【2026年4月施行】在職老齢年金の基準額が65万円に|役員報酬と年金を両取りする社長の新常識

「65歳を過ぎても役員報酬を取り続けると、年金が止まってしまう」——そう聞いて、報酬を抑えたり、年金の受け取りを諦めたりしている社長は少なくありません。この「働くと年金が減る」仕組みが、2026年4月から大きく緩和されました。

ただし、ニュースで「62万円に引き上げ」と報じられた数字と、実際に適用されている数字には差があります。結論を先に言えば、2026年4月から実際に適用されている基準額は 65万円 です。この1点を取り違えると、役員報酬と年金の設計を誤ります。

本記事では、在職老齢年金の仕組みと今回の改正を正確に整理し、役員報酬と年金を「両取り」したい社長が押さえるべきポイント、そして企業型DCをどう絡めるかを中小企業オーナー目線で解説します。

📋 この記事でわかること

  • 在職老齢年金(働きながら受け取る年金が減る仕組み)の基本と計算式
  • 「62万円」と報じられたが、実際の令和8年度の基準額は65万円である理由
  • 役員報酬と年金を両取りする社長への影響と、恩恵が限られるケース
  • 企業型DCで「総報酬月額相当額」を抑え、年金の支給停止を避ける考え方

目次

1. 在職老齢年金とは ── 働く高齢者の年金が止まる仕組み

1対象は「厚生年金に加入して働く老齢厚生年金の受給者」

在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金保険の被保険者として働いている人について、年金の一部または全部が支給停止になる仕組みです。65歳以上の方が中心ですが、70歳以降も厚生年金適用事業所で働いている場合も、被保険者ではないものの在職による支給停止の対象になります。

役員報酬を受け取りながら経営を続ける社長は、まさにこの仕組みに直面します。「年金をもらう年齢になっても会社の代表でいる」中小企業オーナーにとって、避けて通れないテーマです。

2計算式 ── 合計が基準額を超えると、超過分の半分が止まる

支給停止の判定には、2つの金額を使います。

  • 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
  • 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額 + その月以前1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12

この2つの合計が基準額(令和8年度は65万円)を超えると、超えた分の半分が支給停止になります。

💡 ポイント:支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 65万円)÷ 2合計が65万円以下なら 全額支給。65万円を超えると超過分の半分が止まり、計算結果が基本月額を上回る場合は老齢厚生年金が 全額支給停止 となります。

3老齢基礎年金は対象外|加給年金は全額停止時に止まる

ここは見落とされがちですが重要です。在職老齢年金で調整されるのは 老齢厚生年金(報酬比例部分)だけ です。老齢基礎年金と経過的加算額は、報酬がいくら高くても全額受け取れます

一方で、老齢厚生年金が全額支給停止になると、配偶者などに対する加給年金額も支給停止になります。「報酬を高くしすぎると加給年金まで止まる」点は、家計全体で見るときの注意点です。

2. 2026年4月の改正 ──「62万円」と報じられたが、実際の基準額は65万円

改正の根拠と施行 ── 2026年4月1日に施行済み

今回の引き上げは、2025年6月に成立した年金制度改正法(令和7年年金制度改正法・令和7年法律第74号)に基づくものです。日本年金機構の公式ページも更新済みで、2026年4月から、基準額が月51万円から65万円に引き上げられたことが明記されています。すでに施行され、適用されている改正です。

参照:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法

なぜ「62万円」でなく「65万円」なのか

ニュースや解説記事の多くは「基準額が62万円に引き上げ」と報じました。これは間違いではありませんが、正確には 法律が示した基準額(令和6年度の賃金水準ベース)が62万円 だったということです。

在職老齢年金の基準額は毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。62万円という法定の水準に、2024年度から2026年度までの賃金上昇を反映させた結果、令和8年度(2026年度)に実際に適用される基準額は65万円となりました。

  • 法律上の基準額:62万円(令和6年度=2024年度の賃金水準ベース)
  • 実際に2026年4月から適用される額:65万円(令和8年度の支給停止調整額)
  • 基準額は毎年度4月に改定されるため、来年度以降もこの金額は動きます

