選択制DCを導入すると社会保険料はいつ変わる?随時改定・定時決定のタイミング

選択制DCを導入すると社会保険料はいつ変わる?随時改定・定時決定のタイミング

選択制DCの説明でよく聞くのが「社会保険料の負担が軽くなる可能性があります」という話です。ところが導入した会社から、こんな声が出ます。

「導入して3か月経つのに、保険料がまったく変わらない」

故障でも手続き漏れでもありません。社会保険料は、給与が変わった瞬間に変わる仕組みではないからです。随時改定という関門を通るか、通らずに翌年の定時決定を待つかで、変わる時期は数か月から1年近くずれます。掛金の額によっては、そもそも下がらないこともあります。

この記事では、選択制DCの導入で「何が・いつ変わるのか」を、日本年金機構の疑義照会回答に沿って整理します。

📋 この記事でわかること

  • 社会保険料・雇用保険料・税金、それぞれが変わるタイミングの全体像
  • 随時改定の3要件と、選択制DCの「導入時」だけが対象になる理由
  • 導入後の掛金変更や新規の拠出開始では、保険料が変わらないこと
  • 掛金月2万円と4万円で、変わる時期がどう違うかの試算

1. 全体像|変わる時期は項目ごとにバラバラ

最初に結論の一覧を示します。選択制DCで給与の一部を掛金に振り替えたとき、各項目が変わる時期は次のとおりです。

項目変わる時期
所得税の源泉徴収振替を始めた月の給与から(課税対象の給与が減るため)
雇用保険料振替を始めた月の給与から(毎月の賃金額に料率を掛けるため)
健康保険料・厚生年金保険料すぐには変わらない。随時改定に該当すれば変動月から4か月目、該当しなければ翌年の定時決定(9月)
住民税翌年度から(前年の所得をもとに計算されるため)

税金と雇用保険料は毎月の支給額に連動しますが、健康保険料・厚生年金保険料だけは標準報酬月額という「固定した物差し」で計算されます。選択制DCの導入でこの物差しが動くルートは、随時改定と定時決定の2つです(このほか育児休業・産前産後休業の終了時に本人の申出で改定される特例がありますが、本記事では扱いません)。

2. 随時改定の仕組み|「2等級の壁」がある

随時改定(月額変更届)が行われるのは、次の3つがそろったときです。

要件中身
① 固定的賃金の変動昇給・降給、給与体系の変更など
② 2等級以上の差変動月からの継続した3か月の報酬平均による標準報酬月額が、従前と比べて2等級以上違う
③ 支払基礎日数その3か月とも17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)

3つそろうと、変動があった月から数えて4か月目に標準報酬月額が改定されます。なお、標準報酬月額の上限・下限にかかる変動の場合は、1等級の差でも随時改定の対象になることがあります。

ここで効いてくるのが②の「2等級の壁」です。標準報酬月額の等級は1段あたりおおむね2万円刻み(報酬30万円前後の帯の場合)なので、振り替える掛金が小さいと、給与が下がっても等級が1段しか動かず、随時改定の対象になりません。

3. 選択制DCで随時改定の対象になるのは「導入時」だけ

ここがこの記事の核心です。日本年金機構の疑義照会回答(被保険者報酬月額変更届・確定拠出年金に係る報酬月額変更について)は、選択制の給与変動を2つに分けて扱っています。

1導入後の「本人の選択」による変動は、対象にならない

疑義照会回答は、従業員が退職金の原資を掛金にするか給与で受け取るか選択できる場合について、こう整理しています。

この原資から拠出金を引いた差額である給与額の変動は、従業員の選択のみにより発生するものであるため、当該給与額の変動(拠出額の変更、拠出の開始等)は原則として固定的賃金の変動には該当しないことになります。

つまり、制度がすでにある会社で、従業員が掛金の額を変えても、新しく拠出を始めても、随時改定は行われません。本人の選択による変動は、随時改定の起点となる「固定的賃金の変動」に当たらないからです。

2制度の「導入」は、賃金規程の改定=固定的賃金の変動になる

一方、同じ回答は導入時についてこう続けています。賃金規程を改定して基本給の一部を退職金原資(生涯設計手当など)に振り替える場合、

制度の導入と同時に確定拠出年金の拠出金の拠出を開始するならば、基本給に前払退職金を加えた給与額は、賃金規程改定前の基本給より減額となるため、この賃金規程の変更により降給が行われたことになります。

