【2026年10月変更】選択制DCの掛金は、キャリアアップ助成金の「賃金」に含まれる?

「非正規社員を正社員化してキャリアアップ助成金を受けたい」「同じタイミングで選択制DC(企業型確定拠出年金)も導入したい」——中小企業でよくある組み合わせです。ところがここには、見落とすと助成金を落としかねない論点があります。

キャリアアップ助成金の正社員化コースには「賃金を3%以上増額する」という要件があります。このとき、選択制DCの掛金は“賃金”としてカウントされるのか

結論からいうと、2026年10月1日以降に正社員転換等を行う場合、選択制DCの掛金運用額(掛金として積み立てた分)は、この要件の算定対象に含まれません。一方、2026年9月30日までの転換等については経過措置があり、一定の要件を満たす場合には、掛金運用額を含めて算定できることがあります

つまり、この取扱いは 正社員転換等の日が2026年10月1日より前か後か で変わります。この記事では、厚生労働省の情報をもとに、変更前後の違いと、正社員化と同時に導入する際の注意点を整理します。

📋 この記事でわかること

  • 選択制DCの掛金が、キャリアアップ助成金の「賃金」に含まれるかどうか
  • 「掛金として拠出する分」と「給与として受け取る分」で扱いが違うこと
  • 2026年10月1日を境に取扱いがどう変わるか(判定は転換等の日)
  • 正社員化と選択制DC導入を同時に進めるときの注意点

1. 結論:選択制DCの扱いは「2026年10月1日」を境に変わる

厚生労働省は、正社員化コースの賃金要件における生涯設計手当・選択制DCの取扱いを、2026年(令和8年)10月1日以降に正社員転換等を行う場合から変更 します。判定の基準は、6か月の賃金算定期間が10月をまたぐかどうかではなく、正社員転換等を行った日 です。

  • 2026年9月30日までの転換等:一定の要件を満たす場合、掛金運用額(A)と給与受取分(B)の合計額が算定対象になり得ます。
  • 2026年10月1日以降の転換等:掛金運用額(A)は算定対象外。給与受取分(B)のみ、一定要件で対象になり得ます。

変更の理由として厚生労働省は、選択制DCの事業主掛金(掛金運用額)が労働基準法・雇用保険法等において賃金に該当しないこと、他の制度における取扱いとの整合性を挙げています。

💡 ポイント:これから正社員化を検討する会社にとって実務的に重要なのは、2026年10月1日以降は「掛金分を賃上げに数えられない」 ということです。3%要件は、掛金以外の実際の賃金で確保する設計が基本になります。

2. どこで問題になる?——正社員化コースの「賃金3%以上増額」要件

キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、対象労働者を正社員に転換し、転換前6か月と転換後6か月の「基本給+諸手当」の賃金総額を比較して、3%以上増額している ことが要件のひとつです。

(転換後6か月の賃金総額 − 転換前6か月の賃金総額)÷ 転換前6か月の賃金総額 × 100 ≧ 3%

これは所定労働時間や支給形態が変わらない場合の原則的な計算です。転換前が時給・転換後が月給など、支給形態や所定労働時間が変わる場合は、単純な6か月総額ではなく、原則として1時間あたりの賃金に換算して比較 します。

また、次のような手当は、名称を問わず賃金比較の算定に含めません。ただし、含めるかどうかは名称だけでなく、実費補填か、毎月変動する性質か、就業規則等に算定方法が規定されているかなど、実態に基づいて判断 されます。

算定に含めない主な例理由
通勤手当・住宅手当・燃料手当・工具手当・食事手当実費を補填する目的のもの
時間外労働手当(固定残業代を含む)・休日手当繁閑等で変動し得るもの
歩合給・精皆勤手当本人の成績・勤務状況で変動するもの
賞与

なお、固定残業代の総額や時間相当数を減らしている場合には、固定残業代を含む場合と含まない場合の両方で3%以上の増額が必要になるケースがあります。

参照:厚生労働省「令和8年度キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース以外)Q&A

3. 「給与受取分」と「掛金拠出分」を分けて見る

選択制DCでは、給与の一部を「生涯設計手当」として切り出し、従業員がその金額を 「給与として受け取る」か「DCの掛金として積み立てる」か を選べるようにします。つまり生涯設計手当は、次の2つに分かれます。

