外国人従業員の企業型DC加入はどうなる?脱退一時金・帰国時の対応を中小企業向けに解説

📋 この記事でわかること

  • 外国人従業員の企業型DC加入要件と注意点
  • 混同しやすい「確定拠出年金」と「公的年金」の2つの脱退一時金の違い
  • 社会保障協定の有無による脱退一時金請求の判断基準
  • 採用から帰国まで、企業が行うべき実務対応ステップ

人手不足を背景に、外国人材を雇用する中小企業が増えています。福利厚生として企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入を検討する中で、「外国人従業員も加入するのか」「帰国するときに積み立てた資産はどうなるのか」と不安に感じる経営者は少なくありません。

結論から言えば、外国人従業員も日本人と同じように企業型DCの加入対象になります。ただし、退職・帰国時の取り扱いには独特の論点があり、しかもここで多くの人がつまずく落とし穴があります。それは、「確定拠出年金の脱退一時金」と「公的年金(厚生年金・国民年金)の脱退一時金」という、名前は似ているがまったく別の2つの制度を混同してしまうことです。

両者は制度の趣旨も、要件も、税金の扱いも、請求先もすべて異なります。ここを切り分けられないまま外国人従業員に説明すると、現場で混乱やトラブルを招きます。

本記事では、まず外国人従業員と企業型DCの基本的な関係を整理し、混同しやすい2つの脱退一時金を明確に切り分けたうえで、採用から帰国までに中小企業オーナーがやるべき実務対応を解説します。

目次

1. 外国人従業員も企業型DCに加入するのか?

💡 ポイント:外国人従業員も厚生年金被保険者であれば、原則として企業型DCの加入対象になります。

加入対象は「厚生年金被保険者」── 国籍は問わない

企業型DCの加入対象は、その制度を実施する事業所に勤める厚生年金被保険者です。ここに国籍の要件はありません。つまり、フルタイムで働き厚生年金に加入している外国人従業員は、日本人従業員と同じように企業型DCの加入対象になります。

「外国人だから加入させなくてよい」「外国人は対象外」といった扱いはできません。制度を導入する以上、加入要件を満たす従業員は国籍にかかわらず加入することになります。

資産は原則60歳まで引き出せない ──「帰国時の出口」を入口で設計する

ここで問題になるのが、確定拠出年金の大原則です。DCに積み立てた資産は、原則として60歳になるまで引き出せません。これは老後資金の確保という制度趣旨に基づくもので、外国人従業員であっても変わりません。

日本での就労を終えて母国へ帰国する従業員にとって、「60歳まで引き出せない資産が日本に残る」という状態は分かりにくく、不満やトラブルの種になりかねません。だからこそ、外国人を雇用する企業が企業型DCを導入する際は、「帰国時にどう扱うか」という出口を、採用・制度説明の入口の段階から設計しておく必要があります。

【誤解注意】厚生年金被保険者でない外国人は加入対象外

逆に、扶養の範囲内や短時間勤務で厚生年金の被保険者になっていない外国人従業員は、企業型DCの加入対象にはなりません。これは選択制DCでも同じで、加入できるのは厚生年金被保険者に限られます。

「外国人スタッフ全員に選べる退職金を」と打ち出す際は、誰が厚生年金被保険者で誰がそうでないかを正確に把握しておく必要があります。社会保険の適用拡大が進む中で被保険者の範囲は変わっていくため、線引きは社労士・運営管理機関と確認しながら設計してください。

2. 【最重要】混同しやすい「2つの脱退一時金」を切り分ける

💡 ポイント:「確定拠出年金」と「公的年金」の脱退一時金は、制度・要件・請求先がすべて異なるため明確な切り分けが必要です。

外国人従業員の帰国時に登場する「脱退一時金」には、まったく別の2つがあります。ここを切り分けることが、本記事で最もお伝えしたいポイントです。

1 確定拠出年金の脱退一時金 ── DC資産そのものの引き出し

これは、企業型DC・iDeCoに積み立てた自分の資産を、60歳前に引き出すための仕組みです。後述するように要件が非常に厳しく、誰でも引き出せるわけではありません。