なお、この「65万円」は、厚生年金の標準報酬月額の上限(現行65万円・2027年9月から段階的に引き上げ予定)とは たまたま同額の別物 です。混同しないようご注意ください。

モデルケース ── 51万円から65万円で何が変わるか

基本月額12万円・総報酬月額相当額50万円(合計62万円)の社長を例にすると、改正の効果は次のとおりです。

項目改正前(基準51万円)改正後(基準65万円)
基本月額+総報酬月額相当額62万円62万円
基準額との関係11万円の超過基準内におさまる
1か月の支給停止額(62-51)÷2=5.5万円0円
受け取れる老齢厚生年金(月)6.5万円12万円(満額)

この社長の場合、改正によって月5.5万円・年間で約66万円、止まっていた年金が受け取れるようになります。働き方を変えなくても手取りが増える、大きな追い風です。

3. 役員報酬と年金を「両取り」する社長への影響

高い役員報酬を取りながら年金も受け取れる余地が広がった

これまでは、役員報酬を一定以上取ると年金が止まるため、「報酬を抑えるか、年金を諦めるか」の二択になりがちでした。基準額が65万円に上がったことで、報酬を取りながら年金も受け取れる範囲が大きく広がりました。役員報酬の設計の自由度が増したといえます。

【注意】報酬が高すぎる社長は、改正後も全額停止のまま

ただし、ここは正確に押さえてください。基準額が上がっても恩恵を受けられるのは、合計額が65万円前後の 中〜高位報酬層 です。報酬が突出して高い社長は、改正後も年金が全額止まります。

💡 ポイント:たとえば基本月額12万円・総報酬月額相当額100万円(合計112万円)の社長の場合、改正後でも支給停止額は(12+100-65)÷2=23.5万円となり、基本月額12万円を上回ります。結果として老齢厚生年金は 全額支給停止 で、基準額引き上げの恩恵はありません。「基準額が上がったから自分も年金がもらえる」と早合点せず、自分の合計額が65万円に対してどの位置にあるかを確認することが先決です。

標準報酬月額の上限引き上げ(2027年9月〜)との合わせ技

実は今回の在職老齢年金の緩和は、同じ年金制度改正法に含まれる「厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げ(2027年9月から段階的に65万円→75万円)」とセットで見る必要があります。高所得の社長にとっては、保険料の負担は増える一方で、年金は止まりにくくなるという、プラスとマイナスが同居した改正です。

4. 企業型DCが「両取り」を後押しする理由

ここからが、社長の報酬設計で効いてくるポイントです。

在職老齢年金の判定は「標準報酬月額」がベース

支給停止の判定に使う総報酬月額相当額は、標準報酬月額(+直近1年の標準賞与額÷12)で計算されます。つまり、標準報酬月額を抑えられれば、総報酬月額相当額が下がり、年金の支給停止を避けやすくなるということです。

事業主掛金は「給与不算入」=標準報酬月額に入らない

企業型DCの事業主掛金は、税務上「給与不算入」であると同時に、社会保険の標準報酬月額の算定にも含まれません。役員報酬の一部を事業主掛金として拠出すれば、その分は標準報酬月額に乗らず、総報酬月額相当額を押し上げません。

選択制DCで報酬を組み替えれば、支給停止を避けやすい

選択制DCを使い、役員報酬の一部をDC掛金に振り替えると、標準報酬月額そのものが下がります。これにより総報酬月額相当額が下がり、在職老齢年金の支給停止を回避・縮小できる可能性があります。

💡 ポイント:基本月額12万円・総報酬月額相当額55万円(合計67万円)の社長は、改正後でも2万円の超過があり、月1万円が支給停止になります。ここで役員報酬の一部を企業型DCに振り替えて総報酬月額相当額を50万円まで下げると、合計62万円となり 基準内におさまって満額支給。さらにDCに回した分は給与として課税されず、会社の損金にもなります。年金・税・社保の3方向で効くのが、報酬を「給与」から「DC」に組み替える狙いです。

報酬を「給与」でなく「DC・退職金」で受け取る設計の意味

役員報酬をそのまま給与で取れば、社会保険料も所得税もかかり、さらに在職老齢年金まで止まります。一方、企業型DCを経由すれば、現役期は標準報酬月額を抑えつつ非課税で積み立て、受け取り時には退職所得控除を活かして税効率よく引き出せます。「いつ・どの器で受け取るか」を設計することが、両取りの本質です。