  • 給与として受け取る分(B):通常の給与として課税・社会保険の対象になる部分
  • 掛金として拠出する分(A・掛金運用額):DC口座に積み立てられる部分

まず、生涯設計手当や選択制DCの 原資が前払い退職金である場合は、原則として算定対象外 です(本来は退職後に受け取る退職金を、前もって受け取っているにすぎないため)。

そのうえで、2026年10月1日以降の取扱い では、給与受取分(B)について、次の1~3を すべて 満たす場合に算定対象となり得ます。掛金運用額(A)は対象外です。

  • 給与所得として課税対象(所得税・住民税)となり、社会保険料の標準報酬の算定に含まれ、かつ雇用保険法上も賃金として扱われていること
  • 昇給額・残業代・賞与・退職金等の算出基礎額になることが就業規則等に明記されていること
  • 実費補填や毎月変動する性質の手当ではないこと

要するに、変更後は 「今もらう給与(B)」は要件次第で賃上げに数えられるが、「積み立てた掛金(A)」は数えられない という整理です。

4. 変更前後の違い(早見表)

正社員転換等の日による違いを表にすると、次のとおりです。

正社員転換等の日掛金運用額(A)給与受取分(B)
2026年9月30日まで1~3を満たす場合、A+Bの合計額で対象になり得る(算出基礎にAが含まれない場合はBのみ)同左
2026年10月1日以降対象外1~3を満たす場合、対象になり得る

いずれの時期も、生涯設計手当や企業型DCの 原資が前払い退職金である場合は原則として対象外 です。ただし、Q&A所定の要件を満たす場合は、上表の取扱いとなり得ます。

また、転換前後で 同じ選択制DCを利用していて、生涯設計手当の総額に大きな変更がなく、掛金(A)と給与(B)の内訳だけが本人の選択で変わっている ような場合は、その内訳変更だけで3%要件の達成・未達が左右されないよう、生涯設計手当を除外して 転換前後の賃金を比較する取扱いが示されています。

💡 ポイント:適用は「転換等の日」で判断します。2026年10月1日より前か後かで結論が変わることがあるため、転換のタイミングは慎重に確認しましょう。

5. 実務の落とし穴——正社員化と選択制DC導入を同時に進めるとき

正社員化と選択制DC導入を同時期に行う場合、次の点に注意してください。

落とし穴1:掛金分を「賃上げ」として計上できない

2026年10月1日以降の転換では、掛金運用額そのものを賃上げ額として上乗せして計算することはできません。そのため、基本給や算定対象となる諸手当の増額が十分でなければ、3%要件を満たさない可能性があります。なお、転換前後で同じ選択制DCを利用し、内訳だけが変わる場合は、生涯設計手当全体を除外して比較することがあります。

落とし穴2:基本給を生涯設計手当に「切り出す」場合の設計

選択制DC導入では、基本給の一部を生涯設計手当に振り替えることがあります。掛金に回した分は賃上げに計上できないため、実際の賃金(基本給や対象となる諸手当)で3%以上の増額を確保できているかを、必ず確認してください。

対策の基本は、3%の増額を、掛金以外の算定対象賃金で確保する ことです。同時に実施する場合も、算定対象賃金で3%以上増額し、規程を適切に整備できれば申請できる可能性があります。計算や規程整備が複雑になる場合は、DC導入と正社員転換の時期を分けることも選択肢です。

別の労務論点にも注意
基本給等を生涯設計手当に振り替える制度設計では、キャリアアップ助成金の賃金算定とは別に、最低賃金、割増賃金の算定基礎、不利益変更と評価されるリスク、労働条件の明示なども確認が必要です(切り出しただけで直ちに不利益変更となるわけではありませんが、リスクの確認は欠かせません)。

