中退共は本当にお得?企業型DCとの“将来受取額の違い”をわかりやすく比較

中小企業の経営者にとって、従業員の退職金制度は、雇用の安定と従業員の将来を守るための重要な経営課題です。
長らく、中小企業の退職金制度といえば「中退共(中小企業退職金共済)」が標準的な選択肢として広く活用されてきました。しかし近年、その潮流は大きく変わりつつあり、「企業型DC(企業型確定拠出年金)」を導入する企業が急速に増加しています。
両者はどちらも国が認める優れた制度ですが、「従業員の将来の資産形成」すなわち「手元に残るお金」という観点で見た場合、その性質には決定的な違いがあります。
この記事では、制度の仕組みや会社側のメリットだけでなく、従業員にとって最も重要である「将来の受取額」に焦点を当て、中退共と企業型DCの違いを比較解説します。物価上昇が続く現代において、どちらを選ぶべきかの判断材料としてお役立てください。
目次
1. 結論:受取額の差を生むのは「運用」の有無
詳細な比較に入る前に、結論から申し上げます。
中退共と企業型DC、両者の将来的な受取額に大きな差が生まれる最大の理由は、制度の中に「資産運用の仕組み」があるかないか、この一点に尽きます。
■ 中退共
預けた掛金が、国が定める「予定利率」で積み上がっていきます。増え方は安定的ですが、利率は固定されています。
イメージとしては「積立定期預金」に近いです。
■ 企業型DC
預けた掛金を、従業員自身が選んだ金融商品で運用します。世界経済の成長に合わせて資産を増やすことが可能です。
イメージとしては「長期・積立・分散投資」です。
この「運用」の有無が、10年後、20年後、30年後という長い時間を経た時、数百万円、場合によっては数千万円という大きな資産格差を生み出す可能性があります。
「安心だから」と選んできた制度が、インフレ時代においては「リスク」になり得る現実を、まずは直視する必要があります。
2. 中退共:安心・安全だが「増えにくい」現実
まず、従来から馴染みのある中退共の仕組みを改めて整理しましょう。
中退共(中小企業退職金共済)は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業のための国の退職金制度です。会社が毎月掛金を支払い、従業員が退職した際に、中退共から直接従業員へ退職金が支払われます。
受取額の決まり方:「掛金」×「期間」
中退共の受取額は、基本的に「掛金月額」と「納付月数」で決まります。
掛金は、あらかじめ定められた「予定利率(基本退職金)」で運用されますが、これは“固定金利の預金”のようなものです。経済情勢が良くなっても、急激に受取額が増えることはありません。
現在の予定利率とインフレリスク
現在の予定利率は年1.0%です。
かつての高金利時代であれば、この利率でも十分に魅力的でした。しかし、現在は違います。
例えば、世の中の物価が年2%や3%で上昇していく「インフレ局面」において、年1.0%でしか増えない資産を持っていた場合どうなるでしょうか?
額面の金額は増えていても、「お金の実質的な価値(購買力)」は目減りしてしまうのです。
中退共のメリット・デメリット
メリット
- 管理が容易:事務手続きがシンプルで、会社側の管理負担が少ない。
- 元本割れなし:制度が続く限り、基本的には元本割れのリスクがない安心感がある(※納付月数が長期の場合)。
- 予測可能性:将来いくら貰えるか、退職金の計算が容易。
デメリット(将来受取額の観点)
- 資産が増えにくい:複利効果が薄く、資産の伸びしろが限定的。
- インフレに弱い:物価上昇率に利率が追いつかず、実質的な資産価値が下がるリスクがある。
- 当事者意識の欠如:会社任せの制度であるため、従業員が「自分の資産を育てる」という意識を持ちにくい。
【中退共の試算例】
- 条件:月額1万円を30年間積み立てた場合
- 掛金元本:1万円 × 12ヶ月 × 30年 = 360万円
- 中退共の受取額: 約 411万円
30年という長い期間をかけて増えた金額は、約51万円にとどまります。これを「安全」と捉えるか、「機会損失」と捉えるかが、判断の分かれ目となります。
3. 企業型DC:「複利」を味方に資産を育てる仕組み
次に、導入企業が増えている企業型DCについて見ていきましょう。
企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛金を拠出し、従業員(加入者)自身がその資金を運用して将来の年金を準備する制度です。欧米ではスタンダードな「401kプラン」の日本版です。
受取額の決まり方:「元本」+「運用益」
企業型DCの受取額は、「掛金元本」に「運用成果(運用益)」が加算されて決まります。
従業員は、会社が用意した投資信託(国内外の株式や債券など)や元本確保型商品(保険・預金)のラインナップから、自分のリスク許容度やライフプランに合わせて運用先を選びます。
企業型DCの真価:「複利」の効果
企業型DCの最大の武器は「複利」です。運用で得た利益が、さらに次の利益を生み出すサイクルを繰り返すことで、雪だるま式に資産が増えていきます。
特に20年、30年といった長期投資においては、この複利効果が絶大な力を発揮します。
企業型DCのメリット・デメリット
メリット(将来受取額の観点)
- 資産増大の可能性:長期の国際分散投資により、中退共を大きく上回るリターンが期待できる。
- 非課税メリット:通常の投資では利益に対して約20%の税金がかかるが、企業型DCの運用益は全額非課税。
- 金融リテラシーの向上:従業員が経済や投資に関心を持つきっかけとなり、自律的なキャリア形成につながる。
デメリット
- 変動リスク:運用状況によっては、一時的に元本を下回るリスクがある(ただし、長期運用でリスクは平準化されやすい)。
- 自己責任:従業員自身が運用指図を行う必要があるため、会社による「投資教育」のサポートが不可欠。
【企業型DCの試算例】
- 条件:月額1万円を30年間積み立てた場合
- 掛金元本:1万円 × 12ヶ月 × 30年 = 360万円
▼ 運用成果による受取額シミュレーション
- 年利3%で運用(安定的): 約 582万円(中退共より +約171万円)
- 年利5%で運用(標準的): 約 832万円(中退共より +約421万円)
- 年利7%で運用(積極的): 約 1,219万円(中退共より +約808万円)
※上記はシミュレーションであり、将来の成果を保証するものではありません。
※一般的な海外株式(全世界株式やS&P500等)の過去の長期平均リターンは、年利5〜9%程度と言われています。