5. 65歳以降の報酬設計 ── 社長が押さえる実務ポイント

1自分の「基本月額」と「総報酬月額相当額」を把握する

まずは現状把握です。ねんきん定期便やねんきんネットで自分の老齢厚生年金(報酬比例部分)の額を確認し、現在の標準報酬月額・賞与とあわせて、合計が65万円に対してどの位置にあるかを見ます。ここが設計の出発点です。

2役員報酬の水準と賞与の取り方で停止額が変わる

総報酬月額相当額は賞与も月割りで反映されます。月額報酬だけでなく、賞与の取り方によっても支給停止額は変わります。報酬・賞与・DC掛金の配分をセットで考えることが大切です。

370歳以降も対象|働き続けると年金が増える「在職定時改定」

70歳以降は厚生年金の被保険者ではなくなり保険料負担はなくなりますが、在職による支給停止は引き続き適用されます。一方で、65歳以上70歳未満で働き続ける間は、毎年10月に過去1年分の加入実績が年金額に反映される「在職定時改定」があり、働き続けるほど年金額が育っていく仕組みもあります。

4税・社保とセットで「手取り総額」で考える

年金の支給停止だけを最適化しても、報酬にかかる税金や社会保険料まで含めて見なければ、手取りは最大化できません。年金・所得税・住民税・社会保険料・将来の受け取りまでを通して「手取り総額」で判断する視点が、社長の報酬設計には欠かせません。

Q

役員報酬を取っていると、年金は必ず減りますか?

A

いいえ。基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円(令和8年度)以下なら、老齢厚生年金は全額受け取れます。減るのは合計が65万円を超えた場合の超過分の半分だけで、老齢基礎年金は報酬に関係なく全額支給されます。

Q

ニュースで見た「62万円」と「65万円」は何が違うのですか?

A

62万円は法律が定めた基準額(令和6年度の賃金水準ベース)で、これに賃金上昇を反映した結果、2026年度に実際に適用される額が65万円になりました。今、適用されているのは65万円です。

Q

報酬が高い社長でも、今回の改正でメリットはありますか?

A

合計額が65万円前後の層には大きなメリットがありますが、報酬が突出して高く年金が全額停止になる社長には、改正後も恩恵はほとんどありません。自分の合計額の位置を確認することが先決です。

Q

企業型DCを使うと、なぜ年金の支給停止を避けやすくなるのですか?

A

在職老齢年金の判定は標準報酬月額がベースです。事業主掛金は標準報酬月額に算入されず、選択制DCは標準報酬月額そのものを下げるため、総報酬月額相当額を抑えて支給停止を回避・縮小しやすくなります。

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まとめ|在職老齢年金「新常識」3つのポイント

2026年4月の在職老齢年金の改正は、65歳以降も働く社長にとって明らかな追い風です。ただし、押さえるべき「新常識」は次の3点です。

押さえるべき3つのポイント

  • 基準額は「62万円」ではなく「65万円」:報じられた法定基準62万円ではなく、実際に適用されている令和8年度の65万円で判断する。
  • 高報酬の社長には恩恵が限られる:合計が65万円を大きく超える社長は、改正後も全額支給停止のまま。自分の合計額の位置をまず確認する。
  • 企業型DCで「総報酬月額相当額」を制御できる:報酬をDCに組み替えれば、年金の支給停止を避けつつ、税・社保・出口でも有利に働く。

「報酬をいくら取るか」だけでなく「どの器で受け取るか」を設計することが、役員報酬と年金を両取りする鍵です。

参照した公的情報源

【免責事項】

本記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。記載内容は執筆時点の法令・税制に基づくものであり、今後の法改正・制度変更により内容が変わる場合があります。本記事は特定の投資行動・税務処理・法的手続きを推奨するものではなく、個別の状況に応じた専門的アドバイスの提供を目的とするものではありません。実際の導入・運用にあたっては、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家へのご相談を強くお勧めします。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害・不利益についても、株式会社FGパートナーズは一切の責任を負いません。