「うちは51人未満だから関係ない」はもう通用しない|2027年から始まる社会保険の適用拡大と中小企業の備え

「社会保険の適用拡大は、大企業やチェーン店の話でしょう」——そう考えて様子を見てきた中小企業オーナーは少なくありません。ですが、2025年に成立した年金制度改正法によって、その前提そのものが崩れます。
短時間労働者(パート・アルバイト)を社会保険に加入させる基準の一つ「企業規模要件」が、2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月には撤廃されるためです。最終的には、会社の規模にかかわらず、一定の条件を満たすパート従業員は社会保険の対象になります。
この記事では、自社が「いつ」対象になるのか、対象になると会社と従業員に「何が」起きるのか、そして負担増をやわらげるためにできることを、中小企業オーナーの目線で整理します。
📋 この記事でわかること
- 社会保険の「企業規模要件」が2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月に撤廃される流れ
- 自社の従業員数から「対象になる時期」を逆算する考え方
- 対象になると会社の社会保険料負担とパート従業員の手取りがどう変わるか
- 負担増をやわらげる公的な支援策と、選択制DCを活用する際の注意点
1. 「51人未満だから関係ない」——その前提が崩れます
これまで、パート・アルバイトなどの短時間労働者を社会保険に加入させる義務があったのは、原則として 従業員51人以上の企業 でした。だからこそ、それより小さい会社の多くは「うちはまだ関係ない」と様子見でよかったのです。
しかし今回の改正では、この 企業規模要件そのものが段階的に縮小され、最終的には撤廃 されます。つまり「規模が小さいから対象外」という守りが、時間の経過とともに一社ずつ外れていきます。
論点は「自社が対象かどうか」ではなく、「いつ自社の番が来るか」 に変わりました。今は対象外の会社ほど、むしろ数年後に向けて準備できる時間が残されている、とも言えます。
💡 ポイント:今回の見直しは、要件の「緩和」ではなく 段階的な撤廃 です。規模が理由で対象外になっていた会社も、いずれ順番に対象へと組み込まれます。「対応するかどうか」ではなく「いつ・どう対応するか」を考える段階に入っています。
2. まず現行ルールをおさらい——「勤務先の要件」と「本人の4要件」
改正の中身を理解するために、まず現在のルールを押さえておきましょう。短時間労働者が社会保険の加入対象になるには、勤務先が企業規模要件を満たしたうえで、本人が次の4要件をすべて満たす 必要があります(フルタイムに近い正社員は、会社の規模に関係なく従来から加入対象です)。
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 勤務先の要件 | 厚生年金被保険者数が常時51人以上の企業 |
| 本人① 労働時間要件 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
| 本人② 賃金要件 | 所定内賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円) |
| 本人③ 雇用期間要件 | 2カ月を超えて雇用される見込み |
| 本人④ 学生除外要件 | 学生ではないこと |
今回の改正で見直されるのは、勤務先の「企業規模要件」 と 本人②の「賃金要件」 です。①労働時間要件・③雇用期間要件・④学生除外要件は残るため、改正後は、雇用期間要件や学生除外要件などを満たすことを前提に、週20時間以上働くかどうか が主な分かれ目になります。
注意:「従業員数」の数え方
勤務先の「51人以上」は、パートも含めた総人数ではなく、原則として 厚生年金保険の被保険者の総数(フルタイムの従業員数+週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数)でカウントします。1年のうち6か月以上、この人数が基準を超える見込みの企業が対象です。パートが多い会社では「頭数は50人超でも被保険者数は50人以下」というケースもあるため、自社がどの区分にあたるかは実際の被保険者数で確認する必要があります。
3. 企業規模要件はいつ撤廃される?段階的な適用スケジュール
厚生労働省は、企業規模要件を 段階的に縮小・撤廃 するとしています。適用の時期は勤め先の規模によって変わり、規模の大きい会社から順に対象が広がっていきます。
| 施行時期 | 企業規模要件 | 新たに対象になる会社 |
|---|---|---|
| 現行(2027年9月まで) | 51人以上 | — |
| 2027年10月 | 36人以上 | 従業員36〜50人の企業 |
| 2029年10月 | 21人以上 | 従業員21〜35人の企業 |
| 2032年10月 | 11人以上 | 従業員11〜20人の企業 |
| 2035年10月 | 規模要件を撤廃 | 従業員10人以下を含め、規模を問わず対象 |