6. 混同注意:「賃金にカウント」と「退職金制度として認められる」は別問題

誤解が多いポイントです。「賃金3%要件で掛金がカウントされない」ことと、「退職金制度として認められない」ことは、別のレイヤーの話 です。

正社員化コースでは、正社員に「賞与または退職金制度のいずれか」かつ「昇給」が適用されていることが求められます。この 退職金制度 としては、企業型DC(選択型) も、就業規則等に正社員を対象とする制度として規定され、実際に運用されており、通常の退職金制度と比較して不合理でないと客観的に判断できる場合には、認められ得るとされています。単に導入しただけで自動的に認められるわけではありません。

一方で、iDeCo・iDeCoプラス(個人型) は、個人が主体的に加入する年金積立制度であり、事業所が上乗せ拠出していても、事業所が正社員を対象に規定する「退職金制度」には該当しないとされています。

  • 3%の賃金比較 … 掛金運用額(A)はカウントされない(2026年10月1日以降)
  • 退職金制度の有無 … 企業型DC(選択型)は要件を満たせば認められ得る/iDeCo・iDeCoプラスは非該当

なお、これは正社員化コースの話です。別に「賞与・退職金制度導入コース」があり、そちらでは6か月あたり1万8千円以上の退職金積立などが要件とされ、確定拠出企業年金も退職金制度として対象になり得ますが、要件が異なるため混同しないよう注意してください。

7. 今やるべきこと

  • ① 転換日を確認:正社員転換等の日が2026年10月1日より前か後かで、掛金運用額の扱いが変わる
  • ② 3%は実賃金で確保:正社員化コースを使うなら、賃金3%増額は掛金以外の算定対象賃金で満たす設計にする
  • ③ 切り出しを点検:生涯設計手当への切り出しで、基本給の減少・最低賃金割れ・不利益変更のリスクがないか確認する
  • ④ 就業規則を整える:算定基礎・支給要件などの記載が要件を満たしているか点検する
  • ⑤ 事前に相談:助成金の個別判断・申請は、管轄の都道府県労働局や社会保険労務士に事前確認する
Q

選択制DCの掛金に回した分は、3%の賃上げにカウントできますか?

A

転換等の日によって異なります。2026年10月1日以降の転換等では、掛金運用額は賃金算定の対象外 です。2026年9月30日までの転換等については、就業規則等の内容を含む一定の要件をすべて満たす場合、掛金運用額を含めて算定できることがあります。

Q

給与として受け取る分はカウントできますか?

A

生涯設計手当が退職金を原資としている場合は原則対象外ですが、給与として受け取る分については、課税・社会保険・雇用保険上の賃金扱いであることなど一定の要件を満たせば、算定の対象になり得ます。

Q

適用は6か月の算定期間が10月をまたぐかどうかで決まりますか?

A

いいえ。正社員転換等を行った日 が2026年10月1日以降かどうかで判断します。算定期間が10月をまたぐかどうかではありません。

Q

iDeCoは正社員定義の「退職金制度」として認められますか?

A

iDeCo・iDeCoプラス(個人型)は、事業所が上乗せ拠出していても「退職金制度」には該当しないとされています。企業型DC(選択型)は、就業規則等への規定・運用など要件を満たせば認められ得ます。

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まとめ|2026年10月以降、掛金運用額は3%増額に使えない

選択制DCの掛金運用額の取扱いは、正社員転換等の日が2026年10月1日より前か後かで異なります。2026年10月1日以降の転換等では、掛金運用額は「賃金3%以上増額」の算定対象外となり、給与受取分だけが一定要件のもとで対象になり得ます。

おさえる3点

  • 2026年10月1日以降の転換等では、掛金運用額(A)は算定対象外。2026年9月30日までの転換等には、一定の要件を満たす場合の経過措置がある(判定は転換等の日)。
  • 3%増額は、基本給などの算定対象賃金で確保する。同時に導入する場合は、手当の原資・就業規則・本人選択による内訳変更の取扱いまで確認する。
  • 3%要件と退職金制度の判定は別。企業型DC(選択型)は一定条件で正社員定義上の退職金制度になり得るが、iDeCo・iDeCoプラスは非該当。個別判断・申請は管轄労働局・社会保険労務士に確認する。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。