とされ、拠出開始により2等級以上の変動があれば、改定後の賃金規程による賃金の支給開始月を起算月とする報酬月額変更に該当する、と答えています。

整理するとこうなります。

場面随時改定
制度を導入し、同時に拠出を開始した従業員2等級以上下がれば該当(支給開始月から4か月目に改定)
導入後に、掛金の額を変えた従業員原則、該当しない
導入後に、新しく拠出を始めた従業員原則、該当しない

💡 ポイント:随時改定で保険料が下がるチャンスは、原則として導入時の一度だけです。導入後に拠出を始めた従業員や掛金を増やした従業員は、その変動だけでは随時改定の対象にならず、昇給・降給など別の固定的賃金の変動がない限り、翌年の定時決定まで標準報酬月額は変わりません。

4. 試算|掛金2万円と4万円で、こう変わる

報酬月額30万円(厚生年金19等級・標準報酬月額30万円)の社員が、11月支給分から選択制DCの拠出を始めるケースで比べます。

掛金 月2万円掛金 月4万円
振替後の報酬月額28万円26万円
対応する標準報酬月額28万円(18等級)26万円(17等級)
等級の差1等級2等級
随時改定該当しない該当する
標準報酬月額が下がる時期翌年9月(定時決定)翌年2月(11月から4か月目)

1掛金4万円のケース|4か月目から下がる

11月・12月・1月の報酬平均で判定し、2等級下がるため、翌年2月分の保険料から標準報酬月額26万円で計算されます。厚生年金保険料(料率18.3%・労使折半)だけで見ると、標準報酬月額が30万円から26万円に下がることで、保険料は月7,320円(会社分3,660円・本人分3,660円)減ります。これに健康保険料の減少が加わります(健康保険の料率は都道府県と年度によって異なります)。年間に直すと、厚生年金保険料だけで労使合計87,840円(会社分43,920円)です。

なお、「2月分から」というのは保険料の計算月の話です。保険料を翌月の給与から控除している会社では、実際に本人の給与明細が変わるのは3月支給分になります。改定月と明細が変わる月が1か月ずれるのは正常な動きなので、従業員からの問い合わせに備えておいてください。

2掛金2万円のケース|翌年9月まで変わらない

1等級しか動かないため随時改定はなく、翌年4月・5月・6月の報酬をもとにした定時決定で、翌年9月分から標準報酬月額28万円になります。11月に拠出を始めてから10か月間、給与は28万円に下がっているのに、保険料は30万円のまま計算され続けます。

この期間は、本人にとって「手取りが減ったのに保険料が減らない」期間です。選択制の説明会で社会保険料の軽減を強調していると、この期間に「話が違う」という不満が出ます。導入時の説明に、変わる時期まで含めてください。

5. 定時決定との関係|導入月で「待ち時間」が変わる

定時決定は、7月1日時点で在籍する被保険者について、4月・5月・6月の報酬の平均で標準報酬月額を決め直し、その年の9月から翌年8月まで使う仕組みです。

随時改定に該当しなかった場合、保険料が変わるのはこの定時決定です。すると、導入月によって待ち時間が大きく変わります。

拠出開始月随時改定なしの場合、標準報酬月額が変わる時期待ち時間
1月その年の9月(4〜6月は振替後の報酬で算定)約8か月
4月その年の9月約5か月
7月翌年9月(その年の定時決定は4〜6月=振替前の報酬で算定済み)約14か月
10月翌年9月約11か月

7月に導入して随時改定に該当しないと、振替前の報酬で決まった標準報酬月額を翌年8月まで使い続けることになります。「いつから始めるか」は、保険料がいつ変わるかをほぼ決めてしまう要素です。

随時改定に該当しない掛金水準で導入するなら、遅くとも4月支給分から振替が始まるように逆算するのが一つの目安です。4月・5月・6月の3か月に振替後の報酬が乗れば、その年の定時決定(9月)で標準報酬月額に反映されます。7月以降にずれ込むと、反映は翌年の9月になります。