2 公的年金の脱退一時金 ── 納めた保険料の一部の返金

こちらは、日本で厚生年金・国民年金に加入していた外国人が帰国する際、納めた保険料の一部を一時金として返金してもらう制度です。日本の年金を将来受け取れない短期滞在の外国人のための救済措置で、日本国籍の人には適用されません。

両者は制度・要件・税金・請求先がすべて別物

混同を避けるため、違いを整理します。

①確定拠出年金の脱退一時金②公的年金の脱退一時金
対象となるお金企業型DC・iDeCoの積立資産納めた厚生年金・国民年金の保険料
根拠確定拠出年金法厚生年金保険法・国民年金法
主な要件資産額・拠出期間など(極めて限定的)加入6か月以上・受給資格期間未満など
税金一時所得等の扱い厚生年金分は20.42%源泉徴収/国民年金分は非課税
請求先運営管理機関・国民年金基金連合会日本年金機構
請求期限資格喪失から2年以内出国後(日本に住所を有しなくなった日から)2年以内

「DCの脱退一時金」と「公的年金の脱退一時金」は、片方だけ該当することも、両方該当することもあります。外国人従業員には、この2つを分けて説明することが第一歩です。

3. 確定拠出年金(企業型DC)の脱退一時金は原則かなり厳しい

💡 ポイント:企業型DCの脱退一時金は要件が厳しいため、帰国する外国人材はiDeCoを経由するルートを検討する必要があります。

まず①の確定拠出年金の脱退一時金です。「帰国するなら引き出せるだろう」と思われがちですが、実態はかなり厳しく設計されています。

企業型DC本体の脱退一時金は「資産1.5万円以下」など極めて限定的

企業型DCに加入したまま脱退一時金を受け取れるのは、個人別管理資産が15,000円以下であるなど、ごく限られた少額のケースに限られます。ある程度の期間加入して資産が積み上がっている従業員は、この要件では引き出せません。

2022年5月改正 ──「帰国する外国籍人材」にiDeCo経由の脱退一時金ルートが新設

かつては、ここで外国人材が行き詰まっていました。資産が中途半端にあると企業型DCの脱退一時金は受けられず、帰国すると日本の公的年金からも外れるため、iDeCoの脱退要件も満たせず、結果として60歳まで資産が「塩漬け」になってしまう問題があったのです。

これを手当てしたのが2022年5月の改正です。改正により、国民年金の被保険者になれない外国籍の海外居住者等が、一定の要件を満たせばiDeCo(個人型確定拠出年金)経由で脱退一時金を受給できるようになりました。主な要件は次のとおりです。

  • 60歳未満であること
  • 企業型DCの加入者でないこと
  • 国民年金保険料免除者、外国籍の海外居住者等で、iDeCoに加入できない者であること
  • 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でないこと
  • 通算拠出期間が1か月以上5年以下、または個人別管理資産が25万円以下であること
  • 障害給付金の受給権者でないこと
  • 最後に企業型DCまたはiDeCoの加入者資格を喪失した日から2年を経過していないこと

注意:すべての外国人が引き出せるわけではない

要件のうち拠出期間・資産額は「5年以下 または 25万円以下」といういずれかの条件です。技能実習・特定技能など在留期間が比較的短い層は通算拠出期間が5年以下に収まることが多く、この要件を満たしやすいといえます。

一方で、「通算拠出期間が5年を超え、かつ資産が25万円を超える」長期勤続・高資産の外国人従業員は、依然としていずれの要件も満たさず、資産を60歳まで保有・運用指図し続けることになります。2022年改正で塩漬け問題が緩和されたとはいえ、全員が引き出せるわけではない点は正確に押さえておく必要があります。