あわせて、これまで法定17業種に限られていた 個人事業所の社会保険適用も、2029年10月から原則すべての業種に拡大 されます(常時5人以上を使用する事業所)。ただし、2029年10月の施行時点で既に開業している従来非適用の業種の事業所は、経営への影響に配慮して当分の間、対象外とされます。
💡 ポイント:まず 自社の従業員数(厚生年金の被保険者数)から、対象になる年を逆算 してみてください。「2027年10月」「2029年10月」といった自社の“Xデー”が分かれば、そこから逆算して準備の計画を立てられます。
なお、制度の詳細や実務上の取扱いについては、今後公表される政省令・通知もあわせて確認する必要があります。
参照:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
4. 賃金要件(106万円の壁)の撤廃で、対象はさらに広がる
企業規模要件と並行して、本人②の賃金要件(月額8.8万円=いわゆる「106万円の壁」)も撤廃 されます。これにより、判定の主役は「週20時間以上働くかどうか」に移ります。
賃金要件は、法律上、公布から3年以内に撤廃するとされており、全国の最低賃金が1,016円以上となったことを踏まえ、厚生労働省は2026年10月に撤廃予定 と案内しています。最低賃金以上で週20時間以上働く方は、この賃金要件も満たすことになるため、撤廃後は収入額を意識する必要が薄れていきます。
企業規模要件の縮小と賃金要件の撤廃が重なることで、「これまで賃金を抑えて働いていたパート」も、「小規模だから対象外だった会社」も、両側から新たに社会保険の対象へと入っていきます。
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5. 自社の番が来たら、何が起きるのか
対象になると、会社と従業員の双方に具体的な変化が生じます。
1会社側:社会保険料の負担が「固定費」として増える
新たに加入する短時間労働者の社会保険料は 労使折半 です。会社が負担する分は、標準報酬月額のおおむね15%前後 が一つの目安になります。ただし実際の金額は、加入する健康保険、都道府県、従業員の年齢、標準報酬月額などによって異なります。
対象となる短時間労働者を雇用し続ける限り、これまで発生していなかった社会保険料が 継続的な人件費 として加わります。まずは自社で何人が対象になり、負担がいくら増えるのかを試算しておくことが出発点になります。
2従業員側:手取りが下がる
加入すると従業員の給与からも保険料が天引きされるため、当面の手取りは下がります。これは「働き控え」や不満、離職につながりかねない、経営上も無視できない変化です。
一方で、社会保険への加入は従業員にとってマイナスばかりではありません。将来受け取る年金が基礎年金に厚生年金分が上乗せされて増えるほか、病気やケガ・出産で会社を休んだときの傷病手当金・出産手当金などの保障も手厚くなります。従業員説明の場面では、手取りが減る側面と保障が増える側面を、両方フェアに伝える ことが信頼につながります。
6. 負担増をやわらげる「2つの備え」
「対象になるのは避けられない」としても、負担のやわらげ方は用意されています。
1公的な保険料軽減の支援策(保険料調整制度)
厚生労働省は、適用拡大で新たに加入する短時間労働者の負担をやわらげるため、特例的・時限的な保険料調整制度 を用意しています。この制度は今後、次の事業所を対象に始まります。
- 対象となる事業所:①2026年10月以降に任意特定適用事業所となる事業所、②2027年10月以降、適用拡大により短時間労働者が加入対象となる事業所
- 対象となる従業員:週20時間以上(フルタイムの4分の3未満)で働き、月収13万円未満(標準報酬月額12.6万円以下)で、学生でない人
- 期間:通算3年間(3年目は軽減割合が半減)
- 内容:事業主が従業員の保険料を一時的に多く負担することで、従業員の負担を軽減できます。事業主が追加負担した分は一定期間経過後に調整されるため、最終的に事業主が納付する保険料は増えません。また、従業員が将来受け取る年金額にも影響はありません
自社が小規模で、これから対象になる場合には、まずこの制度の対象要件に当てはまるかを確認しておく価値があります。
参照:厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト 支援制度について」
2選択制DCで「会社負担」と「従業員の将来資産」を設計する
もう一つの備えが、選択制の企業型確定拠出年金(選択制DC)です。ここは誤解が多いので、先に正直にお伝えします。
選択制DCは、社会保険の加入義務を“回避”する制度ではありません。 要件を満たせば加入義務は生じますし、それを避けるための道具でもありません。
選択制DCが用意するのは、「今の給与」と「将来資産」の配分を従業員が選べる仕組み です。具体的には、賃金制度を見直し、従業員が一定額を「給与として受け取る」か「企業型DCの事業主掛金として将来のために積み立てる」かを選択できるようにします。事業主掛金として拠出された金額は、原則として給与所得や社会保険上の報酬には含まれないため、選択額や標準報酬月額の等級によっては、会社・従業員双方の社会保険料が軽減される場合 があります。
ただし、メリットだけではありません。次の点は、導入時に必ず従業員へ説明しておくべきトレードオフです。