なお、同じ会社でも従業員ごとに掛金額が違えば、2等級動く人と動かない人が混在します。導入時の月額変更届は対象者だけを拾って出すことになるため、給与計算側で誰が随時改定の対象かの一覧を作っておくと事務が混乱しません。

6. 注意点|「早く下げる」ことを目的にしない

1標準報酬月額が下がる=将来の給付も下がる

保険料が下がるのは、標準報酬月額が下がるからです。標準報酬月額は、将来の老齢厚生年金、傷病手当金、出産手当金などの計算の基礎でもあります。保険料の軽減と同じ幅で、これらの給付の水準も下がる可能性があります。厚生労働省の法令解釈通知も、選択制の実施にあたって「社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて、事業主は従業員に正確な説明を行う必要がある」としています。

2掛金額を「2等級動くように」誘導しない

会社の側から「4万円にすれば保険料が早く下がる」と掛金額を誘導するのは不適切です。掛金の額は従業員本人が自分の生活設計で決めるものであり、給付低下という裏面もあります。会社ができるのは、仕組みとタイミングの正確な説明までです。

3最低賃金と手取りの確認

給与を振り替える設計では、振替後の賃金が最低賃金を下回らないかの確認も必要です。

4個別のケースは年金事務所に確認を

疑義照会回答にも「従業員の選択の余地が事実上無い等の、実質的に当該賃金変動が従業員の選択のみによるものではないと判断しうる個別の事情がない限り」という留保があります。基本給の構成や手当の設計によって判断が分かれる余地があるため、導入時の月額変更届の扱いは、管轄の年金事務所に事前に確認するのが確実です。

Q

選択制DCを導入すれば、翌月から社会保険料が下がりますか。

A

下がりません。健康保険料・厚生年金保険料は標準報酬月額で計算され、選択制DCの導入で変わるルートは随時改定(変動月から4か月目)か定時決定(9月)のいずれかです。随時改定に該当するには、変動後3か月の報酬平均で従前と2等級以上の差が必要です。

Q

導入から1年たって、従業員が掛金を増やしました。随時改定は必要ですか。

A

原則不要です。日本年金機構の疑義照会回答は、従業員の選択のみによる給与額の変動(拠出額の変更、拠出の開始等)は原則として固定的賃金の変動に該当しないとしています。標準報酬月額は次の定時決定で見直されます。

Q

掛金が小さくて随時改定に該当しない場合、保険料はどうなりますか。

A

翌年の定時決定(4〜6月の報酬平均、9月から適用)で下がります。それまでは振替前の水準の標準報酬月額で保険料がかかり続けるため、「手取りは減ったのに保険料が変わらない」期間が生じます。導入時にこの点まで説明しておくことをおすすめします。

Q

雇用保険料や所得税も同じタイミングですか。

A

違います。雇用保険料は毎月の賃金額に料率を掛けるため、振替を始めた月から変わります。所得税の源泉徴収も、課税対象の給与が減った月から変わります。住民税は前年所得ベースのため翌年度からです。

Q

導入時の月額変更届は、全員分を出すのですか。

A

対象になるのは、導入時の振替で標準報酬月額が2等級以上下がる従業員だけです。掛金額は人によって違うため、該当者と非該当者が混在します。個別の判断に迷う場合は管轄の年金事務所に確認してください。

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まとめ|保険料が動くのは「導入時の随時改定」か「翌年9月」

選択制DCで社会保険料が変わる時期は、導入の設計でほぼ決まります。

おさえる4点

  • ルートは原則2つ:随時改定(変動月から4か月目)か、定時決定(翌年9月)。給与が変わった月から自動で変わる仕組みではありません
  • 随時改定のチャンスは導入時だけ:導入後の掛金変更や新規拠出は、本人の選択による変動のため原則対象外です(日本年金機構の疑義照会回答)
  • 2等級の壁がある:掛金が小さいと随時改定に該当せず、翌年9月まで保険料は変わりません。導入月によっては1年以上待つことになります
  • 下がるのは給付も同じ:標準報酬月額の低下は、将来の厚生年金や傷病手当金・出産手当金の計算基礎の低下でもあります。変わる時期とあわせて、従業員に正確に説明してください

導入のタイミングと掛金設計で結果が大きく変わる領域です。自社の給与体系でどうなるか、導入前に確認することから始めてください。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。