実務:帰国前に企業型DC→iDeCoへの移換手続きが必要になる

資産が少額要件を超える従業員がDC資産を脱退一時金として受け取るには、企業型DCからiDeCoへ資産を移換したうえで、上記のiDeCo脱退一時金を請求する流れになります。退職してから手続きを始めると帰国に間に合わないこともあるため、退職が見込まれた段階で早めに案内することが重要です。

4. 公的年金の脱退一時金 ── 上限「5年→8年」への引き上げが決定(施行日は要確認)

💡 ポイント:公的年金の脱退一時金は、外国人材が納めた保険料の一部が返金される制度。上限月数の引き上げ(8年)が決まっていますが、施行時期に注意が必要です。

次に②公的年金の脱退一時金です。こちらはDCとは別に、外国人従業員に必ず案内しておきたい制度です。

制度の基本

日本国籍を有しない人が、厚生年金・国民年金の被保険者資格を喪失して出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求できます。主な要件は、加入期間(保険料納付済期間等)が6か月以上あること、老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしていないこと、などです。

税金の扱いには重要な差があります。厚生年金の脱退一時金は支給時に20.42%が源泉徴収されますが、国民年金の脱退一時金には所得税がかかりません。

上限月数の変遷 ── 現在は5年(60月)

支給額の計算に使える月数には上限があります。この上限は、特定技能1号の創設などを背景に、2021年4月から従来の36月(3年)から60月(5年)に引き上げられました。

現在の上限は5年(60月)です。たとえば国民年金の脱退一時金は、最後に保険料を納付した月が2026年度の場合、加入期間に応じて段階的に増え、60月以上で537,600円が上限となります(令和8年度)。厚生年金の脱退一時金は「平均標準報酬額×支給率」で計算され、支給率は60月以上で上限の5.5となります。

参照:日本年金機構「脱退一時金の制度

【重要・正確に】上限8年化と再入国許可の取り扱いは「決定済みだが施行日は未確定」

ここは情報が錯綜しているので、正確に整理します。2025年6月に成立した年金制度改正法では、脱退一時金について次の2点が決まっています。

  • 支給上限月数を、現行の5年(60月)から8年(96月)へ引き上げる
  • 再入国許可(みなし再入国許可を含む)を受けて出国した場合、その許可の有効期間内は脱退一時金を支給しない

ただし、これらの施行日はまだ確定していません。施行日は「公布日(2025年6月20日)から4年以内の政令で定める日」とされており、具体的な開始時期は今後の政令で決まります。一部の解説記事は「2026年4月施行」と断定していますが、日本年金機構の公式ページは本記事執筆時点でも上限を60月(5年)のまま掲載しており、8年への引き上げは反映されていません。

外国人従業員に説明する際は、「8年に延びた」と確定した話として伝えるのではなく、「上限を5年から8年に延ばす改正が決まっているが、いつから適用されるかは未確定」と正確に伝えてください。最新の適用時期は、必ず日本年金機構の公式情報で確認することをおすすめします。

背景:育成就労・特定技能の長期化

上限引き上げの背景には、育成就労から特定技能1号、さらに特定技能2号へと移行し、日本での就労が長期化する外国人が増えていることがあります。在留期間の実態に合わせて、計算に反映できる加入期間を延ばす趣旨です。

5. 社会保障協定がある国の従業員は「脱退一時金 vs 通算」の選択

💡 ポイント:社会保障協定のある国では、脱退一時金を受け取ると将来の年金受給(期間の通算)に不利になる場合があります。

外国人従業員の出身国によっては、脱退一時金を「もらうべきかどうか」自体を慎重に判断する必要があります。鍵になるのが社会保障協定です。

社会保障協定の2つの機能

日本は多くの国と社会保障協定を結んでおり、協定には主に2つの機能があります。1つは、二重加入の防止(派遣期間中はどちらか一方の国の制度にのみ加入する適用調整)。もう1つは、両国の年金加入期間を通算し、それぞれの国で年金受給資格を得やすくする仕組みです。

発効国は、2024年4月時点で23か国にのぼり、その後オーストリアとの協定が2025年12月に発効するなど拡大が続いています。最新の発効国は外務省・日本年金機構の公式情報でご確認ください。

