、最初の一歩になります。
健康保険の上限(139万円)は据え置き ── 今回は「厚生年金だけ」の改正
ここは混同しやすいので強調しておきます。今回引き上げられるのは厚生年金の上限のみです。健康保険・介護保険の標準報酬月額の上限は139万円(50等級)のまま、変わりません。
この「厚生年金だけ上限が上がる/健康保険は139万円のまま」という非対称性が、後述する高所得経営者の防衛戦略を考えるうえで決定的に重要になります。
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実際の給与でいくら節税できる?将来の退職金をシミュレーションで見てみる💡 ポイント:上限が75万円になると、オーナー社長の場合、会社負担分も実質自己負担となり、年間約22万円のコスト増になります。
2. 社長の負担はどれだけ増えるのか ──「労使双方負担」という経営者特有の重み
標準報酬月額75万円クラスのモデルケース
厚生年金保険料率は18.3%(労使折半)です。上限が65万円から75万円まで上がると、最上位クラスの保険料は次のように変わります。
| 標準報酬月額 | 保険料(労使合計) | 折半額(本人・会社 各々) |
|---|---|---|
| 65万円(現行・32等級) | 118,950円 | 59,475円 |
| 75万円(改正後・35等級) | 137,250円 | 68,625円 |
| 増加額 | +18,300円/月 | +9,150円/月 |
被保険者本人の負担で見れば、月額で約9,150円、年間で約11万円の増加です。一般の従業員であれば、この「本人負担分の増加」が手取り減少として効いてきます。
オーナー経営者は会社負担分も実質自己負担 ── 一人あたり年約22万円規模
ところが、オーナー経営者の場合はこれで終わりません。会社負担分(同じく月+9,150円)の原資も、自分が支配する会社のキャッシュだからです。
したがって、オーナー社長一人について見れば、実質的な負担増は労使合計で月18,300円、年間で約22万円に達します。役員報酬がこの水準の役員が複数いれば、その人数分だけ会社のコストが積み上がる計算です。「個人の手取りが年11万円減る」だけでなく、「会社のコストが役員一人あたり年22万円増える」という二重の重みで捉える必要があります。
「将来の年金は増える」が、高所得層にとっての費用対効果は限定的
上限引き上げには、将来の老齢厚生年金が増えるという見返りもあります。標準報酬月額75万円で40年間加入した場合の報酬比例部分は、65万円の場合と比べて年間で20万円超のプラスになる、という試算もあります(概算)。
ただし、これはあくまで「将来・分割で・課税対象として」受け取る年金です。今すぐ確実に出ていく保険料の増加と、数十年先に少しずつ戻ってくる年金とでは、高所得層にとっての費用対効果(時間価値)は決して高くありません。だからこそ、「払う」だけでなく「どう受け取り、どう備えるか」を能動的に設計する意味が出てきます。
💡 ポイント:年収1,500万円超の場合、厚生年金はすでに上限を超えているため、DCで報酬を下げても保険料は減りません。健康保険など総合的な最適化が必要です。
3. 【重要】年収1,500万円超の社長に「社保削減」の幻想は禁物
ここが本記事で最もお伝えしたいポイントです。「社会保険料が上がるなら、企業型DCで報酬を圧縮して社保を下げればいい」──そう考えたくなりますが、年収1,500万円超の社長に限っては、この発想は半分しか正しくありません。
厚生年金は上限超過のため、報酬を多少下げても保険料は下がらない
年収1,500万円(報酬月額125万円程度)の社長は、現行の上限65万円も、改正後の上限75万円も、すでに大きく振り切っています。標準報酬月額は上限の等級に張り付いた状態です。
この状態では、企業型DCや選択制DCで報酬を月数万円下げたとしても、依然として上限を超えているため、厚生年金保険料は1円も下がりません。「DCで社保が下がる」という説明を高所得社長にそのまま当てはめると、過去に多くの提案資料がやってしまった典型的な誤りを繰り返すことになります。
一方、健康保険・介護保険は139万円の上限内 ── ここには削減余地が残る
ただし、すべての社会保険で振り切っているわけではありません。健康保険・介護保険の上限は139万円です。報酬月額125万円なら、まだ上限の手前にいます。
つまり、報酬の一部をDCに振り替えて標準報酬月額を下げれば、健康保険・介護保険の保険料については削減効果が働く余地が残っているということです。年収1,500万円超の層にとって、DCによる社保削減効果は「厚生年金には効かないが、健康保険・介護保険には効く」と整理するのが正確です。