- 必ず社会保険料が下がるわけではない:掛金を選択しても、拠出後の標準報酬月額の等級が変わらなければ、社会保険料は変わりません。特に低賃金の短時間労働者では、少額の拠出では等級が動かず、想定した軽減効果が出ないことがあります。
- 現在の現金手取りは通常減る:掛金に回した分だけ、今受け取る給与は減ります。税・社会保険料の軽減を考慮しても、多くの場合、現在の現金手取りは一定程度減少します。
- 将来の給付にも影響しうる:標準報酬月額が下がると、将来の厚生年金や、傷病手当金・出産手当金などの給付が下がる可能性があります。
これらを踏まえたうえで、適用拡大による会社負担を完全になくすことはできませんが、選択制DCを導入することで、従業員に将来資産形成の選択肢を提供しながら、選択額や報酬等級によっては会社・従業員双方の社会保険料負担を一定程度抑えられる可能性 があります。制度内容や従業員への説明体制まで整備できれば、採用や定着のアピール材料にもなり得ます。
💡 ポイント:選択制DCは「社会保険から逃げる制度」ではなく、増える負担と将来への備えについて 従業員が“選べる”ようにする制度 です。位置づけを取り違えないことが、労務トラブルを避けるうえでも重要です。
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7. 今からやるべき準備ステップ
対象になる時期が数年先でも、準備は早いほど選択肢が広がります。次の順で棚卸ししてみてください。
- ① 対象年を特定:自社の厚生年金被保険者数から、企業規模要件で対象になる年(2027/2029/2032/2035年10月)を確認する
- ② 対象者をリストアップ:週20時間以上働くパート・アルバイトが誰かを洗い出す
- ③ コストを試算:新たに発生する会社負担(標準報酬月額の15%前後が目安)を人数分で試算する
- ④ 就業規則・賃金制度を点検:所定労働時間の設定や賃金体系に見直しが必要かを確認する
- ⑤ 受け皿制度を検討:保険料調整制度の活用可否、選択制DCなどの制度導入を検討する
- ⑥ 従業員への説明を準備:手取りが変わる点と保障が増える点を、あらかじめ分かりやすく周知する
従業員が10人ほどの小さな会社ですが、本当に対象になりますか?
はい。企業規模要件は2035年10月に 撤廃 される予定で、その後は会社の規模を問わず、週20時間以上などの要件を満たす短時間労働者が原則として社会保険の対象になります。時期の差はあっても、いずれ対象になると考えて準備するのが安全です。
パート従業員が週20時間未満なら、加入させなくてよいですか?
現時点では、週の所定労働時間が20時間未満であれば 原則として対象外 です。ただし、実際の労働時間が2か月続けて週20時間以上となり、その状態が今後も続く見込みの場合は、3か月目から加入対象となることがあります。所定労働時間の設定と実態が乖離しないよう注意が必要です。
選択制DCを導入すれば、社会保険の加入を避けられますか?
避けられません。 選択制DCは加入義務をなくす制度ではなく、「今の給与として受け取るか・将来のために積み立てるか」を従業員が選べるようにする制度です。しかも、選択額や標準報酬月額の等級によっては社会保険料が変わらないこともあります。負担の“回避”ではなく、将来への“備えの選択肢”とお考えください。
いつから準備を始めるべきですか?
目安は、自社が対象になる年の 1〜2年前 です。就業規則の見直しや従業員への説明には時間がかかるため、直前ではなく余裕をもって着手することをおすすめします。
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社会保険の企業規模要件が段階的に撤廃されることで、「うちは51人未満だから関係ない」という前提は通用しなくなります。対象になれば会社の負担は増え、従業員の手取りは下がります。ですが、公的な保険料調整制度や選択制DCを使えば、その負担と備えを“設計”する余地は残されています。
おさえる3点
- 企業規模要件は2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月には規模を問わず対象になる。まず自社の“Xデー”を特定する。
- 対象になると 会社の社会保険料負担が増え、従業員の手取りが下がる。3年間の保険料調整制度や選択制DCで、緩和・設計できる。
- 選択制DCは加入を「回避」する制度ではなく、今の給与と将来資産の配分を「選べる」ようにする制度。必ず社保が下がるわけではない点、現在の手取りは減る点、将来給付とのトレードオフは、正直に説明したうえで活用する。
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参照した公的情報源
- 厚生労働省
社会保険の加入対象の拡大について - 厚生労働省
年金制度改正法が成立しました - 厚生労働省
社会保険適用拡大特設サイト(パート・アルバイトの方への社会保険の適用について) - 厚生労働省
社会保険適用拡大特設サイト(支援制度について)
【免責事項】
本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。