参照:日本年金機構「社会保障協定

【重要な落とし穴】脱退一時金を受け取ると加入期間を通算できなくなる

ここが最大の注意点です。脱退一時金を受け取ると、その対象となった期間は加入期間として清算され、社会保障協定による期間の通算ができなくなります。

将来、母国や別の協定国で年金を受給する予定がある従業員にとっては、目先の脱退一時金を受け取ることで、かえって将来の年金受給で不利になるケースがあります。「帰国するならとりあえず脱退一時金を請求すれば得」という単純な話ではない、ということです。

中国・韓国などは「二重加入防止のみ・通算なし」

さらに、協定の内容は国によって異なります。中国・韓国などとの協定は二重加入の防止のみを定めており、年金加入期間の通算は対象外です。通算の有無によって、脱退一時金を受け取るべきかどうかの判断は変わります。出身国の協定がどちらのタイプかを確認したうえで案内する必要があります。

6. 中小企業オーナーがやるべき実務対応(採用〜帰国の時系列)

💡 ポイント:トラブルを防ぐには、採用時の明確な説明と、退職が見込まれる段階での早めの手続き案内が不可欠です。

最後に、採用から帰国までの流れに沿って、企業側の実務対応を整理します。

採用・制度説明時

企業型DCの「原則60歳まで引き出せない」という大原則と、帰国時の取り扱い(DC資産の扱い・公的年金の脱退一時金)を、できるだけ分かりやすく、必要に応じて母国語の資料も使って説明します。誤解を入口でなくしておくことが、後のトラブルを防ぎます。

在職中

基礎年金番号、企業型DCの加入記録、個人別管理資産額を従業員ごとに整理しておきます。帰国時の手続きでこれらの情報が必要になるため、平時から管理しておくとスムーズです。

退職・帰国時

帰国時には複数の手続きが並行します。整理すると次のとおりです。

  • 確定拠出年金:資産額をもとに脱退一時金の支給判定。少額要件を超える場合は企業型DC→iDeCoへの移換とiDeCo脱退一時金の請求を案内
  • 公的年金:厚生年金・国民年金の脱退一時金の制度を案内(請求は出国後2年以内)
  • 社会保障協定:出身国の協定の有無・通算の可否を確認し、脱退一時金を受け取るべきか本人が判断できるよう情報提供
  • 税金:厚生年金の脱退一時金は20.42%が源泉徴収されるため、納税管理人を選任して還付請求を行う方法があることを案内(支給決定通知書の保管が重要)

「資格喪失が見込まれる段階」での説明義務

2026年4月からは、企業型DCの資格喪失(退職等)に伴う手続きの説明を、「資格喪失後」ではなく「資格喪失が見込まれる段階」で行うことが求められるようになります。退職予定者が事前に手続きを理解できるようにし、資産が放置されて自動移換されるケースを減らす狙いです。外国人従業員の帰国対応とも相性のよい改正なので、退職の見込みが立った段階で早めに動く運用を整えておきましょう。

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まとめ|「帰国時の出口」を採用段階から設計する

外国人従業員も、厚生年金被保険者であれば企業型DCの加入対象になります。企業型DCは外国人材にとっても有効な福利厚生になり得ますが、退職・帰国時の取り扱いを誤ると、不満やトラブルにつながります。

押さえるべき要点は3つです。

  • 第一に、「確定拠出年金の脱退一時金」と「公的年金の脱退一時金」はまったく別の制度であり、混同しないこと。
  • 第二に、DC資産の引き出しは要件が厳しく、企業型DC→iDeCoへの移換が必要になるケースがあること。
  • 第三に、社会保障協定がある国の従業員は、脱退一時金を受け取ると期間の通算ができなくなるため、慎重な判断が必要なこと。

そして、これらはすべて「帰国時の出口」を採用・制度説明の段階から設計しておくことで、スムーズに対応できます。外国人材の雇用と企業型DCの導入を両立させたい中小企業こそ、入口の設計に手をかける価値があります。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。