だから「社保削減」ではなく「報酬の組み替えによる総合最適化」で考える
以上を踏まえると、高所得経営者にとっての企業型DCの価値は、「社保削減」という単一の物差しでは測れません。
- 厚生年金 … 上限を振り切っているため、削減はほぼ効かない(今回の負担増もそのまま受ける)
- 健康保険・介護保険 … 上限内なので、報酬の振り替えで削減余地あり
- 所得税・住民税 … 後述のとおり、ここに最も大きなレバレッジがある
- 法人税 … 全額損金で会社のコストも軽減
このように、複数の税・社会保険のバランスを見ながら報酬を組み替えて総合的に最適化する、という発想に切り替えることが、この層の正しい防衛戦略です。
💡 ポイント:企業型DCの事業主掛金は給与不算入のため、所得税・住民税がかからず全額損金になります。出口戦略としてもメリットが豊富です。
4. 企業型DCで「役員報酬を最適化」する3つの実務メリット
「社保削減」が主役になりにくい高所得層でも、企業型DCには明確なメリットが3つあります。むしろ、上限を振り切っている社長ほど、ここで効いてきます。
1 事業主掛金は「給与不算入」── 所得税・住民税の課税対象から外れる
企業型DCの事業主掛金(および選択制DCの掛金)は、税務上「給与不算入」です。給与として課税されず、社会保険料の算定基礎にも算入されません。
年収1,500万円超の社長は、所得税の最高税率45%に住民税10%を加えた実質55%の限界税率に達しているケースが多いはずです。この層が、本来は役員報酬として受け取っていた分の一部をDC掛金に振り替えれば、その金額は丸ごと課税対象から外れます。2027年1月(拠出分)からは企業型DCの拠出限度額が月6.2万円(年74.4万円)へ引き上げられる予定なので、振り替えられる枠も広がります。
ここで注意したいのが、事業主掛金・選択制DCは「給与不算入」であって「所得控除」ではないという点です(詳しくは第6章)。
2 全額損金算入 ── 会社の法人税負担も軽減
企業型DCの事業主掛金は、その全額が会社の損金になります(法人税法施行令第135条第3号)。役員報酬の一部をDC掛金に置き換えても、会社の費用としての性格は維持され、法人税の課税所得を圧縮できます。
個人段階で課税されず、法人段階でも損金になる──この「二重で効く」構造が、報酬を組み替える最大の動機になります。
3 出口メリット ── 退職所得控除・運用益非課税・差押禁止
DCに積み立てた資産は、運用期間中の運用益が非課税で再投資されます。さらに受け取り時には、一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象となり、税負担を抑えて受け取れます。受け取り方の選択は手取りに大きく影響するため、出口戦略まで含めた設計が欠かせません。
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💡 ポイント:年収500〜800万円の層は、選択制DCを活用することで社会保険料の削減効果が最も高く表れます。
5. 会社全体で考える防衛戦略 ── 選択制DCと「年収500〜800万円層」の社保削減
社長個人だけでなく、会社全体に視野を広げると、別の防衛ラインが見えてきます。
選択制DCの社保削減効果が最大化するのは年収500〜800万円層
選択制DCは、給与の一部をDC掛金に振り替えることで標準報酬月額を下げ、社会保険料と所得税・住民税を同時に圧縮する仕組みです。上限を振り切っている高所得層と違い、年収500〜800万円層は厚生年金・健康保険のいずれの上限にも達していないため、報酬を下げた分がそのまま保険料の削減につながります。社保削減効果が最も大きく出るのがこの層です。
役員報酬をあえてこのレンジに収めている社長や、配偶者・後継者などの同族役員がいる場合、ここは見逃せないポイントです。
役員一族・従業員を含めた「会社ぐるみの福利厚生 × 社保最適化」設計
採用や定着の難易度が上がる中で、「選べる退職金」としての企業型DC・選択制DCは福利厚生としての訴求力も持ちます。社長個人の節税にとどめず、役員一族・従業員までを含めて制度を設計すれば、会社全体の社会保険料コストの最適化と、人材戦略上のメリットを同時に取りにいけます。
【誤解注意】選択制DCの加入対象は「厚生年金被保険者」── 扶養内パートは加入できない
ここは制度設計でつまずきやすい論点です。選択制DCに加入できるのは厚生年金の被保険者に限られます。扶養の範囲内で働くパート社員(厚生年金の被保険者でない人)は、選択制DCには加入できません。