4. 比較検証:なぜこれほど「差」がつくのか?
中退共と企業型DCのシミュレーション結果を並べて比較してみましょう。その差は歴然としています。
| 制度名 | 30年間の 掛金元本 | 将来の 受取額(目安) | 元本との 差額(利益) |
|---|---|---|---|
| 中退共 (年利1.0%) | 360万円 | 約 411万円 | + 約51万円 |
| 企業型DC (年利3.0%) | 360万円 | 約 582万円 | + 約222万円 |
| 企業型DC (年利5.0%) | 360万円 | 約 832万円 | + 約472万円 |
「1.0%」と「3.0%」の決定的な違い
中退共の「予定利率1.0%」は、現在のメガバンクの普通預金金利(0.001〜0.02%程度)と比較すれば、確かに高く見えるかもしれません。
しかし、世界経済の成長率や、企業型DCで期待できるリターン(年3〜7%程度)と比較すると、その効率の悪さは否めません。
同じ掛金を会社が負担していても、従業員が受け取る段階では2倍、3倍もの開きが出ることがあります。
中退共の「お得さ」は、あくまで「元本が保証された預金」の延長線上での話であり、従業員の老後を支える「資産形成」という観点では、企業型DCに構造的な優位性があります。
インフレ時代における「実質価値」
さらに重要なのはインフレへの対応力です。
株式や投資信託などで運用する企業型DCは、一般的にインフレ時には価格が上昇する傾向があります。つまり、物価が上がっても資産価値が目減りしにくいのです。
一方、固定金利的な中退共はインフレに弱く、将来受け取る411万円が、今の411万円と同じ価値を持つとは限りません。
5. 経営者としての選択:従業員の「未来」をどう守るか
退職金制度は、単なる「辞める時の手切れ金」ではありません。
現代においては、公的年金だけでは不足する老後資金を補う、「従業員の人生を支える資産形成の柱」としての役割が求められています。
中退共が向いている企業
- とにかくシンプルに、事務負担をかけずに最低限の退職金を用意したい。
- 従業員の平均年齢が高く、運用のための長期期間が確保できない。
- 投資や運用に対して、従業員全体が強い拒否反応を持っている。
企業型DCが向いている企業
- 従業員の「将来の受取額」を本気で増やしてあげたい。
- 福利厚生を充実させ、優秀な人材の採用・定着につなげたい。
- 従業員の金融リテラシーを高め、会社に依存しない自律的なキャリア形成を支援したい。
- 社会保険料の適正化など、経営的なコストメリットも享受したい。

まとめ
中退共が持つ「元本保証の安心感」は確かに一つの魅力です。しかし、モノの値段が上がり続けるこれからの時代において、「お金が増えないこと」は、それ自体が最大のリスクになり得ます。
従業員の豊かな未来のために、また、選ばれる魅力的な会社であり続けるために。「貯める」だけの中退共から、「資産が育つ」仕組みである企業型DCへ。その導入や切り替えを、真剣に検討する時期が来ているのではないでしょうか。
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