「全社員に選べる退職金を」と打ち出す際は、加入できる人とできない人の線引きを正確に把握しておく必要があります。社会保険の適用拡大が進む中で誰が被保険者になるかは流動的なので、ここは社労士・運営管理機関と確認しながら設計してください。
💡 ポイント:企業型DCの「給与不算入」とiDeCoなどの「所得控除」は税務上の扱いが異なるため、正しく区別して設計することが重要です。
6. 税務上の「掛金の種類」を取り違えない ── 経営者が押さえる3分類
DC関連の掛金は、税務上の取り扱いが種類ごとに異なります。ここを取り違えると提案資料全体の信頼性が崩れるので、正確に区別します。
1 「給与不算入」と「所得控除」はまったく別物
| 掛金の種類 | 税務上の取り扱い |
|---|---|
| 企業型DCの事業主掛金・選択制DC | 給与不算入(そもそも給与として課税されない/社保算定基礎にも入らない) |
| マッチング拠出・iDeCo・小規模企業共済等掛金控除 | 控除(所得控除として課税所得から差し引く) |
「給与不算入」は、給与の入り口で課税対象から外れる扱い。一方の「所得控除」は、いったん所得に計上したうえで控除する扱いです。効果が似て見えても性質が異なるため、選択制DCを「小規模企業共済等掛金控除の対象」と説明するのは誤りです。この取り違えは特に注意してください。
2 iDeCoとマッチング拠出は併用できない
加入者本人が掛金を上乗せする仕組みであるマッチング拠出とiDeCoは、併用できません。どちらを使うかは、勤務先の制度設計や本人の状況に応じて選択することになります。
3 2027年1月からの拠出限度額 月6.2万円との関係
企業型DCの拠出限度額は、2027年1月(拠出分)から月6.2万円に引き上げられる予定です(iDeCo等との合算管理)。社保増負担への防衛策としてDCを活用するなら、この新しい枠を前提に掛金設計を見直しておくとよいでしょう。
💡 ポイント:2026年中に対象者の洗い出しを行い、2027年1月の拠出限度額引き上げに合わせて掛金設計を見直すことが重要です。
7. 2027年9月までに社長がやるべき準備(時系列チェックリスト)
最後に、施行までのスケジュールに沿って準備を整理します。
1 〜2026年中|現状把握と等級シミュレーション
まずは、自社で報酬月額66.5万円以上の役員・社員を洗い出します。社長自身の標準報酬月額がどの等級に該当し、上限引き上げ後にいくら負担が増えるのかを試算しておきましょう。
補足:在職老齢年金の基準額は2026年4月から62万円に緩和
同じ2025年改正法では、働きながら年金を受け取る人の「在職老齢年金」の支給停止基準額が、2026年4月から51万円→62万円に引き上げられます。65歳以降も役員報酬を取りつつ年金を受け取る社長にとっては、年金が止まりにくくなる緩和(メリット)です。負担増の話と合わせて、報酬設計の前提として押さえておきましょう。
2 2027年1月|拠出限度額6.2万円化を踏まえた掛金設計の見直し
企業型DCの限度額引き上げに合わせ、役員報酬とDC掛金の配分を再設計します。所得税・住民税・健康保険・法人税への影響を総合的に見ながら、振り替える金額を決めます。
3 2027年9月|上限引き上げ第1段階(68万円)の適用
第1段階として33等級(68万円)が適用されます。給与計算システムの設定変更や、算定基礎届への反映が必要です。以降、2028年9月(71万円)、2029年9月(75万円)と続くため、毎年9月のタイミングを見据えて運用していきます。
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まとめ|増税・社保増は止められないが、報酬の“受け取り方”は設計できる
2027年9月からの標準報酬月額の上限引き上げは、報酬の高い社長にとって避けられない負担増です。とりわけ年収1,500万円超で上限を振り切っている層は、厚生年金についてはDCで削減することもできません。
しかし、視点を「社保削減」から「報酬の組み替えによる総合最適化」へ切り替えれば、企業型DCには所得税・住民税の圧縮、法人税の損金算入、健康保険・介護保険の削減余地、そして税効率のよい出口という、複数のレバレッジが残されています。さらに会社全体に広げれば、年収500〜800万円層への選択制DC活用や、福利厚生としての訴求力も取りにいけます。
「払う額」は法改正で決まってしまいます。けれども「どう受け取り、どう備えるか」は、今から設計できます。2027年9月という期限が見えている今こそ、自社の役員報酬とDC掛金の配分を見直す好機です。
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